たばこと塩の博物館で「役者に首ったけ!」展を観た! | とんとん・にっき

たばこと塩の博物館で「役者に首ったけ!」展を観た!



たばこと塩の博物館で「役者に首ったけ!」展を観てきました。今回は江戸時代の浮世絵に出てくる歌舞伎、それも役者に焦点をあてて、「芝居絵を楽しむツボ、役者に首ったけ!」という、一風変わった、しかし、面白いテーマです。もちろんたばこと塩の博物館ですから、浮世絵にもきせるやたばこ盆、たばこ入れなど、喫煙具が随所に出てきます。そして今回は特に、芝居や役者を描いた浮世絵をより一層楽しんで頂きたいと、「芝居絵を楽しむツボ」が随所に出てくるのも、楽しみの一つです。


展覧会の構成は、以下の通りです。

第1部 役者・オン・ステージ

第2部 役者上ル下ル、地方ニ出ル

第3部 舞台がはねても首ったけ

いただいた8ページのリーフレットが、なかなか素晴らしい。以下、それに従って記すことにします。リストによると、今回の出品作品は全部で96点、見応え十分です。


第1部 役者・オン・ステージ

役者の見せ場はやはり舞台姿であり、大量の芝居絵が上演に合わせて制作され、売り出された。ここでは、文化・文政期(1804~1830)の作品を多く取り上げる。この時期には歌川豊国率いる歌川派が華やかな芝居絵を量産しているが、芝居興行の面では、役者の給金が値上がりし、観劇料が急騰した時期でもある。芝居見物が難しくなった庶民にとって、芝居絵は芝居を知るための大事なツールでもあった。


ツボ1 イケメンを探せ!

なにしろチラシからしてイケメンですよ。役者絵は今でいうブロマイドですよね。ここに登場するのは江戸時代のイケメン、そしてイケメンが扮する美女です。例えば、五代目松本幸四郎、三代目板東三津五郎、五代目岩井藩四郎、三代目尾上菊五郎、七代目市川団十郎、などです。


ツボ2 「上演期間に売り抜くべし」ひしめき合う版元たち

役者絵は絵双紙屋にとって主力商品です。絵の制作を依頼し売り出す版元は、絵志野確保が最重要。人気絵師には注文が殺到します。芝居絵は上演期間中に売るものであるため、演目が決まってから売り出すまでの時間が限られています。そのため彫りや摺りに凝った技法はあまり観られず、似たような印象の絵が多くなります。しかし一見無地に見える鶴屋金助版の「双蝶々曲輪日記」の背景には「空摺り」が施されており、3枚続きながら1枚だけでもブロマイドとして鑑賞できます。


ツボ3 絵師だってライバルです

役者同士が芸を競ったように、絵師も腕を競いました。「この役者はこう描く」というように顔の描き方は類型化されていましたが、それでも役者の表情や構図には絵師の個性が反映されています。歌川豊国の弟子の歌川国安は、それぞれ「細工物籃轎評判」を描きましたが、顔や構図、衣裳が異なっています。扮装や役柄が定型化された演目に関して、芝居之初日前に定型の扮装で描く場合と、芝居を観てから描く場合では、当然異なるからです。


ツボ4 役者も人ですから・・・喧嘩もします

文政2年(1819)に七代目市川団十郎が市村座で、三代目尾上菊五郎が中村座で、それぞれ助六を演じます。市川家代々の家の芸である助六を、断りなく菊五郎が演じたため2人は不仲となります。このことが評判と成り、助六は両座とも大入りとなったという。「此狂言ハ来春相わかり申候」は、市川家と尾上家の仲違いを岩井版四郎仲介で和解した場景が芝居になり、その予告として浮世絵に取り込まれたものです。

第2部 役者上ル下ル、地方ニ出ル

歌舞伎の中心地だった江戸と上方を行き来した役者たちは、両地で浮世絵に描かれた。上方では、より写実的で、のっぺりとした独特なが画風の上方絵が発達し、江戸より100年ほど遅い寛政3年(1791)から定期的な版行が始まったとされる。当初はプロの絵師ではなく、役者の贔屓や粋人が余業として描き、役者絵版行が商業的に安定した天保期(1830~1844)以降、専業の絵師が登場した。天保の改革により制作は一時中断されるが、弘化4年(1847)jころから再開された。再開後の上方絵は従来の大判よりも一回り小さい中判サイズとなり、1作品に対し上摺と並刷の2種が用意された。このコーナーでは、役者の移動出演に焦点をあて、江戸と上方の両地での活躍を描かれた役者と、上方絵を紹介する。


ツボ5 豪華キャストでおくる舞台! その背後に金主(スポンサー)あり

現代の映画やドラマが豪華キャストで話題を集めるのと同じように、江戸時代の歌舞伎も人気役者の共演で集客を計りましたが、その背後には「金主」というスポンサーの存在がありました。工業の損益は莫大で、出資には財力を要しました。


ツボ6 懐具合と相談します

大坂では幅広い購買層に対応するため、ひとつの作品に対し、金色等の高価な絵の具やぼかしを多用した「上摺」と、安価な絵の具で色数も少ない「並摺」の2種類のパターンが用意されました。上摺には、並摺にはない金色が多用されています。例として下に載せたのは、歌川国員画「祇園祭礼信仰記」の並摺と上摺です。


第3部 舞台がはねても首ったけ。 
役者への関心は舞台姿に止まらず、役者がくつろぐ楽屋や日常の姿にも及んだ。安永9年(1780)のは、勝川春草が絵本「役者夏の富士」でこうした場面を描き、以降、浮世絵でも描かれるテーマとなった。また、役者を描いた団扇絵やおもちゃ絵などからは、贔屓役者の絵を身近におきたいという、ファンの心理が感じられる。ここでは舞台を離れてなお、人々を魅了した役者の姿を紹介する。


「楽屋図」:当初は、楽屋での役者を中心に描いたが、後に、楽屋内部の構造を詳細に描く絵も登場しました。歌川豊国画「江戸芝居三階之図」は、浴衣の者や化粧をしていない者、鍋を囲む者など、楽屋でくつろぐ役者たちを描いています。描かれているのは、いずれも主立った役者です。


「日常の姿」:楽屋図同様、衣裳ではない普段着を着た役者の日常の姿への関心も高かった。歌川国芳画「独息子に娵八人」は、八代目市川団十郎を描いたもので、衝立の牡丹は市川家を象徴するデザインです。女はよく見ると「ブス」ばかりです。


「有卦絵(うけえ)」:江戸後期から明治にかけて、有卦(吉事が続く時期)と無卦(凶事が続く時期)が12年周期で繰り返すという俗信の一種、有卦無卦説が流行しました。この流行を受けて、有卦入する人には「ふ」の字で始まるめでたいものを描き込んだ有卦絵を贈る習慣が生まれました。三代歌川豊国画「七ふ字有卦入船」、富士山を背景に舟が描かれ、「ふ」の字で始まる七つの約二分した初代中村福助が乗っています。福助は名前が「ふ」で始まるため、有卦絵によく描かれました。


「団扇絵」:団扇に張られて販売された消耗品のため、一枚絵として残っているものは版元の控えや見本帳に綴じられていたものが多い。団扇絵には花鳥画や名所絵が多かったが、役者の絵柄も出され、贔屓役者のグッズとして買い求められました。三代歌川豊国画「桜清水清玄」は、文政13年(1830)3月中村座の上演に合わせて出された団扇絵です。


ツボ7 役者が着ればダジャレもオシャレ

現代でもタレントが着た服が流行するように、役者が好んで衣裳や小道具に用いた柄も、当時の人々に愛用されました。


「評判記風の絵」:幕末の江戸では、役者の芸や容姿を批評し、順位付けする冊子「役者評判記」に代わり、浮世絵に役者の評判や位付けを書き込んだ評判記にあたる者が登場します。家毛画「大井川藝魁」は、江戸時代、橋がなかった大井川は複数の人足が担ぐ蓮台か、肩車で渡りました。渡り方により渡し賃が異なるため、役者の評価を渡り方に当て込んでいます。右下には肩車にすら乗れず、裸で川を渡る端役の役者が、左上には既に岸に着いた大物の役者が描かれています。


「おもちゃ絵」:役者づくし、双六、着せ替え、かつらつけ、目がつら・・・役者に関するおもちゃ絵は多い。また、組み上げ絵のような複数枚の浮世絵からパーツを切り出して芝居のワンシーンを組み立てる、技術や根気のいるものもあるが、それらは大人向けと思われ、老若男女を問わず、芝居の余韻を楽しんだことがうかがえます。


ツボ8 伊達に「たばこ」を名乗っちゃいません

たばこと塩の博物館所蔵の浮世絵には、きせるやたばこ盆、たばこ入れといって喫煙具が随所に登場します。現在でも芝居之小道具として重宝される喫煙具だが、歌舞伎の小道具には役者の紋が入っているものが多く見られます。


なおほかに「比べてみよう幸四郎」と「団十郎グラフィティ」、「役者の追善」がコーナー別に展示されていました。


企画展「役者に首ったけ!~芝居絵を楽しむツボ~」

歌舞伎が人気を博した江戸時代、役者はアイドル的存在でした。人々は役者の動向を話題にし、役者の舞台姿のみならず、楽屋でのようすや化粧をしていない素の姿までもが、浮世絵に描かれました。こうした役者を描いた絵は、人気商品として絵草紙屋の店頭を飾っていました。また、団扇絵やおもちゃ絵のように使って楽しむ絵もあり、歌舞伎が人々の日常生活の中にとけ込んでいたことがうかがえます。当時、歌舞伎の中心地は江戸と上方(京・大坂)でした。現代でも「江戸歌舞伎」「上方歌舞伎」という呼び方があるように、それぞれに特色のある文化が醸成されました。その違いは、江戸と上方のそれぞれで制作された画風の異なる役者絵にも見られます。役者たちは江戸と上方の間を往き来しては舞台に立ち、観客も江戸役者と上方役者の共演を楽しみました。今回の展示では、役者たちの江戸・上方間の移動や舞台裏のようすに焦点をあてるとともに、芝居を描いた絵をより一層お楽しみいただけるよう、ちょっとした見方の“ツボ”をご用意しました。江戸の人々が夢中になった役者たちの魅力にふれていただければ幸いです。


「たばこと塩の博物館」ホームページ


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