世界の軍は国際法で動く | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

世界の軍は国際法で動く

インド洋に派遣されていた海上自衛隊の給油部隊が、テロ特措法の期限切れにより本年1月15日を以って任務を終了し帰国することになった。我が国では自衛隊をインド洋に派遣したり、あるいはイラクに派遣したりする際、その都度、法律を作って自衛隊を派遣している。実はこれは世界の標準から著しく外れたことなのだ。


軍を派遣するのに、その都度、新規立法が必要な国は、世界で恐らく日本だけであろう。このため我が国だけが、何か新しい事態が生じても迅速に自衛隊を行動させることが出来ない。多くの国では、このようなときには、期間の限定はあるにしても、総理大臣や大統領などに軍を行動させる権限が委任されているので、直ちに軍の投入が出来るのである。


世界中の軍は国際法で動くのに対し、我が国では、自衛隊を国際法で動かすことが出来ない。国際法とは「国際法」という名の法律があるわけではない。それは条約と慣習の集合体である。そこでは主にやってはいけないことが決めてある。これとこれはやってはいけないが、あとは何でもできますということである。



すなわち世界の軍は禁止規定(ネガティブリスト)で動く。



これに対し、自衛隊は国内法の縛りを受け国際法で動くことができない。自衛隊の行動は、財務省、国土交通省など一般の官公庁の行政事務と同じ扱いである。自衛隊は、自衛隊法などに行動の根拠を示されたことのみ実施できるだけである。自衛隊は、世界の軍の中で唯一、根拠規定(ポジティブリスト)で動く軍なのである


数年前に、イラクで奥克之大使以下2名が、テロリストにより殺害されたことがあった。このとき、我が国政府の中でイラク大使館の警備に自衛隊を派遣すべきという意見が出た。しかし、政府の中に「自衛隊法に大使館警備という任務が無いので、自衛隊を派遣するのならば、自衛隊法の改正が必要だ」とする意見がかなり多くあった。結果として、我が国政府は自衛隊を派遣することが出来なかった。他の国であれば、すぐに軍を派遣することが出来る。よしんば、我が国がすぐに自衛隊を派遣したとしても、国際的には文句が出るようなことはないであろう。自衛隊も、国際的には立派な軍と認識されているからである。どこかの国が「自衛隊を国際法で動かすな」と、我が国政府に圧力をかけているわけではない。


我が国自身が、それこそ自主的に自衛隊の行動に制約をかけているのである。


自衛隊が国際法で動けないために、我が国は国益を失っていることが非常に多い。我が国以外では、軍は領土、領海、領空の警備を平時から継続しており、不測の事態があっても直ちに行動し、国民を守ることが出来る。しかし、我が国では北朝鮮の工作船が来ても、尖閣諸島などが領海侵犯されても、海上警備行動の発令など、その都度、命令を受けなければ自衛隊は行動することが出来ないのである。但し、領空の警備だけは対領空侵犯措置ということで平時から、航空自衛隊が実施出来るようになってはいるものの、このときの行動基準も、武器の使用が正当防衛、緊急避難に該当する場合に限定されるなど、世界の軍の行動基準とはかけ離れたものになっている。


北朝鮮の拉致被害が、あそこまで拡大したのも自衛隊が国際法で動くことが出来なかったことが大きな要因と言えよう。自衛隊は監視して総理大臣官邸などに報告する以上のことは出来ないのである。国際法に基づけば、警告を無視して我が国領海に侵入を続けた場合、工作船は撃沈される。しかし、もし自衛隊がそれをやれば、自衛官は殺人罪に問われてしまう。


また今日に至っても、拉致問題が解決しないのは、我が国に自衛隊を動かしてでも、拉致された同胞を救出するという覚悟が無いからであろう。私は、6カ国協議に期待しても、拉致被害者を救出することは無理だと思う。もうそろそろ、総理が拉致被害者救出のための準備命令を自衛隊に発出すべきである。そうすれば、北朝鮮が交渉に応ずる可能性はグンと高まる。




自衛隊を国際法で行動させるようにすべきだと思う。これは、総理の靖国参拝などと同じで、我が国が国益を踏まえた外交を実施するかどうかの、リトマス試験紙に見られている。それが出来ない限り、我が国は周辺諸国にナメられている状況から脱出できないのではないだろうか。