7年前に書いた拙著『笑われ力』を久しぶりにめくってみたら、結構いいことが書いてあるので、その一部を引用します。いや、実は、石原壮一郎さんからの受け売りなのですが。


以下引用>>

「笑われ副作用」によって、逆境やストレスに強くなる理由を説明する中で、何度か登場したキーワードがあったことに気付いたでしょうか。

「囚われる」という言葉です。

 

 ちょっとした不都合に囚われ、簡単に絶望してしまう力は、逆境を必要以上に深刻に捉えてしまう「深刻力」と呼べそうです。

 人間関係のちょっとしたささくれに囚われ、必要以上にイライラしたり、傷付いたりするのは、自分の気持ちばかりを大事にして、相手の気持ちを思い計ることができない「自己チュー力」が原因です。

 

 そして、「深刻力」や「自己チュー力」の親分にあたるのが「囚われ力」です。

 

「囚われ力」は、「笑われ力」の対極にある力です。

 本書の冒頭で、「こんな人に読んでほしい」と例を挙げた人たちは、一見何の共通点もないように見えたかもしれませんが、実はみんな、何かに囚われてしまっている人々だったのです。

「笑われ力」が、小さなことに対するこだわりを極力捨て、笑い飛ばそうとする力であるのに対し、「囚われ力」は、小さなことに囚われて人生を窮屈にしてしまう力です。

 

「笑われ力」の副作用で、「深刻力」や「自己チュー力」のような個人的レベルの「囚われ力」を打破できることはすでに説明してきましたが、「囚われ力」は社会的レベルでもはびこっています。

 代表的なものに「悲観力」と「競い力」がありますが、「笑われ力」を応用すれば、これらの社会的「囚われ力」を回避することも可能になります。

 

 

「悲観力」を回避

 

 

 ニュースや新聞を見ていると、「日本はダメだ」、「現代社会は病んでいる」みたいな論調が目立ちます。

 本当にそうでしょうか?

 

 タイムマシンで原始時代に戻って暮らしたいと思う人がどれだけいるでしょうか? 今の生活を捨てて、室町時代、江戸時代で暮らしたいと思いますか? ましてや、わざわざ世界大戦時代に人生をやり直したいと思う人なんていないでしょう。

 

 悲観的な視点に囚われ、自分を取り巻く社会を「ダメな社会だ」、「悲惨な社会だ」と声高に訴え、その社会で生きる自分がいかにがんばっているかをアピールする力を「悲観力」と呼びます。楽しさや希望を見いだせない自分の視野の狭さを時代や社会のせいにして、自分自身は悲劇のヒーローやヒロインになりすまそうとするずうずうしい力です。

 

 自分を取り巻く社会が「悲観力」に囚われているなと気付いたら、悲劇のヒーロー、ヒロインを気取って安心している自分たちを笑ってしまいましょう。そんな社会の風潮ごと「笑われ力」で笑い飛ばしましょう。

 いくら「笑われ力」を振りまいたところで、地球温暖化問題や貧困問題、医療問題などが消えてなくなるわけではありません。しかし、必要以上に嘆いたり、悲観したりして、ますます状況を悪化させるのを防ぐことはできます。

 

「笑われ力」は、ダメな部分を受け入れ、笑い飛ばすことで、冷静な対応をしようとする力でもありました。同様に、「自分も含めた社会」のダメな部分も受け入れ、笑い飛ばすことで、冷静な対応ができるようになるでしょう。

 すると、たいていのことは悲観しすぎることではないな、少なくとも悲観しても仕方ないなと思えてくるはずです。

 

 

「競い力」を回避

 

 

「夢」や「向上心」という言葉は私たちの社会において、とても立派な言葉として君臨しています。「夢」や「向上心」のない人間はダメだとも言わんばかりの風潮です。

 

 しかし実際に、「夢」や「向上心」をモチベーションに、猛烈に突っ走っている人たちにその具体的内容を聞いてみると、「業界No.1になること」だったり、「より高い役職に就くこと」だったりして、ズッコケてしまうことがあります。

 

 人と比較して優位に立ちたいという思いに囚われることを「競い力」と呼びます。

 

 先ほど挙げた「夢」や「向上心」の例は、表面こそキレイに着飾っていますが、一皮むいた正体は「競い力」です。

「勝ち組・負け組」というような言葉は「競い力」から生まれたものです。

 何が幸せか、どうやって生きていきたいかは人によって違うはずなのに、それを社会の共通項的な価値観で優劣を付ける考え方です。

 

 会社の中で、友人関係の中で、目に見えない「競い力」に巻き込まれてしまっていると気付いたら、「笑われ力」の出番です。

 客観的な視点に立って、広い世界を見渡してください。永遠の宇宙を感じてください。

 そして、自分がなんてちっぽけなフィールドで勝ち負けにこだわっているのか、仮にそこで優位に立ったところで、どんな満足が得られるというのかを冷静に考えてみてください。

 バカらしくて笑いがこみ上げてくるようなことばかりです。

 

 人の上に立つことより、人と仲良くすることを大事にするのが「笑われ力」です。

「笑われ力」は、現代の過度な競争社会において、いち早く無益な競争から身を引くための力にもなるのです。



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