ミヅマアートギャラリーで「池田学展 焦点」を観た! | とんとん・にっき

ミヅマアートギャラリーで「池田学展 焦点」を観た!




ミヅマアートギャラリーで「池田学展 焦点」を観てきました。市ヶ谷へ移る前、中目黒の頃からこのギャラリーの名前は知っていましたが、結局は足を運ぶことはありませんでした。今回、「池田学展」ということで、意を決して行ってきました。僕は今までは「現代アート」や「抽象画」は意識して避けていました。理由は、あまり範囲を広げすぎると、僕のキャパシティではとても追いつかない、と思ったからです。


市ヶ谷は僕が最初に就職した時の勤務先があったところ、土手の桜やお堀の風景は、他に類を見ない見事なものです。ミヅマアートギャラリーは、靖国神社や法政大学の反対側、外堀通りに面した場所にあります。1階が駐車場で、装飾を一切排除した、無味乾燥な表情を持った、工場のような建物です。もちろん、その方が作品の展示にはいいと思うからでしょうけど。


鉄骨の階段を登ると、そこは受付、というか、インフォメーションのデスクがあり、後ろは本棚になっています。本棚の裏、受付の奥は事務室です。展示室は、正面の壁を右に曲がり、また左へ曲がると、やや広いスペースに出ます。その奥にも小さな展示スペースと、そしてなんと「茶室」がありました。床の間があり、床柱はステンレス、3畳台目くらいの広さです。炉も切ってあり、なかなか素晴らしい茶室です。床の間には「コラージュ」が展示してありました。



さて、池田学とはどんな人か? 1973年佐賀県多久市生まれ。98年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。卒業制作にて紙に丸ペンを使用した独自の細密技法を確立。2000年同大学院修士課程を修了。とあります。


今回の「池田学展 焦点」は、展示作品は20点、22cm×27cmのペン&インク、思っていた以上に小さな作品でした。しかし、その描かれている細密度には驚かされます。皆さん、作品に近づいて丹念に観ていました。画像がないので、作品のタイトルだけを挙げるとこんな感じです。「蒸発」「氷窟」「渦虫」「とぐろ」「擬態」「海の階段」「ふたつの水面」「命の飛沫」「梅雨虫」等々、タイトルからして興味深いものです。


「池田学画集1」のチラシには、「驚異の宝箱 ペンで紡がれた壮大な宇宙に遊ぶ」とあります。今脚光を浴びている「写実」、「リアリズム絵画」とは、池田の作品はちょっと違います。「超細密なペン画で観る者を圧倒する」という池田学の作品、「ディテールを集積した絵画宇宙を築きあげ」、「ユーモアあふれる想像力と表現力に圧倒されることでしょう」、いやたしかに圧巻です。池田学は、まもなくカナダ留学へ旅立つ、という。


1月14日に新宿・紀伊国屋サザンシアターで開催される「現代アートの衝撃波 1973年生まれの新潮流」という、三瀬夏之介と池田学の対談に注目が集まっているようですが、その日は用事があって行けないのが残念です。









「池田学展 焦点」

昨年はおぶせミュージアム・中島千波館(長野)にて美術館での初個展を成功させ、国内外様々な展覧会にも出品を重ねてきた池田。本展後には、文化庁の海外研修制度による1年間のカナダ滞在制作を控え、今後も更なる飛躍が期待されています。「興亡史」(2006年)や「予兆」(2008年)など、大作のイメージが強い池田ですが、今回は全ての作品を22×27cmという小さな画面に描きました。小さなサイズを選んだことについて、「(これまでは)部分を積み上げ、外へ外へと膨らんでいくといったダイナミズムが面白かったが、内へ内へと入っていく世界にも大きな絵にはない面白さが潜んでいるのではないか」と新たな世界へのチャレンジを語っています。そして今回、池田は「これまでの一つの大きな全体から小さな部分を覗き込む」のとは逆に、「小さな部分にも焦点を当て、そこから外に広がっている大きな世界を想像する」作品を制作しています。展覧会タイトルの「焦点」はここから着想されたものです。

新作の一つ「Gate」では、荒涼とした海原に突如として四角い“フレーム”のようなものが立ち上がり、フレームの内側には高速道路を走る車やビルの灯りが輝く都市の夜が潜んでいる様子が描かれています。灯台や釣り人などが描かれていることから、そのフレームは堤防であることが想像されますが、タイトルの通り、海原と都会という、相反する世界をつなぐ奇妙な「Gate」なのでしょうか。この海原はどこに行き着くのか、フレームの向こうの都市ではどんな世界が広がっているのか・・イメージの断片には答えがない分、見たことのない風景の前で私たちの想像はどこまでも飛躍していけそうです。子どもの頃から魚釣りや虫取りをして時を過ごすことが多かったという池田の作品には、彼にとって親しみのある“自然”がモチーフとしてよく描かれています。本作でも、自然が時に全く違う表情を人間に見せることを具現化し、新しい物語の世界を生み出しています。

また、先の細い丸ペンで1本1本描き込まれた線はさらに精度を上げ、まるで彫刻刀で画面を刻みこんでいくかのように立体的で繊細な質感を生み出しています。細かな線の積み重なりが細密画の作家と呼ばれることが多い所以ともいえますが、その卓越した技術力と共に、何よりも作品ごとに全く違う世界を描き出す池田のユーモアあふれる想像力と表現力に圧倒されることでしょう。時を忘れ、純粋に「見る」行為の楽しさを教えてくれる池田の作品。
今回は、一話一話が際立つ短編集のように、観る側に深い余韻を残す展覧会となることでしょう。そしてこの度、池田初の作品集が羽鳥書店より刊行されます。12月上旬の刊行に先立ち、本展にて先行販売を行いますので、ぜひこちらもご覧いただけたらと思います。