石橋克彦編「原発を終わらせる」を読んだ! | とんとん・にっき

石橋克彦編「原発を終わらせる」を読んだ!

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岩波新書、石橋克彦編「原発を終わらせる」を読みました。


内橋克人編「大震災のなかで 私たちは何をすべきか」で、柄谷行人が「では、どうすればよいのか。原発をすべて廃棄すること。それを市民の闘争によって実現することである」と、明快に述べていたのが印象に残っています。「私は自身が原発建設に対して何の抵抗もしなかったということに、忸怩たる思いがある。福島の事故が起こって、私は愕然とした。なぜこんなに大量の原発建設を放置してきたのか、と」。そして「原発の事故について無知であったわけではない。1980年代には作家、広瀬隆の『危険な話』が大ベストセラーとなり、各地で原発闘争があった」と続けています。


その広瀬隆著「危険な話・チェルノブイリと日本の運命」(八月書館:1987年4月26日第1版第1刷発行)が、押し入れの奥を探したら出てきました。僕も当時その本を読んでいましたが、柄谷同様、何の行動も起こさず、いま忸怩たる思いがあります。「危険な話」のなかで広瀬隆は、「いま日本で働いている原子炉、・・・33基がすでに運転中で、宮城県にあるのが女川ですね。隣の福島県に実に9基あります。ここで津波が起こって海水が退いてゆけば、この10基がまとめてメルトダウンを起こすかもしれません。そうなると日本人だけではなく、世界の全人類を末期的な事態に巻きこむ大変な災害が起こるでしょう」と、警告しています。


2011年3月11日の東北、北関東一帯を見舞った地震、津波は一瞬のうちに大きな被害をもたらしました。それに追い打ちをかけるように東京電力福島第一原子力発電所の事故は、世界の原発事故史上類を見ない事態となりました。原発周辺の地震や津波の被害者が救出されずに見捨てられ、多くの人々が故郷を追われ、仕事を奪われ、放射線に被曝し、その不安に怯えています。しかも、事故収束の見通しはたっていないばかりか、さらなる恐怖が今後何十年も続くという。


79年のスリーマイル島と86年のチェルノブイリ原発事故に際しても、いわゆる「原子力村」の人々は、日本では大事故は絶対に起こらないと言って、「原子力安全神話」を国民に押しつけたと、編者の石橋克彦は言う。「07年7月の新潟県中越沖地震で、東京電力柏崎刈羽原発の全7基の原子炉が強震動被害を受けた時、私は、97年以来警告してきた原発震災が日本社会の現実的緊急課題になったと確信した」と続けます。しかし原発事故は起こりました。「もし、日本社会がこの時、理性と感性と想像力を最大限に働かせていれば、運転歴30年を越える福島第一原発の全6基は運転終了したかもしれない。痛恨の極みである」と、深く反省しています。


この本については、その構成と内容が、編者である石橋克彦の「はじめに」に書かれています。石橋はまず「いまこそ日本は原発と決別しなければならない。そう考える者が集まって、ここに『原発を終わらせる』という本を出すことになった。執筆者の多くは、私よりもずっと前から原発の危険性を指摘し、それを無くすことを主張していた方々である」という。そして石橋は、この本の構成を、原発を終わらせるための展望が開けるように、全体を4部にわけたこととして、以下のように述べています。


Ⅰは、福島第一原発事故の真実に光をあてます。想定外の大津波が原因という政府・東京電力の宣伝に対して、地震の揺れで重大事故が生じた可能性を述べ、事故処理がいかに大変かを説きます。ⅡとⅢは、日本の原発が抱えている本質的な問題を、科学・技術的側面と社会的側面に分けて述べています。科学・技術的には、原発の基本が核分裂と放射能であり、それは不完全な技術であるから、事故が起きた時の被害が莫大であることが示されます。社会的には、「原子力安全神話」と「国策民営」体制が、適切な原子力行政を疎外してきたことが示されます。Ⅳは、原発を終わらせるための道筋を示し、1938年の核分裂の発見以来の人類の知を自ら捨てるべき時がきている、と結んでいます。

以下に、この本の「目次」をあげておきます。


  はじめに                        石橋克彦

Ⅰ 福島第一原発事故
    1 原発で何が起きたのか           田中三彦
    2 事故はいつまで続くのか          後藤政志
    3 福島原発避難民を訪ねて         鎌田 遵

Ⅱ 原発の何が問題かー科学・技術的側面から    
    1 原発は不完全な技術            上澤千尋
    2 原発は先の見えない技術         井野博満
    3 原発事故の災害規模            今中哲二
    4 地震列島の原発               石橋克彦

Ⅲ 原発の何が問題かー社会的側面から
    1 原子力安全規制を麻痺させた安全神話 吉岡 斉
    2 原発依存の地域社会            伊藤久雄
    3 原子力発電と兵器転用
        ―増え続けるプルトニウムのゆくえ  田窪雅文

Ⅳ 原発をどう終わらせるか
    1 エネルギーシフトの戦略
        ―原子力でもなく、火力でもなく     飯田哲也
    2 原発立地自治体の自立と再生       清水修二
    3 経済・産業構造をどう変えるか       諸富 徹
    4 原発のない新しい時代に踏みだそう    山口幸夫
   
  日本の原子力発電所
  執筆者紹介

原発からの脱却は可能だ!:
福島第一原子力発電所は、地震と津波により制御不能の事態に陥り、放射能汚染を深刻化させています。いまも事態収拾の見通しは立たず、住民の避難は続いています。ここに原発の安全神話は完全に崩れ去りました。原発からの脱却を模索する以外に、私たちには道はないはずです。緊急出版の形で刊行する本書は、原発に警鐘を鳴らしてきた研究者やジャーナリスト14名が、今回の事故を検証し、あらためて原発の何が問題なのかを多面的に考えるものです。そして、原発を終わらせるための現実的かつ具体的な提案を行います。これからの議論にどうぞお役立てください。(岩波新書編集部)

編者紹介:
石橋克彦(いしばし・かつひこ)1944年生まれ、東京大学理学部地球物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。東京大学理学部助手、建設省建築研究所国際地震工学部室長、神戸大学都市安全研究センター教授を経て、現在は神戸大学名誉教授。専攻は地震テクトニクス。著書に、『大地動乱の時代』(岩波新書)、『阪神・淡路大震災の教訓』(岩波ブックレット)、『地震の事典』(共著、朝倉書店)、『南の海からきた丹沢―プレートテクトニクスの不思議』(共著、有隣堂)など。

とんとん・にっき-kiken 「危険な話 チェルノブイリと日本の運命」

1987年4月26日第1版第1刷発行
著者:広瀬隆

発行所:株式会社八月書館

第1章 チェルノブイリで何が起こったか

第2章 実害の予測と現実

第3章 日本に大事故が起こる日

第4章 原子力産業とジャーナリズムの正体







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