F35の機種選定について思う | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

F35の機種選定について思う

航空自衛隊が昨年末に老朽化したF4戦闘機の後継機としてアメリカなど9カ国共同開発のF35を選定した。F35は第5世代の戦闘機と言われ、レーダーに映りにくいステルス性を持ち、また空中におけるリアルタイムの情報収集能力が高く、組織的な戦闘力の発揮に大なる貢献をすると言われている。これからの戦闘機の戦闘能力は、ネットワークを通じたリアルタイムの情報こそが決定するのである。従来のように旋回能力や速度が戦闘機の能力を決めるわけではない。そういう意味で我が国の財政が厳しい中でも航空自衛隊が最強の戦闘機を取得する意思を示したことは評価されるべきである。


しかし、一方でF35の選定によって我が国が国家として直面する問題についても認識しておくことが必要である。戦後我が国は、アメリカから戦闘機の図面を買い取って、三菱重工業が戦闘機を造る「ライセンス国産」と言われる方式で航空自衛隊の戦闘機を取得してきた。ライセンス国産方式は、完成品をアメリカから直接輸入するのに比べると大変に高いものにつく。これは国内に戦闘機の製造施設を造る必要があるし、アメリカに対して開発に要した経費の分担金を支払わなければならないからである。我が国の戦闘機の価格はアメリカの約二倍である。しかしこれはやがて国産戦闘機を製造するための技術的準備であり、止むを得ない必要経費として我が国政府が認めてきたものである。


航空自衛隊は米国製戦闘機F86、F104、F4と3代にわたる三菱重工業によるライセンス国産を続け、1977年から三菱重工業が自前で製造したF1戦闘機の運用を開始した。当時はまだ我が国は戦闘機のエンジンを造る能力が低いということでF1のエンジンはロールスロイス製ではあった。しかし、いずれにしろF1戦闘機は戦後我が国が造った国産第1号戦闘機である。その後、1980年代に我が国はF1後継機としてF2を自前で造ろうとしたが、アメリカから猛烈な横槍が入った。アメリカは戦後の日本の経済発展に恐れをなしたのか、「戦闘機は絶対に日本に造らせない!」という方針の下に我が国に圧力をかけてきたのである。私は当時F2開発の直接担当ではなかったが、F2開発の主観部である航空幕僚監部の防衛課で勤務しており、日米交渉の状況などは横から見ることができた。「アメリカがこれだけのカネをかけて開発したものを、日本がそんな安いカネで開発できるわけがない」とアメリカ空軍の大佐が言っていたのを思い出す。余計なお世話だと言ってやりたかった。


航空自衛隊は最後まで国産開発を主張したが、中曽根内閣はアメリカの圧力に屈し、アメリカのF16ベースの日米共同開発に決定された。折角、F1を国産で造ったのにF2では一歩後退である。「これまで我が国は、何故高いライセンス料をアメリカに払って、ライセンス国産をしてきたのか分からないではないか」というのが、我々自衛官の思いであった。このときから日の丸戦闘機の夢は崩され始めたのである。


そして、今回のF35の導入である。これは国際共同開発なので各国の製造分担はすでに決まっている。我が国が後からプロジェクトに参加して製造に参加することが出来るのか。よその国は製造を分担するのに我が国だけが図面の全てを買い受けて、日本で全て造るようなことができるのか。結局は完成機を買わされることになるのではないか。そうなればこれまでライセンス国産などで積み上げてきた我が国の戦闘機製造技術は失われてしまうのではないか。疑問は一杯あるのだ。


私は自衛隊にいる頃から、自衛隊の主要装備品は国産でなければならないと主張してきた。近年では戦闘機、護衛艦、ミサイルシステムなどはシステムが極めて高度化し、システムの半分はソフトウェアが占めているため、装備品開発国の技術支援がなければ動かない。我が国がアメリカなどの開発した戦闘機などを導入すれば、アメリカなどの技術支援がなければそれらは動かない。従ってアメリカから一方的に武器を買っていれば、我が国は外交交渉ではアメリカに対し決定的に不利になる。自国で造った武器を外国に売るということは、相当程度相手国を支配できるということなのである。だから多くの国は武器を出来るだけ輸出をして、輸入は局限しようと努力しているのである。


ところが我が国では武器輸出三原則があり、輸入はいいが輸出はだめだというわけだから倒錯しているというしか言いようがない。しかも武器輸出をしないことが正義であるとの考えを持つ政治家はかなり多いのである。外国から武器を買うならば、当該国に同じくらい武器を売って、相互に相手を支配しているという形を作らなければ外交交渉では必ず負けてしまう。


我が国は現在、日米安全保障条約により、国の守りをアメリカに依存している。武器もアメリカから沢山買っており、航空自衛隊の主要装備品もアメリカ製が多い。日米安保もかつて私のブログで論じたように自動発動ではなく、我が国が攻撃を受けたときにアメリカの自由意志で日本を守るか否かが決定されるのだ。我が国の戦闘機やミサイルシステムもアメリカの技術支援がなければ動かすことはできない。現在の我が国は、アメリカに完全に支配されており、最終的には全てアメリカの言うとおりにするほかの選択肢はない。日米関係を損なえば、中国やロシアに意地悪される可能性が大である。しかし、アメリカはアメリカの国益でしか動かない。そしてアメリカの相対的国力は今後20年ぐらいで相当低下するであろうことも予測される。我が国は、昭和30年自由民主党結党時に、自民党が綱領の中で目指したように、自分の国を自分で守れる体制を造るべきである。


F35の選定は我が国の自立を妨げる恐れが十分にあり、我が国の対米依存をより高めることになる。アメリカの対日基本戦略は、日本を絶対に軍事的に自立させず、経済植民地にしようというものである。冷戦が終わった1991年アメリカは戦略計画の見直しをした。この中でアメリカは経済戦争で日本とドイツをやっつけ
ることが今後のアメリカの最大の戦略目標
であると明記した。



あれから20年が過ぎた―。



日本は改革に明け暮れて、見事に経済戦争に敗れ、世界のGDPがこの20年で二倍になる中、全くGDPが伸びていない。あと20年でアメリカの日本経済植民地化は完成するかもしれない。アメリカは日露戦争後40年かけて、我が国を軍事的に破壊した。第二次大戦後の40年でソ連を政治的に破壊した。そしていま冷戦崩壊後の40年で日本の経済植民地化を完成しようとしている。すでに20年は過ぎた。