柴田友香の「主題歌」と諏訪哲史の「アサッテの人」! | とんとん・にっき

柴田友香の「主題歌」と諏訪哲史の「アサッテの人」!


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ことの発端は、「第1回大江健三郎賞発表」が掲載されていたので購入した「群像」2007年6月号でした。この賞は選考委員大江健三郎ただ一人が審査をし、賞金も賞品もなく、ただ作品を翻訳し、海外での刊行を約束するという、今までにない特異な賞でした。栄えある第1回受賞作は長嶋有の「夕子ちゃんの近道」、「群像」2007年6月号には大江健三郎の「選評」が掲載されていました。僕は芥川賞等と同じように、選ばれた作品も掲載されているものと勘違いして購入したのですが、「選評」だけで、残念ながら当選作「夕子ちゃんの近道」は掲載されていませんでした。


もう一つの発端は朝日新聞の「文芸時評」、文芸評論家の加藤典洋が担当しています。今までこのブログでも朝日新聞の「文芸時評」は、何度か引用したことがあります。2007年5月30日の「文芸時評」に、「群像」2007年6月号に掲載されている作品が取り上げられていました。それは、柴田友香の「主題歌」と、諏訪哲史の「アサッテの人」でした。もちろん、群像に掲載されたこの2作品は、僕も読まなきゃならないことになった、というわけです。加藤典洋の記事を、以下に引用しておきます。


中編では、柴崎友香「主題歌」がよい。写真を収集するように、昆虫を収集するように、かわいい女の子を見つけては盛り上がる若い女性の仕事仲間の交友が微細な筆致で描かれている。
群像新人文学賞の諏訪哲史「アサッテの人」が秀逸。突如、たとえばポンパ!などと意味不明のコトバを口にする奇矯な叔父さんの面影を「私」がかつて自分の書いた小説の草稿、叔父の日記を織り交ぜ、追う。


さて7月5日に、第137回芥川・直木賞の候補作品が発表されました。芥川賞選考委員の河野多恵子が136回で退任、今回から小川洋子と川上弘美が選考委員に加わりました。また、直木賞は浅田次郎が新たに選考委員になりました。なんと芥川賞には柴崎友香の「主題歌」と、諏訪哲史の「アサッテの人」が入っていました。群像6月号から2作品です。「時事通信」によると候補作は、芥川賞は4回目の松井雪子、2回目の柴崎友香を除く4人が初候補で、諏訪哲史はデビュー作でのノミネート。直木賞は7人のうち5人が初候補で、北村薫は5回目、松井今朝子は3回目だそうです。


さて、この2作品の僕の「読後感」は以下の通りです。柴崎友香の「主題歌」は、彼女の今までの作品の集大成?のような作品でした。彼女の作品はもう何冊か読み、このブログにも書きました。若い女性の仕事仲間との交友関係が、等身大で、肩肘張らず、まったく淀みなく淡々と描かれていて、好感が持てました。諏訪哲史の「アサッテの人」は、まったく前衛的、アバンギャルド?、とんでもなくブッ飛んでいて、訳の分からない作品でした。まあ、それが「アサッテ」の「アサッテ」たる由縁かも知れません。内容よりも小説の「技法」、その「作法」を実験的に試しているような作品でした。ついでといってはなんですが、やはり群像新人文学賞優秀作の広小路尚祈の「だだだな町、ぐぐぐなおれ」も、なかなかブッ飛んだ作品でした。





そんなこんなで、芥川賞・直木賞の選考会は17日、東京・築地の「新喜楽」で行われます。「新喜楽」の設計は吉田五十八、築地場外の道路を挟んだ真ん前にある和風の建物です。戦前からのを含めると、吉田は4回にわたって改築や増築に携わっています。あ、そうそう、このブログで書きました森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」が直木賞候補作に入っていました。ただ単に偶然読んだだけですが、僕は本命、柴崎友香の「主題歌」、大穴、諏訪哲史の「アサッテの人」と予想し、どちらかが受賞してくれればいいかなと、節操もなく思っています。どちらかが受賞の暁には単なる「読後感」ではなく、それに見合った「書評」を書かなきゃなりませんね。でも、前回芥川賞を受賞した青山七恵の「ひとり日和」と、柴田友香は描かれる人物像が被っているから、ちょっと難しいかも?