森の中書店つれづれ
伊蔵ユズコ

なんというか人は
嬉しさには逆らえないんです


LaLaオンラインで1話と6話を読めます。

いくらは好きなものの柚子はそんなに、という伊蔵(いくら)ユズコ先生の初単行本は、書店を舞台にした連作ショートストーリー。


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田舎でも都会でもない、ありふれた街にある森の中書店。
個性豊かな書店員の一人である山田くんを主人公に織り成される短編集です。

『ロッポーゼンショ』を探し求める小さな子供、偏屈な老人とその妻、ある事情で立ち読みをし続ける女子高生、地元に住むブレイクしきれない小説家、読書少女が気になる男子高生……
様々なお客様と、書店員と本の物語。
たかが本、されど本。
その一冊が人々の感情の媒介となり、契機となり、絆となって行く……
その在り様に、心がじんわりとします。

大きな決めゴマによって表される、暖かな想いがとても良いですね。


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仕事に精を出さない店長も、しかし言い掛かりに近いクレームに笑顔で対処する大人。
接客を行う人間としては、学ぶべきポイントがあります。
書店員の方には、尚更様々なあるあるや共感するネタが沢山込められています。

出版業界は斜陽でありながらも、より多くの新刊を刷り続けて新刊スペースを確保しないと会社が死ぬということで、最近は年々出版物の点数も増え、その分書店員さんの負担も増しているという負のスパイラルです。
そんな、書店員さんの苦労も感じ取れる内容。
私の利用する小売書店も、潰れてしまった所が多いので、素敵なセンスある棚を作っている書店さんには頑張って頂きたいな、と個人的な想いも馳せつつ……


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有名な文学賞にノミネートされながらも、独特の外連味ある作風で一般受けはしない作家のこの一言に、深く頷きました。
面白い本が売れるのではなく、売れる本が売れる時代。
であるからこそ、売れていないけれど面白い本を発掘し、紹介することで某かの一助にでもなりたいという想いを新たにしました。

最近読んだ記事で、「少ないコストで最高の対価を得る方法」として、「人に薦められた本を買って読む」というものが紹介されていました。
精々1000円ちょっとと数時間で、知慧と共通の話題、共感と信頼を得られるのだ、と。
言われてみて、成る程な、と思いました。
自分の薦めたものをしっかり受け止めてくれたら、それだけで嬉しいですからね。
だからと言って、私が紹介しているマンガを全部読め、とは言いませんけれど(笑)
気に留めて置いてもいい言葉だと思います。

全体的にハートフルで優しい作風で、読後感の良い作品です。
書店という存在に興味がある方、『本屋の森のあかり』などが好きな方も、優しいお話が好きな方にも、お薦めです。


70点。