阿・吽 1巻
おかざき真里
小学館ビッグコミック

空は全ての人間を包み…
時空を越えて人を繋ぐものが
学問であるよ。
素晴らしい思わないか?
世の中は美しい!


『サプリ』や『&-アンド-』のおかざき真里先生最新作のテーマは、最澄&空海!
この二人を、エモーショナルに激しく描いて行くこの物語は、今月の中でも屈指の作品です。


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後に信長によって焼き討ちに遭う、比叡山延暦寺の開祖、最澄。
彼が広野と呼ばれていた頃から物語は始まります。



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一方、後に弘法大師として名を馳せ、真言宗の開祖となり、高野山金剛峯寺を興す空海。
彼はまだ真魚と名乗っていた頃。
仏教史上の重要人物二人がテーマとなる歴史物、というと読み手を限定しそうなイメージが生まれそうですが、そんなことはありません。

最澄も空海も、社会によって規定された「あるべき人生」を拒否するアウトローとして描かれます。
現代で言えば、幼稚園から有名私立を受験して、勉強して、良い大学に入って、大企業に入ったり公務員になったりして安泰、のような一般的に理想とされる道筋。

しかし、彼らはそれを良しとません。
持ち前の才覚を通常の生き様では活かし切れない、何より己が心がそれで満足を許さないことで、それぞれ常道から外れていきます。

これは、現代社会においても起業や自営、芸術・芸能など己が信ずる道に生きる多くの人間に響き得るものです。
あるいは、普通に生きる人にも、それを理想としつつも叶わなかった人には特に、その眩しさと熱に感じる物があるかもしれません。

「耳をすませば」の雫の父親は「人と違う生き方はしんどいぞ」と云っていました。
されど、そのしんどい道の先にしか見えない景色があるのも事実です。
そんな苦難の道を選び取って大成した二人の男の物語だと思えば、親しみも湧くのではないでしょうか。

とはいえ、二人とも稀代の人物であり、紛うことなき天才。
今作で描かれる数々のエピソードの一つ一つに重みや凄味を感じます。


そうして、それぞれに育った二人の運命的な邂逅の瞬間。


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その見開きの美しさ、荘厳さは、そのまま真魚の感動を言葉無しに伝えてくれます。

基本的なコマ割りは少女マンガ的です。
表情の描き方や比喩表現も相まって、心理描写が秀逸な今作。
常に植物が前面に出て来て彩りを与えてくるのも印象的。
尚且つ、大胆で勢いのある見開きや大ゴマの使い方は少年マンガ的な要素も感じさせます。
その緩急が、とても爽快。


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空海が都に着いた時の描写なども、独特の迫力があります。
生き霊が文字として見えるという描写ですが、この時代の人の世に溢れる怨嗟や苦悶の象徴とも言えます。

時代を、世界を変えて行くこの二人の天才が出逢ってしまった今後。
やがては対立し、別れることになる二人の行く末に、
否が応でも高まります。

最澄の一番弟子となる泰範も、表向きは柔和な笑顔で人に好かれながら「こんなクソみたいな世界早く壊して欲しい」と望む危ないキャラ。
他の弟子たちなどもどう描かれて行くのか、楽しみです。

仏教や最澄・空海に興味がある方は勿論、興味がなくても面白い漫画を読みながら勉強にもなると考えると良い一冊だと思います。
お薦めです。


80点。


余談
最近では、空海が若い頃に歩いたとされる吉野山から高野山までの道程が、「弘法大使の道」として55kmほどのトレイルランニングのコースになっています。
又、金峯山寺と金剛峰寺の修験者を中心に、記録に残っている空海の足跡と同じ日数をかけて「懺悔懺悔」「六恨清浄」と唱え、法螺貝を吹きながら歩いて行く行も。

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吉野金峰神社付近からの朝焼け。
空海も1000年以上前に同じような景色を見たのでしょうねぇ。
もしかしたら同じ場所で、などと考えるとロマンがあります。


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弘法大師の道の一部。
私も一度、走ってみたいです。
そして高野山でAIR SUMMER編の曲を聴きながら、自然と一体化したい(笑)