この「しりとり物語7」というテーマのBlogでは、2016年4月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~3ヶ月休暇」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。


3ヶ月休暇~第7話「ボウリング」

休暇は折り返し地点を迎えた。退職した身で休暇を名乗るのもおかしな話だが、自分の中で3ヶ月休暇と決めたのだ。区切りをつける意味もあったが、早期退職優遇制度の利用により、3ヶ月分の給与が上乗せされたことがきっかけだった。

春の晴天に誘われ、車を出す。気がつくと工場の近くに来ていた。少し気まずさも覚えたが、今は平日の昼間だ。誰かに会うこともないだろう。更に車を走らせると、右手にボウリングのピンが見えてくる。工場で働いていた頃、仕事終わりにみんなで行ったボウリング場だ。屋外の駐車場に車を停める。

「一人ボウリングか…まあ、たまには体も動かさないとな。」

空いている時間なのは、気持ちの上で好都合だ。靴を借り、ハウスボールを手にすると、レーンに向かった。

待ち時間のないボウリングは、思いのほか疲れるものだった。時折座って休みながら、自分のペースで投げる。思い出される景色はやはり、仕事仲間と来ていた頃のものだった。

「だらしねぇなぁ!男ならスパっと言っちまえよ!」
「いや…そうなんすけど、もしフラれたら、次の日から気まずいじゃないっすか。」
「だから、社内恋愛はやめとけって言っただろ?」
「でも、他に出逢いの場、ないっすもん。」
「よし、分かった!次の一投にかけろ!」
「何をっすか?」
「ストライクなら告白!それ以外なら諦める!」
「え~!!そんな大事なこと、ボウリングで決めらんないっすよぉ~!」

あの時は、彼がウダウダしているうちに、工場で一番の腕前を持つ先輩が、突然立ち上がってボールを掴み、アッサリとストライクを出してしまった。その結果、彼は半ば無理やりに告白をさせられることとなったが、幸い返事はOKで、後日ストライクを出した先輩に食事をおごったらしい。

「次の一投にかける…か。」

僕の選択は正しかったのか?馬鹿げていると思いながらも、そんなことを考えながらボールを投じた。右から2番目のスパットを通り、左に緩やかなカーブを描く。少し力が入ってしまったのか、ボールは狙い以上に曲がり、1番ピンに対してやや深めに入った。それでもピンアクションに救われ、9本が倒れた。残った右奥の10番ピンはまだ揺れている。どっちだ?ストライクか?9ピンか?ところが、祈る僕をあざ笑うかのように、10番ピンは降りてきたピンセッターに当たって倒れてしまった。

「結局、自分で決めろってことか…」

(つづく)

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ぐい呑み