妄想少女
汐里
講談社モーニングKC

私神宮寺花音には
明確な"理想"があります



第64回ちばてつや賞受賞作
一巻完結の単行本です。

この物語で描かれるのは、純粋故の狂気。
夢見るお姫様の抱く狂気。
そういうものにも人は惹かれてしまうのですね。


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とある女子校きっての清楚な美少女、神宮寺花音(じんぐうじかのん)。
彼女は、担任から恒常的に痴漢行為を受けていた。
しかしながら、彼女はその行為を受けることが嫌ではなく、むしろ密かに興奮を覚えていた。


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花音は、小さい頃に読んだ童話の内容に強い憧れを抱いていた。
それは、お姫様が野獣をその醜さにも関わらず愛したことで呪いが解けて王子様に戻る物語。
故に、彼女は痴漢されることに悦びを覚えていたというよりは、痴漢を行う男の歪さ・卑劣さを愛しんでいた――


小さい頃に読んだ物語に憧れを抱く。
それ自体は普通のことです。
そんな所から始まるファンタジーも幾らでもあります。
しかし……それがどうしてこうなった

花音は、醜い男が彼女のタイプ。
何故ならば、その醜さを愛せば王子様に変身してくれると頑なに信じていたから。
その為、痴漢や盗撮魔を見付けてはときめきを覚え、自ら積極的にお近付きになろうとします。
うん、素晴らしいですね。

花音の恋愛観は、一般的に言えば倒錯的であり、逸脱したもので、危ういです。
実際、歪な性向の男にばかり惹かれる彼女は、作中でも何度も危険な目に遭います。
現実なら、蹂躙されて夢から醒める所でしょうが、その点でこの物語は夢見る乙女のフェアリーテイルでもあり。
通常、世のメインストリームと相容れない価値観は駆逐されるのみです。
ところが今作では狂気的なものを描きながらも、世界はその異端さすら受け入れる懐の深さを孕んでいることを提示してくれます。
それは即ち、マジョリティではなくとも世界のどこかに居場所はあるという可能性を示してくれる異端に優しい物語。

又、実際に無償の優しさによって矯正できる歪さもあるはずであり、その意図の根源はさておくとしても彼女の行為が100%間違っているとは言えません。
そこには救済の可能性があります。
その意味では、やはり彼女は清らで尊いとすら。

色々と考えさせられる、良い問題作です。

とりあえず、黒髪ロングストレートのお嬢様に上気し恍惚とした表情で「あなたは筋金入りの獣(ケダモノ)です」と云われてみたければ、是非読んで下さい。

しかし、カバー裏のオマケが切ないです……


75点。