柴崎友香の「文庫本3冊」を読む! | とんとん・にっき

柴崎友香の「文庫本3冊」を読む!

文学部門の文部科学大臣新人賞に選ばれた柴崎友香の作品「その街の今は」を読んで、このブログにその感想を書いたのが4月5日です。その後、ちょうどその頃出たばかりの文庫本「ショートカット」(2007年3月20日発行)を書店で買い求めて読み、このブログに書いたのが4月14日です。この際柴崎友香の作品を読んでみようと思い、とりあえず出ている文庫本を3冊、買い求めました。それが以下の3冊で、古いものから順に読みました。


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「きょうのできごと」内容(「BOOK」データベースより)
ある晩、友人の引っ越し祝いに集まった数人の男女。彼らがその日経験した小さな出会い、せつない思い。5つの視点で描かれた小さな惑星の小さな物語。書下ろし「きょうのできごとの、つづきのできごと」収録。(2004年3月10日発行)


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「青空感傷ツアー」内容(「BOOK」データベースより)
超美人でゴーマンな女ともだち音生と、彼女に言いなりな私。音生にひきずられるように、大阪→トルコ→四国→石垣島と続く、女二人の凸凹感傷旅行はどこへ行く?抱腹絶倒、やがてせつない旅の空。映画「きょうのできごと」原作者による、各紙誌で絶賛された、ウルトラ・キュートな話題作。(2005年11月20日発行)

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「次の町まで、きみはどんな歌を歌うの?」内容(「BOOK」データベースより)
「どこかよくわからない場所で、何時かよくわからない真夜中に、ぼくは何度目かの失恋をした」―友人カップルのドライブツアーに、男二人がむりやり便乗。行き交う四人の思いを乗せて走る車の行先は?恋をめぐる、せつなくユーモラスな物語。「きょうのできごと」と並ぶ名作、待望の文庫化。(2006年3月20日発行)


時に応じて、例えば夏休み前には「新潮文庫の100冊」とか、若者の読者を煽るような広告を見ることがあります。先日も岩波文庫創刊80年記念フェア「私の好きな岩波文庫100」という新聞広告を見ました。ということで、「文庫とはなにか?」という僕のささやかな疑問に、すべからく答えているのを見つけました。最近は単行本から文庫本になるのが、昔から比べれば異常に早い。えっ、もう文庫になったの?この前、読んだばかりだよ、というのまで、もう文庫になっています。表紙もカラフルで、しかも「オサレ」です。本屋さんで平積みされていると、ついつい買ってしまいます。


巻末に解説があるのも文庫の特徴のひとつですね。でも最近は、文庫の「解説」をする人が様変わりしています。いわゆる文芸評論家然とした人が解説を書くよりも、同じ同業者である作家が書いている場合が圧倒的に多いのを感じます。柴崎友香の作品で言えば、このようなラインナップです。「きょうのできごと」は保坂和志、「青空感傷ツアー」は長嶋有、「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」は綿矢りさです。ちなみに先日このブログで書いた「ショートカット」の解説は高橋源一郎です。そうそうたる現役の作家です。どうして文庫本がこのような傾向になったのか?それぞれの作品に共通して、「いるいる、こんな人」、そして「僕も(私も)同じように感じる」、とうい個所が随所に出てきます。「そうやって感じて感じて感じたことをふさわしい言葉の選択で書いた総体が作品であり作者なのだ!」と、長嶋有は言います。


でも、やっぱり文芸評論家の側から反撃が出たようです。若手文芸評論家の田中和生が、「文學界」の時評「文学まであと少し」の最終回で、高橋源一郎と保坂和志の対談「小説教室に飽きた人のための小説教室」にふれて、「小説のことは小説家にしかわからない、評論家にはわからない」と連呼しているのは「偏狭で、悲しい」と書いているそうです。この話は、朝日新聞の「文芸時評」(2007.5.30)を担当する文芸評論家・加藤典洋のによるものですが。その記事で加藤典洋は、「中編では、柴崎友香の『主題歌』(群像)がよい。写真を収集するように、昆虫を収集するように、かわいい女の子を見つけては盛り上がる若い女性の仕事仲間の交友が微細な筆致で描かれている」としています。こう書かれると、これでまた読むべき本が増えてしまいましたよ。


そうそう、加藤典洋はやはり朝日の時評(2006年6月26日)で柴崎友香の「その街の今は」を絶賛していました。それはさておき、柴崎友香と長嶋有、同じような価値意識や視点で、同じような文章を書く、ということを感じたのは、長嶋有の「泣かない女はいない」を読んだときでした。調べてみると、2人は「小説を書く、小説家を読む」 として対談しているんですね。文学的に非常に近いんですね2人は!世界中で戦争が勃発しているのにいっこうに無関心、のんきで、淡くて、なにもいってないような作品は、深刻な世界の現状に対してお気楽すぎると、エライ人たちに僕や柴崎さんの小説はしばしば叩かれる、と長嶋有は言います。長嶋有の「夕子ちゃんの近道」を読んで、ますますそれを感じました。


岩波文庫創刊80年記念フェア「私の好きな岩波文庫100」
「新潮文庫とは?」
「新潮文庫の100冊」


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