村木弘昌著『白隠の丹田呼吸法』を読みました。

$諸行無常-村木弘昌 白隠の丹田呼吸法

白隠禅師は坐禅の修行を重ね、ついには大悟し、悟後の修行に励む決意を固めてからすぐに禅病に悩まされ始める。

鍼灸や薬では治すことのできない症状に苛まれた白隠は、懸命に名医を探し続け、白河山中の白幽仙人の存在を知り、白幽仙人から伝授されたという禅病を克服するための秘法を紹介するために『夜船閑話』を書いて、丹田呼吸法を推奨した。

本書は、『夜船閑話』を読み解きながら白隠を苦しめた禅病と丹田呼吸法のシンプルなメカニズムを医学的に解明し、その意義を踏まえた上で、いかにして実践すればよいのかを解説している。

白隠は『夜船閑話』の中で、「心火逆上し、肺金焦枯して、雙脚氷雪の底に浸すが如く」と禅病の症状を描写しているのであるが、血が頭に上り、肺の血液が枯れ果てたような胸の苦しみを味わい、足先が凍ったように冷えた状態に陥るのは、かなり過酷なことなのではないかと思う。

これら症状が、努責(胸一杯に息を吸い込んでからいきみながら息を止めること)を最高の呼吸法と勘違いして繰り返した結果、引き起こされたことに白隠は気づくのであるが、そのメカニズムはシンプルだ。

肺の中の圧力が高まる結果、下半身から心臓に還るべき静脈血が戻ってくることが困難となり、その結果、肺の中で血中からの二酸化炭素の排出と、血中への酸素の取り込みも困難となり、その弊害が全身に広がる状態こそが、禅病の正体である。

その点、息を吐くことにのみ専念し、息を吐きながら下腹を膨らませる丹田呼吸法は、下半身の静脈血を肺に吸い上げ、大量の二酸化炭素の排出を促し、同時に大量の酸素を取り込ませ、禅病に対し根本的な効果を発揮するのであるが、白隠は、これを実践することにより、五臓六腑の病や神経衰弱、その他の病気が根こそぎ治らなければ、「老僧が頭を切り將ち去れ(私の頭を切って持っていけ)」とまで述べているのであるが、現代の医学的な知見を踏まえても、確かに、数多くの症状に対し、予防や治癒に役立つという原理が理解できる内容。

実際に丹田呼吸法をやってみる方法が記載されているのは、わずかなページ数のみであり、それだけ簡単にやれる、ということでもあるが、大半のページ数は、理論をしっかりと踏まえることに費やされており、内容的に興味深いだけでなく、何かを実践する際、その目的と役割を論理的に理解することの大切さを実感できた。

ヨガの実践の中で行う腹式呼吸は、息を吐く際、お腹を凹ませて横隔膜を引き上げることによって、肺の中から空気を吐き切るのであるが、それとはやや異なり、息を吐きながら下腹を膨らませのが丹田呼吸法。

腹式呼吸の場合、息を吸う時はお腹を膨らませ、横隔膜を下げながら肺に空気を吸い込むのであるが、丹田呼吸法は、息を吐き切った後、ただ自然と肺に空気が入ってくるのに任せるだけ。

電車の中で座れた時とか、職場とか、座っている時には、いつでもどこでも簡単に実践できるので、ふとしたタイミングに実践を続けている。