東京都美術館で「生活と芸術―アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで」を観た!
東京都美術館で「生活と芸術―アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで」を観てきました。といっても、観たのはもう1ヶ月以上前のことです。なかなか記事にする気力が出てこなくて、そのうちにと思っていたら、1ヶ月以上経ってしまったというわけです。つい先日、パナソニック電工・汐留ミュージアムで「モリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ イギリス・アメリカ」展を観たばかりでした。ウイリアム・モリスについては、今回の都美術はほとんど同じような内容で新味にかけます。違いは、というと、汐留ミュージアムではアメリカまで含めて展示してありました。なにしろ副題には「ウイリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」とありますから、汐留でもちょっと広げ過ぎ、延ばし過ぎです。
では、今回の都美術はというと、ヨーロッパ、特にウィーン工房から、日本の民芸までを含めています。これではデザイン全般の活動が何でも入ってしまうのではないでしょうか。歴史家ではないので細かいことにまではこだわりたくはないのですが、一般には、ラスキンから始まりウイリアム・モリスへと流れるのはいいのですが、チャールズ・レニー・マッキントッシュはグラスゴー派、ウィーンのオットー・ワーグナーはウィーン分離派(セセッション)で、その間にアール・ヌーボーやドイツのユーゲント・シュティル、ペーター・ベーレンスが入りますが、そんな分け方が一般的です。もちろんアメリカや日本に至ってはやはり別物になります。どうしてもデザイン的には造形・形態で括りますから、そういう意味でちょっと広げ過ぎかなと思ったわけです。
「生活と芸術―アーツ&クラフツ展―ウイリアム・モリスから民芸まで」、全体は次の3部構成でした。
Ⅰ イギリス
Ⅱ ヨーロッパ
Ⅲ 日本
とりあえず「ヨーロッパ」、ウィーン工房までは仮によしとしても、「日本」のコーナーは、棟方志功や芹沢銈介、はては木喰の「地蔵菩薩像」まであるのですから、これはちょっと違うのではと思わざるを得ません。民芸運動の創始者・柳宗悦らが建てたという「三国荘」の再現された部屋、そして「白磁壺」や琉球装束の「小袖」までありました。ますます違いが際だってきました。「日常生活の身のまわりのものを美しくする」というモリスの考え方や精神でいえば、すべてが入ってしまいますが。
それらを確かめるために、ではないですが、その後駒場の「日本民芸館」へ行ってきました。特別展「日本の民画―大津絵と泥絵―」が開催されていました。木喰の地蔵像も何体か展示してありました。ますます「アーツ&クラフツ展」との違いが強く感じられました。
今回の「生活と芸術―アーツ&クラフツ展」は、ロンドンの装飾芸術の殿堂ヴィクトリア&アルバート(V&A)美術館の協力により実現しました。V&Aと国内の美術館などから、家具、テーブルウェア、ファブリック、服飾、書籍やグラフィック・デザインまで約280点が出品されています。そのうちイギリスは118点、ヨーロッパは45点、日本は121点です。チラシやポスターはアーツ&クラフツの精神がよく出ています。展示は、モリスの内装ファブリックの定番、「柘榴」や「いちご泥棒」、タペストリーの大作「森」などで始まります。なにしろモリスのデザインした壁紙類は300に及ぶといわれています。モリスはやはり装飾芸術、ステンド・グラスはいいとして、家具となるとどうしてもモリスから離れていくように思いました。
僕が新鮮に感じたのはV&Aの「グリ-ン・ダイニング・ルーム」でした。発足して間もないモリス・マーシャル・フォークナー商会に、セイント・ジェイムズ宮殿とサウス・ケンジントン博物館から室内装飾の仕事が舞い込みました。サウス・ケンジントン博物館は、現在のヴィクトリア&アルバート美術館です。「グリーン・ダイニング・ルーム」は、建築家フィリップ・ウェッブが全体の構成を行い、天井のデザインはウェッブとモリスの合作、ステンドグラスとパネルの人物画をバーン=ジョーンズが手伝いました。新婚のモリスとジェインが暮らした「レッド・ハウス」は、フィリップ・ウェッブの設計により、やはりモリスやバーン=ジョーンズたちとの協同デザインでした。モリスの提唱した「小芸術」(lesser art)は、芸術総合の基盤となるが故に、モリスは重要と考えました。着想が自然から出発し、抽象と幾何学的規律を加えて、新しいデザインを生みだしています。
熱烈な社会主義者だったウイリアム・モリス、「社会変革は容易ではない」、現実世界への挫折感が、晩年はケルモスコット・プレスと名付けた小さな出版社で、本当に好きな著作だけを美しい意匠で刊行する本づくりに取り組みました。「労働には喜びがなければならない」とはモリスの生涯のテーマでもあります。今日、どれだけの人が働くことに喜びを感じることができるでしょうか。モリスが死んだとき、医者は「死因はウイリアム・モリス」と言ったそうです。なにしろモリスは、人の10倍も働いたそうです。それもこれも大きな広がりを持って、働くことに喜びを感じたからでしょう。
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パナソニック電工汐留ミュージアム
2008年11月8日~2009年1月18日
「芸術新潮1997年6月号」
特集・ウイリアム・モリスの装飾人生
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