川上弘美の「夜の公園」を読んだ! | とんとん・にっき

川上弘美の「夜の公園」を読んだ!

夜の公園

今月の初め頃、川上弘美の「夜の公園」が朝日新聞の読書欄?に載っていたので、即、本屋へ買いに行って、久しぶりの新刊本、一気に読み終えました。川上弘美の作品は「古道具 中野商店」以来です。読み終わって、さてなにか書こうかなと思っていたところ、目に付いたニュースがありました。「松浦寿輝X川上弘美トークショー 夜の公園で散歩のあいまにこんなことを考えていた」というもので、2006年5月14日(日)15:00~17:00、会場は青山ブックセンター本店で開催される、というものです。


あれれ、なんでまたこの二人がトークショーを?松浦寿輝は、「花腐し」で芥川賞を受賞した作家です。もちろん僕は、「文芸春秋」で受賞作が掲載されていたときに読みました。最近、「花腐し」(2000年8月1日第1刷発行)の単行本をブックオフで手に入れて、再読しようと思っていたところでした。受賞当時、東京大学教授が芥川賞を受賞したということで、大いに話題になりました。それとはまったく別に、松浦寿輝の「エッフェル塔試論」という本(1995年6月20日初版発行)、定価3900円というちょっと高価な本ですが、発売と同時に購入して読みました。実はこの2冊の著者が同じ人だとは、しばらくの間、僕の中ではつながりませんでした。これらに関しては、そのうち記事として書こうとは思っています。


それとは別に、金井美恵子の「目白雑録(ひびのあれこれ)」(2004年6月30日第1刷発行)という本の中に、真偽のほどは分かりませんが、「ノーテンキ日記」という題名の面白い話が載っていました。「週刊朝日」の匿名書評欄の「センセイの鞄」の批評があまりの酷評ぶりに、書いたのは金井美恵子じゃないかと一部で話題になった。実は金井と川上は犬猿の仲であり、なんと金井と川上の間には、一人の男を奪い合う修羅場を演じた過去があった。その男が芥川賞作家の松浦寿輝だ。というようなことが、匿名の書評欄に載っていたという話を、金井美恵子は自分で書いています。この後に、金井は川上と松浦がホテルにいるところに乗り込んだという話が続くのですが。「女流作家どうしのなんとも壮絶な光景」、「驚くべき三角関係」だというわけです。何度も言いますが、この話の真偽のほどは僕にはわかりませんし、金井と松浦の関係は、金井が否定しているのでたぶん「ガセネタ」でしょうけど。


たまたま前の話を取り上げたのは、これから書くことには関係ないんですが、男と女の話にはいろいろあります、という見本のようなものとして書いただけです。川上弘美の「夜の公園」、久しぶりの新刊本、購入して一気に読みました、と前にも書きましたが。真夜中の公園を一人で散歩する主人公「リリ」、その夫「幸夫」、リリの女友達で女子高の英語教師の「春名」、真夜中の公園でマウンテンバイクに乗る「暁」、この4人がそれぞれ「主人公」になって、各章が進んで行くこの作品の構成になっています。「暁」の兄の「悟」も主要な人物です。このような形式の作品は、最近多く見かけることがあります。例として、村山由佳の「星々の砂」や、吉田修一の「日曜日たち」が挙げられます。


リリは「夜の公園」を歩く。その横をマウンテンバイクが通りすぎていきます。「帰りたくないなあ」と、リリはつぶやきます。「リリは、幸夫が大好きだった(はずだった)。愛してさえ、いた(たぶん)。」それなのに、リリは幸夫が好きではないことに気がつき、いまいましく思っています。幸夫には何の責任もない、わたしが悪いと、心の底からリリは思います。ある時、スーパーマーケットで、マウンテンバイクの青年に出会い、青年に好感を持ち、そのまま青年の部屋へ!


この作品、いままでの川上弘美の作品、「古道具 中野商店」、「センセイの鞄」、「ニシノユキヒコの恋と冒険」等々とはかなり趣向が違い、言うなれば「わかりづらい作品」だと言えます。文章を追って行くだけで見れば、どうということはありません。リリと春名という、女が二人、対比的に挙げられています。よくある女の典型か?男は夫である幸夫と、暁と悟の兄弟、この3人が女2人に奇妙に入り組んで関係しています。めちゃくちゃな不倫関係?愛憎劇、黙っていれば、泥沼に?そうならないところに、川上弘美のこの作品はあります。出てくる人もその関係も、すべてがクールで希薄、見事なまでに醒めています。


ラスト、「あなたの子供じゃないから」と、リリは幸夫に言います。ほんとうにこの女と結婚していたのかと、幸夫は思います。同じことを、リリも思います。本当のところ、この人を好いたり嫌ったりしたことがあったのだっけ? 春名が昔リリに書き送ったという手紙の一節「ほろほろと秋が去るね。」、妙に印象深いフレーズです。


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