この映画、いちおうB級になっているが、A級になり得ただけの要素があり、ちょっと残念な気がする。というのは、基本設定が不条理っぽかったのに、なかばあたりですべて理詰めになってしまうのだ。


 未見の人は、ぜひ、頭のなかで、舞台となるブッシュウィックをウクライナに、黒ずくめの兵士たちをロシア軍に置き換えて観てほしい。そうすると、ものすごい臨場感が味わえるし、映画もたいへんな傑作に見えてくる。
 

 とにかく、突然戦闘状態になって右往左往する住民たちが、いきなりなんの理由もなくロシア兵に殺されていくウクライナ国民に見えてきてしょうがない。最初のほうはわりと不条理劇っぽいテイストがあるが、ウクライナ国民が置かれた情況もある意味で不条理ではなかっただろうか。住民たちはなにも理由を知らされていない。ただ逃げ惑うしか方法はないのだ。ギャングとか、チンピラたちとかはそれでもこの機に乗じて悪さをするのだが、この混乱はまさにいきなり侵略されはじめた国の非戦闘員が置かれた立場なのだ。
 

 戦争なんてものは、すべて不条理なのだ。
 

 実際には何カットにも分かれているが、ワンカットがすごく長く、まるで『1917』のようなテイストである。ただし、制作年は『ブッシュウィック』のほうが先。もしかしたら『1917』の制作陣に影響を与えたのかな? それを考えれば、徹底的にワンカットにすればよかったのだ。それだけで話題になっただろう。
 

 いきなり戦闘状態に巻き込まれるのが不自然と思う人がいるかもしれないが、いきなりミサイルが飛んできて家が破壊されたり、道を歩いていていきなり狙撃兵に撃たれたりと、戦争などというものはすべて「いきなり」状態なのである。この映画でも、戦闘ははじまったばかり。これから侵略しますよなどと予告もしてもらえないし、空襲警報も鳴らないし、わけがわからないまま逃げ惑い、死んでいくしかないのである。その状況がよく伝わってくる映画だ。
 

 出演者もそんなに有名とは言えない俳優陣だし(映画ファンなら知ってるかも)、監督も知らない人だが、B級にとどめておくのが何とももったいない。やり方しだいによっては、あるいは宣伝しだいによっては、超A級になったかもしれない、惜しい作品である。プーチンに見せたくてしょうがない。