私が、一念発起して売り払った愛車ほど、音楽を吸い込んだ

自動車はないのではないかと自負しています。もちろん、世の

中には、とんでもない上手がいることはわかっていますから、

そのことを誇ろうとは思いませんが。

 私が、ベートーヴェンの編曲したスコットランドやアイルランド

の民謡を、何度も何度も繰り返して聴いたのは愛車の中です。

スカルラッティの555曲のソナタ集も、何十回と聴き惚れていま

した。運転中のBGMですから、運転の方に集中しているはず

なのですが、いつの間にか音楽に惹き込まれているのです。

 いえ、正直に白状すると、音楽に集中しながら、ときどき運転

に気を取られているのです。考えてみれば、何とも危険な運転

をしていたものだと反省しています。絶対にマネしないで下さい。


 「誰が唱っているの?外人さん?やっぱりいい声よね。」

 「これチェンバロ?ほっとするわね。」


 母は買い物に行くわずかな時間、愛車に響く音に反応してくれ

ました。積極的に音楽を求めようとはしませんでしたが、幼稚園

に行かせるお金はなくとも、ヴァイオリンを習わせてくれた母です。

ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が好きでした。

 

 四国の足摺岬に二度も行ったこと。九州の久留米に日帰りした

こと。東京にいる娘に会いに行ったこと。愛車が遠出をしたのは、

その程度しかありません。その前の自動車では、東北、北陸、

山陰、九州など、あちこちに取材などで行っていたのですが。

 その意味では、はっきりした目的のある愛車でした。その目的

は、もう二年前に消えてしまったのです。そして、いろいろ考えた

末、すっきりと手放すことにしました。

 運転しながらの音楽鑑賞は、これで遠い想い出になってしまい

ます。最後に、私が愛車の中で発見したドビュッシーの「小組曲」

を、この記事に貼付して、哀しい余韻を愉しみたいと思います。


[ご参考①] 「小組曲」です。ピアノ連弾が原曲のようです。私が

        聴いたのは管弦楽版で、冒頭のフルートの音色が、

        とても印象的です。何故か、あまり You Tube には

        アップされていませんでした。2分30秒あたりから、

        演奏が開始されます。

http://www.youtube.com/watch?v=2UFUB2Pigz8


[ご参考②] ピアノ連弾もいいですね。カサドシュ夫妻の名演です。

http://www.youtube.com/watch?v=JFa5g1dNn6E