ジャ・ジャンクーの「罪の手ざわり」を観た! | とんとん・にっき

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ジャ・ジャンクーの「罪の手ざわり」を観てきました。実は公開されてすぐ、6月6日に一度観ているのですが、なんとも分かりづらい作品で、もう一度観直してみたいと思ったわけです。現代中国の社会を荒々しく切実な映画で、4つの実際にあった事件を凝縮した「暴力」をテーマとした作品です。で、観直してこの映画が分かったのか、といわれるとなんとも心許ないのですが・・・。


ジャ・ジャンクーの作品は、最初に観た「長江哀歌」(2006年)で強烈な印象を受け、3度ほど観ました。その後、「青の稲妻」(2002年)「世界」(2004年)を、溯るようにTUTAYAで借りてDVDで観ました。「四川のうた」(2008年)は劇場公開で観ました。


村の共同所有だった炭鉱の利益が実業家に独占されたことに怒った山西省の独身男・大海(ダーハイ)。妻と子には出稼ぎだと偽って各地を転々とし強盗を繰り返す重慶の男・周(チョウ)。しつこく迫る客に我慢できずに切りつけた湖北省の風俗サウナの受付嬢・小玉(シャオユー)、広州に住む既婚男性と恋愛している。広州にある縫製工場を辞め、高級ナイトクラブのボーイとなり、ダンサーとの恋に苦悩する広東省の男・小輝(シャオホイ)。


中国の社会問題は、結局のところ経済問題です。それぞれにお金が関与しています。この4人は独自の暴力に訴えて、経済的な問題を解決しようとします。人間としての尊厳を守るためには暴力しかないと思わせます。最後の小輝は「自殺」でしたが・・・。4人の話はそれぞれ独立しているようにも見えますが、彼らが移動し、旅の途中の風物が映し出され、経済的な繁栄とは無縁な表情を見せて、ささやかな接点を持ちます。


印象に残るのはなんと言ってもジャ・ジャンクーのミューズ、チャオ・タオです。僕の知る限り、ジャ・ジャンクーの作品にはすべて出ている女優です。客に札束で何度も何度も殴られて、行為を迫られる風俗サウナの受付嬢です。不倫している男が金属探知機で引っかかったナイフを持っていたことで、執拗な客をナイフで刺してしまいます。不倫相手の男が乗った新幹線が、事故を起こしたというニュースがテレビで流れたりもします。路上で京劇が悪に対する暴力と罪の問題を演じていたりもします。


「暴力」と言えば北野武監督、かどうかはともかく、オフィス北野が制作に参加しています。


ジャ・ジャンクーは、インタビューに答えて次のように言う。

中国で現実に起こった4つの事件を元にした。これらを「武侠(武術家が主人公の中国で伝統的な娯楽ジャンル)」で表現しようと思った。4人の主人公は「水滸伝」の魯智深や武松のイメージです。(数々の暴力が登場し、しかしいずれもプロのヤクザの仕業ではない)。それが現代中国で最大の問題なんです。富の配分がここまで不公平になると、自分だけが得るべきものを得られていないとの憤りを、誰もが持つことになる。(ジャ監督はリアルトシュールレアルが混在するのが今の中国だ、という意識を持っているのか)。シュールを意識したのは06年の「長江哀歌」から。何もなかった農村の真ん中を、新幹線の鉄路がドンと貫く。そんな風景をみると、僕は異界に来たと思えて仕方がない。シュールが現実に入り込んできているのが、今の中国なのだと思っています。

(朝日新聞:2014年5月13日)


以下、とりあえず「シネマトゥデイ」より引用しておきます。

チェック:『長江哀歌(エレジー)』などで世界的に評価の高いジャ・ジャンクー監督が、実際の事件を基に変化を遂げる中国で必死に生きる人たちを描くヒューマンドラマ。実業家に利益を吸い上げられてきた山西省の炭鉱作業員、職を転々としながらホステスとの恋に苦悩する広東省の若者ら4人の平凡な男女を通して、中国の現代を浮き彫りにする。出演は、ジャ・ジャンクー監督作品に欠かせないチャオ・タオなど。急激な発展の陰で虐げられる人々の営みや、彼らが抱えるかなしみや怒りが心に響く。

ストーリー:山西省の村で共同所有していた炭鉱で、利益を吸い上げられてきた炭鉱作業員(チアン・ウー)。重慶の妻子に出稼ぎとうそをつき、仕送りを送る強盗(ワン・バオチャン)。かなわぬ恋を続けて年を重ねきた湖北省の女(チャオ・タオ)。職を転々とし、ナイトクラブのホステスとの恋に思い悩む男(ルオ・ランシャン)。虐げられてきた彼らはついに事件を起こしてしまう。

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「罪の手ざわり」公式サイト


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