その5 からの続き)

そんなある日、僕がうちに帰ってくると、母が言った。

「あんたあ、川田君、知っとるじゃろ。」


「川田?うちのクラスの?」


川田というのは、うちのクラスのちょっとぼうっとしたところのある子だった。彼は2年前に静岡から広島に転向してきた子で、地元の子ではなかった。


「ほうよ。んでね、川田君とこ、3月で郊外に引っ越すんじゃて。」


「なんでえ。」


「お母さんが川田君をうちの中学に行かせるんがいやみとうなよ。悪いのが多いけんね。」


「ふうん。」


僕はどうでもよさそうな返事をした。


川田のお母さんというのは教育ママとして有名な人だった。どこか神経質そうな人で、川田の話によると、僕たちが遊びに行って帰るたびに、あとでヒステリを起こしては、「あの子らを二度とうちにあげたらいけんよ」と言っているらしかった。それで、僕たちも彼のうちにはあまり行かないようにしていた。それで、母から上の話を聞いたときには、僕はなるほどと思ったのである。



さて、3学期になり、一部の生徒の机が空席になっていることがあった。彼らは受験などで欠席しているらしかった。


ある日、藤本の席がぽつんと空いていた。その日の昼休み、僕は何となく彼の机の角をなでてみた。


次の日、彼は何ごともなかったかのように登校した。受験について何も触れず、僕たちはいつものように漫画やアニメの話をしていた。


その後、数日前に地元の一流中学を受験した生徒が、昼過ぎに登校してきて、教室に入るなりガッツポーズをした。僕らは「おお!」と歓声を上げた。しかし、それ以外の生徒については、受験合格の話はあまり聞かなかった。藤本も特にそういう話をしないから、おそらくは落ちたのだろうと僕は思っていた。でも、それならそれでよかったと思った。また、地元の中学で一緒に遊べると思ったから。



その7 に続く)