官僚叩きの愚 | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

官僚叩きの愚

この20年日本のGDPは伸びていない。しかし、アメリカでも中国でも伸びている。20年前のバブル崩壊時に、まさかGDPで中国に追い抜かれると多くの日本国民は思っていなかったのではないか。しかし今、現実に中国に追い抜かれるような状況になっている。これは日本が諸外国との経済戦争に負けているからである。

冷戦が崩壊した1991年、アメリカでは国家戦略の見直しが行われた。戦略計画の中でアメリカは「これからのアメリカにとっての最大の脅威は、ソ連の軍事的脅威ではない。最大の脅威は日本とドイツの経済的脅威である」と書き込んだ。このときアメリカ中央情報局(CIA)長官は、アメリカの議会で質問され、「これからはCIAの能力の大半は経済戦争を勝ち抜くために使われます」と答弁している。アメリカは、シンクタンクを使って経済戦争に勝つための戦略を作った。そして1993年に宮沢・クリントン会談が行われ、日米間で年に一度、構造改革要求書を交換することが取り決められた。あれから毎年、年次改革要望書と呼ばれる構造改革要求書が日米間で交換されている。アメリカからの要求はアメリカ大使館のホームページ を開けると見ることが出来る。日本からの要求は外務省のホームページ に載っている。


これらを見ると、アメリカからの要求は極めて具体的である。郵政民営化、労働者の派遣法案の作成、会社は株主のものという考え方の徹底、社外取締役制度の設定、談合の防止、更にはアメリカの建築資材を日本で使えるようにするための建築基準法の改正などである。
 

日本はこの十数年アメリカの要求を受けると、これに百点満点の回答を返そうとして努力してきたようなところがある。アメリカの要求を受けると2、3年後には、これが法律になる場合が多いのである。アメリカによる日本のアメリカ化が進行中なのである。これが、日本が経済戦争に負けている大きな要因ではないかと思う。1980年代にジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた、そのシステムがどんどん壊されているというのが現実である。軍事的にアメリカに守ってもらっているという負い目がアメリカの言いなりになっている。

しかし、一方で我が国は喜んでアメリカの要求を受け入れているようなところがある。それは、戦後教育により我が国に左翼思想が蔓延し、国家や企業は悪であり、国民を虐めると考えることである。これがアメリカの要求と微妙に一致している。アメリカの要求は、我が国の企業経営の自由度を制限し、我が国の企業を弱体化するものである。左翼思想もまた個人の自由を最大限にすることを追求するために、企業の経営に手かせ、足かせをはめようとする。このために今、日本の伝統文化は猛烈な勢いで壊されている。しかし、経済も金融も雇用も長い歴史の中で最適化が行われ、我が国の伝統や文化の中には日本国民が幸福になるための知恵が沢山含まれているのである。一時の都合だけで、伝統文化を壊すべきではないのである。



改革、改革と言うが一体いつまで改革が続くのだろうか。日本の政治家は、今多くが改革症候群という病気を患っているようだ。日本の国は悪い国であり、遅れた国であり、一旦全部壊してしまわないと駄目だと思っているように見える。



最近、ブームになっている官僚叩きも改革症候群の一つの症状である。日本の官僚制度が、世界一の無駄を出しているような報道が多いが、世界と比べてそんなことはない。私が知っているアメリカの軍人たちが、退官後どのような再就職をしているかを見ても、日本だけがそんなにひどいとは思えない。どんな制度にも無駄や遊びは必要なのだ。これをゼロにしようとすると、組織は硬直化して仕事の能率は低下するだけである。政治主導と言われ官僚叩きが絶対正義のように言われているが、戦後日本の復興を支えてきたのは官僚制度である。官僚たちが、高い志を持って仕事に向かってくれることが国家を強くする。今の我が国の政治は官僚のやる気を失わせるために全力を傾注しているようだ。一部の官僚が悪いことをしたからと言って官僚の手足を縛っては、もっと大きな損失が待っているだけである。


アメリカや中国が、日本を弱体化するために、官僚制度を弱体化すればいいと考えているかもしれない。官僚叩きが始まった以降、日本は経済戦争に負けている。政治家はもっと官僚を有効活用することを考えるべきである。日本が駄目になり始めたのは政治主導といわれるようになってからである。