国立西洋美術館で「ムンク展」を観る! | とんとん・にっき

国立西洋美術館で「ムンク展」を観る!



「ムンク展」、国立西洋美術館で開催されています。観てきました。今までも日本に於いてノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク(1863~1944)が取り上げられて、何度か「ムンク展」が開催されましたが、何処で何度開催されたのかは詳しくは知りません。僕が何度観たかも憶えていませんが、とりあえず図録があるだけで、今回のも入れると手元に4冊あります。パラパラと図録を見直してみると、それぞれの展覧会に特徴があっておもしろい。なぜか、若い頃から僕の好きな画家の一人でした。



僕が最初に観た「ムンク展」は、神奈川県立近代美術館の「エドワルド・ムンク展」でした。開催されたのは1970年9月から10月ですから、今から37年前です。1951年11月に開館した美術館でしたから、建物ができてから19年目に行ったことになります。それから37年、もうそんなに経つんですね、驚きました。ぜひとも図録が欲しかったのですが、会場では完売していて、図録はあとで郵送してもらったことを憶えています。図録には39点の油絵と114点の版画、とあります。図録の表紙は「生命のダンス(部分)」です。





次に、1981年10月から11月にかけて開催された「ムンク展」、これは東京国立近代美術館で開催されたものです。選び抜かれた傑作、代表作、計221点とあります。今から26年前、図録の表紙は「桟橋の少女たち」です。次は1997年4月から6月に開催された「ムンク展」、ちょうど10年前、世田谷美術館で開催されたものです。ムンクの作品178点と写真67点で構成されていました。この展覧会では特にムンクと写真に焦点を当ててありました。ムンクのヌード写真もあり、図録の表紙は「思春期」でした。そして2007年、今回の「ムンク展」です。図録の表紙は「不安」です。


「吸血鬼」(1893-94年)の名を与えたのは、ムンク本人ではなく、ポーランド人の作家、ブシビシェフスキーです。ムンクは「ひとりの女がひとりの男のうなじに接吻しているにすぎない」と言ったそうです。「嫉妬」はムンクが繰り返し取り上げた主題、ということはわかってはいましたが、「嫉妬、庭園にて」(1916-20)という作品の解説で、「明らかにムンクの友人であるポーランド人作家、ブシビシェフスキーの肖像と分かる相貌で描かれている。彼は重苦しい黒い色面の中から憂いとも怒りともとれぬ、まさしく嫉妬の目つきでこちらを見つめ、その背後で行われている男女の密会をわれわれに告発している。というのも、後ろにいる男女は、おそらくムンクとブシビシェフスキーの妻、ダグニー・ユールなのだ」とあり、「画中の画家本人は彼女に誘惑されている。ビシビシェフスキーは、妻にせいの相手を自由に選ばせ、それによる嫉妬を糧に作品を生んだ人物だったのである」。この件について僕は始めて知りました。ムンクが「嫉妬」しているのかと、勘違いしていました。




「フリーズ」と聞いて思い出したのが、クリムトの「ベートーヴェン・フリーズ」です。月桂樹の葉で象られた金色のドームを戴く、ウィーン分離派の象徴的な建築、オルブリッヒの設計した「ゼセッション館」の地下にあるものです。と、書きましたが、15年以上前ですが、ウィーンへ行ったときに、この建築を見て地下へ行った記憶は確かにあるのですが、「ベートーヴェン・フリーズ」はよく憶えていません。それはそれとして、「フリーズ」の意味が当時はいまひとつよく分かりませんでした。今回の「ムンク展」、ムンクの「装飾性」に焦点を当てた展覧会でした。その点、今までにない展覧会だったことは確かです。最初、ムンク展で「装飾?」と聞いたとき、首を捻ったのですが、元もと絵画は建築の壁面装飾として発展したということを思い浮かべれば、今回の展覧会を観て納得した感があります。


<生命のフリーズ>は、全体として生命のありさまを示すような一連の装飾的な絵画として考えられたものである。(エドワルド・ムンク「生命のフリーズ」より)


ムンクが試みた装飾プロジェクト、「アクセル・ハイベルグ邸」や「マックス・リンデ邸」といった個人住宅の装飾や、「ベルリン小劇場」、「オスロ大学講堂」、「フレイア・チョコレート工場」、「オスロ市庁舎」の壁画構想などの公的建築でのプロジェクトについて、「装飾画家」としての軌跡を辿れるものとなっていました。




僕が今回圧倒されたのは<労働者フリーズ>である「オスロ市庁舎のための壁画プロジェクト」でした。「家路につく労働者たち」(1913-15)や「疾走する馬」(1910-12)など、今まで日本で紹介されていた作品もありましたが、単品で取り上げられていたこともあり、見る方の意識に上りませんでした。しかし、今回のように1章を設けて紹介されると、愛と死、喜びと絶望といった「人間の魂の叫び」をテーマとした画家といったイメージが、「プロレタリア」の側、労働者の側に立った「労働生活」をテーマにした装飾プロジェクト<労働者フリーズ>の試みが今回詳細に紹介され、そしてそれが実現していれば、ムンクにまた別の称号が与えられていたのではないかと思います。


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