東京藝術大学大学美術館で「退任記念展 絹谷幸二 生命の軌跡」を観た! | とんとん・にっき

東京藝術大学大学美術館で「退任記念展 絹谷幸二 生命の軌跡」を観た!




東京藝術大学大学美術館で「退任記念展 絹谷幸二 生命の軌跡」を観てきました。今回の「絹谷幸二 生命の軌跡」展は「退任記念展」と銘打たれている通り、絹谷幸二は20年以上にわたり東京藝術大学絵画科油絵で教鞭をふるい、「東京藝術大学での最後の授業」となるもので、絵画作品、立体作品など、初期の作品から最近の作品まで、約50点を一堂に集めたものです。


まず、エレベーターを降りると、各界の著名人から贈られた祝福の花が盛大に並んでいて、一瞬驚かされます。会場内に入ると、目を奪われるのは、会場に中心に置かれている原色に充ち満ちた立体作品です。「Open the Box of Pandora」や「コンフィジオーネ」がそれです。実は僕は、絹谷が立体作品を作っていたのは、まったく知りませんでした。NHKの日曜美術館で、以前解説者として出演していたのは何度か見た覚えがありますが、そもそも絹谷幸二という人そのものも、よくは存じ上げていませんでした。今回、「絹谷幸二 生命の軌跡」展を観て、なんとか僕の中で繋がった感があります。それにしても、原色に満ちあふれた躍動感のある絹谷の作品、どの作品も「生命力」を感じさせるというか、なんなんだろう、年々若くなっていくというその軌跡には圧倒され、そして驚かされます。


芸大の卒業制作の「自画像」、そして「祖母アイ像」、まだ絹谷のスタイルが出来上がる前の古典的な描き方ですが、なんか訴えるものがあります。1966~67年に描かれた「蒼の間隙」(卒業制作、大橋賞)の他にも、「諧音の詐術」、「諧音の跡」、「蒼の風跡」などは、青が基調となっている作品です。これらは、絹谷作品の中でも僕の好きな作品群に入るものです。なんとなく1970年代の池田満寿夫の水彩・フロッタージュ作品を思い起こしました。宇佐見圭司の作品のほうが近いか?いや、そんなことを言ってもなにも始まりません。ただある時期、ある年第、このような手法、つまり重ね合わせの手法が流行ったのではないでしょうか。


それ以降、絹谷のスタイルはガラリと変わっていきます。イタリア留学、アフレスコ画との出会い、そして画壇の芥川賞・安井賞を「アンセルモ氏の肖像」で受賞。絹谷の生涯の作品を軽々しくは扱えませんが、それでも頂点はやはり長野冬季五輪のメインポスターの原画となった「銀嶺の女神」でしょう。どちらかというと、殴り書きのような作品が多い絹谷の作品のなかで、この「銀嶺の女神」は完成度が高いように思われます。いや「色彩の画家」絹谷の本領発揮、完璧と言えるでしょう。京都三十三間堂の風神雷神を写生して描いたという「蒼穹夢譚」、これもいいですね。と、僕が言うまでもなく「芸術院賞受賞作」なんですね。「炎炎・東大寺修二会」も絹谷らしい赤が基調の作品ですが、「日本の祭り」に取材した「龍鬼渡海・博多祇園山笠」や「絹の祇園祭」など、「ワッショイ、ワッショイ」と聞こえてきそうな威勢のいい作品です。


「太陽が満ちているところには色彩が満ちている」と絹谷はいう。宗教へ、イタリアへ、そして祭へ、取り上げる主題はめまぐるしく変わります。「絹谷はどこへ向かっているのか?」、そんな声にはおかまいなく、無常へ、永遠へ、生命の歓喜へと、芳醇な色彩を飛び散らして、森羅万象を追い求めます。「絵画には、見ていいな、というだけでなく、心の苦しみや悲しみから解放する力がある。絵空事などというが、そういった心の部分が込められていることが大事なんです」と、絹谷幸二は退任記念展で説いた。退任にあたっては、「一作家に戻り、再度ロケットを噴射させて、がんばらないといけない。これからが正念場」と語っていたという。


立体作品




平面作品

1960年代




1980年代

1990年代

2000年~






退任記念展
絹谷幸二 生命の軌跡ars vita esta・vita ars esta

絹谷幸二は1974年当時史上最年少で安井賞を受賞、2001年には日本藝術院会員に就任と最前線で制作を続けてきました。また、20年以上に渡り東京藝術大学絵画科油画で教鞭をふるい、作家としての姿勢を背中で示し、長年に渡り学生達に多大な影響を与えてきました。
本展は、絵画作品、立体作品など約50点を一堂に集め、初期の油彩から、大学時代の卒業制作《蒼の間隙》、イタリア時代のフレスコ習作など、テキスト等をからめて展示するほか、その鋭い眼光が捉えた自らの顔─《自画像》の変遷も追いかけます。安井賞、毎日芸術賞受賞という名誉に溺れることなく、独自のスタイルを激変させた青春時代。東京藝術大学から巣立ちやがて教鞭をふるうことになった絹谷の軌跡などを、同じ学び舎の美術館において辿る試みとなります。また、作品展示に留まらず、講演会を通して画家の生のメッセージも人々に届けます。
本展は絹谷の若い時代の作品や知られざる体験談、彼の教育者としての思想などを学生だけではなく学内外のより多くの人々と共有することで、「生きた教育の場」の創出を目的としており、その意味において絹谷による東京藝術大学での最後の授業といえるでしょう。


「東京藝術大学大学美術館」ホームページ


とんとん・にっき-kinu1 「生命を染める画家~絹谷幸二の軌跡」

2009年12月25日発行

著者:石川健次

発行:アートヴィレッジ

定価:2000円(税込)