芥川賞に円城塔さん・田中慎弥さん 直木賞に葉室麟さん | とんとん・にっき

芥川賞に円城塔さん・田中慎弥さん 直木賞に葉室麟さん

芥川賞に円城塔さん・田中慎弥さん 直木賞に葉室麟さん



 第146回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が17日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞に円城塔さん(39)の「道化師の蝶(ちょう)」(群像7月号)と田中慎弥さん(39)の「共喰(ぐ)い」(すばる10月号)、直木賞には葉室麟さん(60)の「蜩(ひぐらし)ノ記」(祥伝社)が選ばれた。副賞は各100万円。授賞式は2月中旬に東京都内で開かれる。

 円城さんは大阪市在住。東大大学院博士課程修了。専攻は物理学。2006年、SF小説でデビュー。芥川賞候補は今回で3度目だった。

 受賞作は5章構成。各章ごとに違う「わたし」の視点で語られる。「着想を捕まえる虫取り網」を軸に、時も場所も登場人物も変化しズレていく小説。円城さんは「小説は色々あるので(私の作品も)広めていいと判断して頂けた。ただ、分からないという人がいるのは力不足。精進します」。

 田中さんは山口県下関市在住。県立下関中央工業高卒。5度目の候補だった。

 受賞作は、昭和末期のよどんだ川のある町が舞台。多感な17歳の高校生の視点で、父や自らが抱える暴力と性の問題を鮮やかに描き出した。

 田中さんは「シャーリー・マクレーンがアカデミー賞をもらった時、『私がもらって当然だ』と言ったが、大体そんな感じ。4回も落とされて、断るのが礼儀だが、私は礼儀を知らないので」と話した。

 芥川賞は、選考委員を今回で退任する黒井千次さんが「古いタイプの伝統的作品と、現代的で知的な作品の同時受賞となった」と述べた。「共喰い」は「文章の密度が高く、人物を含めた生活の描き方がダイナミック。普通の才能ではない」、「道化師の蝶」は「不思議でファンタスティックな面白さを追いかけることができる。今までの小説と違う新しさと面白さが注目された」と評した。

 葉室さんは福岡県久留米市在住。西南学院大卒業後、新聞記者を経てデビュー。直木賞候補は5度目。

 受賞作は、江戸時代の豊後・羽根(うね)藩という架空の藩が舞台。トラブルを起こすも切腹を免れた若い武士と、側室と密通を疑われて10年後の切腹を命じられた藩士の物語。若い武士の目から、藩士の死に対する静かな覚悟を描く。

 葉室さんは「これで候補にならなくて済むというのが最初の気持ち。うれしかった」と語った。「今回は直球のストレートで書いた。60歳になると誰でも残り時間を考える。10年の命という設定に自分の思いを込めた」

 選考委員の浅田次郎さんは「葉室さんはこれまで一つ足りずに受賞を逃してきた。今作はこれまでにない完成度に仕上がった。実は私がけなしてきた急先鋒(きゅうせんぽう)だったが、誠実に書き改めてきた姿勢は小説家はかくあるべし、というお手本のよう」と話した。

asahi.com:2012年1月17日


芥川賞・直木賞の候補作発表 17日に選考会
 第146回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の候補作が発表された。選考会は17日、東京・築地の新喜楽で開かれる。候補作は次の通り。(敬称略、50音順)
 【芥川賞】石田千「きなりの雲」(群像10月号)▽円城塔「道化師の蝶(ちょう)」(群像7月号)▽田中慎弥「共喰(ぐ)い」(すばる10月号)▽広小路尚祈「まちなか」(文学界8月号)▽吉井磨弥「七月のばか」(文学界11月号)   【直木賞】伊東潤「城を噛(か)ませた男」(光文社)▽歌野晶午「春から夏、やがて冬」(文芸春秋)▽恩田陸「夢違(ゆめちがい)」(角川書店)▽桜木紫乃「ラブレス」(新潮社)▽葉室麟「蜩(ひぐらし)ノ記」(祥伝社)▽真山仁「コラプティオ」(文芸春秋)
asahi.com:2012年1月6日