あらすじと、登場人物
麻友は、一人っ子で思春期を過ぎる頃までそだった。
父が死に、やがて、残された母のお腹には後に麻友の弟になる子が宿っていた。
麻友は、自分の感情をあんまり表に表わさない子だった。
そして当然、恋に興味のあるはずの年頃にも、興味を示すでもなかったがあるとき、突然結婚したいと思う男性にめぐり合った。
パートナーの居るその男性を、無理やり自分の結婚相手に決めてしまった。
結婚したものの、夫婦の気持ちは決して絡み合うことがなかった。夫は依然、自分の心に決めた人と会っているようだ。
母が突然、帰らぬ人になって。
そして、麻友の心は…
麻友
泰敏 麻友の夫
母 雪子 世間からは良妻賢母という評価。家庭は円満。
啓介 麻友の16歳年下の弟
良一 啓介の親友
和子 良一の母
那智 良一の父
智之 まだ、明かせません…はいもうわかりましたね。
初子 麻友の伯母
その他、登場人物が増える可能性あり。
麻友は、どうしてあの時良一にケイタイのアドレスを教えてしまったのだろうかと思う。
麻友の心の中に、寂しさをずっと溜めていたのだろうか。
麻友の心に隙があったのだろうか。
子供だから、また、啓介の親友だからという軽い気持があったのは確かだった。
ただ、それ以外の好奇心がなかったかといえば、それは嘘になる。
漠然とした未知への期待が息づいていたと、麻友はあとになって思い返すのだった。
始まりはいつだって、漠然としている。
普段何気なく見過ごしていることに重大な事柄がかくされていたりする。
ともかく麻友はその時は軽い気持でアドレスを交換した。
次の週末も、麻友は実家に出かけた。
そして、そのうち週末は殆ど、自宅で過ごすことがなくなった。
そのたび、良一も漏れなく実家に訪ねてきた。
泰敏との間は前にも増して意志の疎通がなくなってしまった。
麻友も泰敏に期待するものもなくなった。多分泰敏も同じことだろうと思う。
泰敏が静子とどうなったのか、名もしらぬ、泰敏が孕ました(はらました)と言う若い女の子と、その子がどうなったのか、麻友は知らなかった。
知りたくもなかったが、泰敏は話さない。そして麻友も、訊きはしないのだった。
それでも、ふたりは同じ屋根の下で暮らしていた。
麻友は、家事は抜かりなくこなした。
泰敏も、不満は何もない様子だった。
外から見たら表面的には何も問題のない家庭に見えることだろう。
麻友は、近所の人達からはいいご身分の奥様というふうにみられているのだろうと思っていた。
麻友は、平日は相変わらず図書館に通っていた。
その年の梅雨は、長かった。
来る日も来る日も、見上げる灰色の空から雨が滴り落ちてきた。もう3週間も太陽を見ていないような気がした。
いつもの年だと梅雨明けの声も聞く頃なのに、雨こそ降らなくても、曇り空は続いていた。
湿度は高く、気温もかなり高くなってきていた。少し歩いても汗で肌がべとつく。
そんなときでも、図書館は快適だった。
麻友は、図書館に行くと先ず新聞を何種類か読む。
図書館に通い始めて、気になることがあった。
高齢の、男性がかなりの数、フロアーの座席を占領している。
麻友はそれとなく観察しているのだが、その人達は目当ての新聞を読み終えると、今度は居眠りを始める。
麻友と同じで、快適に時間を潰せると思って通ってきているのだろうかと思う。
家事をやり終わってからいく麻友が到着する頃は席は彼らに占領されている。
麻友が学生の頃、こんな光景は見られたのかどうか麻友は思い出せなかった。
良一から、メールが来たのは、梅雨明けが宣言された7月の半ばの事だった。
麻友は、図書館を出た時だった。
良一とアドレス交換したことを忘れていた麻友は、それが良一からのものだと飲み込むのに時間がかかった。
交換してから初めてのことだった。
麻友の心臓がコトコトと音を立てていた。
今日はここまで 続く
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