「夜明けのスキャット」
作詞 山上路夫  作曲 いずみたく
歌 由紀さおり(1969年3月10日東芝/エキスプレス)




1969(昭和44)年3月10日。それまでの日本の流行歌の常識を覆す、革命的な「歌謡曲」がリリースされました。由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」は、ワンコーラス目の歌詞が「ルルルルル~」だけの、スキャット形式によるユニークなスタイルと、実に美しい由紀さおりさんの歌声が、聴くものを魅了して、時代を象徴し、時代を作る、新しい歌として、大衆に受け入れられました。

この曲はもともとラジオ番組のテーマ曲です。TBSラジオで、平日夜22:40~23:00にかけてオンエアされていた「夜のバラード」という詩の朗読番組で、音楽をいずみたくが担当してました。俳優の清水紘治と吉田日出子が、吉岡治らの詩や、リスナーからの詩を朗読するというもので、朗読のBGMに相応しく、歌詞のないスキャットのみの楽曲でした。ところが、リスナーからの大きな反響もあり、常に新しいサウンドを創出し、その可能性を模索していたいずみたくさんが、レコード化を東芝に持ちかけます。

そこで、歌謡曲として成立させるため、山上路夫さんが歌詞のある「2コーラス目」以降を作詞、「夜明けのスキャット」のレコードヴァージョンが完成します。発売は70年代、ニューミュージック・ブームを発信するエキスプレス・レーベルからでした。クラシックでいう”ボーカリーゼ”唱法で、「1コーラス目」をスキャットだけで押し切ってしまう、大胆な試みは、それまで「歌には歌詞があるもの」と思っていた人々に、あらゆる意味でショックを与えたと思われます。

事実、子供だった僕も、歌詞のない歌詞に驚き、それゆえ、この歌を「もっと聴きたい」と思って、テレビの前に座っていたことを、よく覚えています。このショックは、来るべき1970年代を席巻する、新しい歌謡曲の時代の幕開けでもありました。

由紀さおりさんの素晴らしいところは、それからも、ずっと、こうした心地よいショックを与え続けてくれることです。今年、由紀さおりさんの40周年プロジェクトをお手伝いしていて、それを改めて実感しました。

さて「夜明けのスキャット」は、もちろん、1969年を代表する曲として紅白歌合戦でも歌われ、空前の由紀さおりブームが到来するわけです。この曲について、サイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」と似ている、という味方もありますが、よく聞き込むと、まったく別な”サムシング”があるのです。その”サムシング”こそが、由紀さおりであり、いずみたくなのです。僕らを惹き付けてやまない、”サムシング”が、この「夜明けのスキャット」にはあります。



いずみたくさんの”実験”の早さは、由紀さおりさんの第二弾シングル「天使のスキャット」のカップリング曲「タ・ヤ・タン」を聴けば、一目瞭然です。「タ・ヤ・タン」という不思議な言葉が心地よいリズムとなり、「私はギターなの」という、とてつもない例えにたどり着きます。この曲、一度聴いたら、忘れられません。



そして「タ・ヤ・タン」を、アメリカのオーケストラPink Martiniが日本語でカヴァーしている話は、以前にもブログで書いた通りです。



http://toshiakis.at.webry.info/200907/article_3.html

さて「夜明けのスキャット」ですが、今年、7月、タワーレコード限定でシングルとして復刻されました。

http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1959031&GOODS_SORT_CD=101

http://toshiakis.at.webry.info/200906/article_2.html

これもまた「スタンダードナンバー~オトナの歌謡曲~」で歌われる予定です。

https://ticket.kyodotokyo.com/jigyo.do?jigyoBango=9Y27&unitCode=671

日本のポップスを確立した3人の作曲家、
中村八大・いずみたく・浜口庫之助の
名曲を歌い継ぐコンサート。

2009年11月24日(火)新宿文化センター大ホール
開場18:00 開演:18:30

出演:由紀さおり/遊佐未森/今野英明/バンバンバザール/土岐麻子/羊毛とおはな/中山うり/藤澤ノリマサ/中村中/阿部芙蓉美
演奏:鈴木総一朗
総合司会:柿木央久