藤田宜永の「愛の領分」を読んだ! | 三太・ケンチク・日記

藤田宜永の「愛の領分」を読んだ!


第125回直木賞受賞作の藤田宜永の「愛の領分」、半年前にブックオフで購入。長い間本棚の中に眠っていましたが、本にも「端境期」のようなものがあるのか、数ある本の間をぬって読み終えました。藤田宜永の「愛の領分」、やはり直木賞受賞作ということと同時に、奥さんが同じ直木賞作家・小池真理子である、ということに話がいってしまいます。僕の場合、そういうことでもなければ、読むことのなかった作家の一人です。小池真理子の受賞が1995年の第114回、藤田宜永の受賞が2001年の125回、遅れること約5年ですね。なぜかその苦労を思うと「苦節5年」という表現が、妙に当てはまります。


藤田の受賞の時、小池真理子の方が、異常にはしゃいでインタビューに答えていたのが、印象に残っています。そうは言っても、藤田も早くから注目を浴びていたようで、95年には「鋼鉄の騎士」で日本推理作家協会賞を受賞しています。僕は推理小説はほとんど読みませんので知りませんでしたが。とはいえ、小池真理子の小説も「」しか読んだことがありません。「欲望」も買ってはあるんですが、これも読んでいない。そうこうしているうちに、「欲望」の「映画化」が進んでいるようで、そろそろ読まないとと思っていますが。


藤田宜永の「愛の領分」、作家の渡辺淳一が直木賞の受賞に際して「文章につやが増してきた。久々に正統な恋愛小説家が現れた」と評したと言われています。直木賞の選考基準を取り上げるつもりはありませんが、この本を読んで「うーん、そうかな?」という疑問が大いにあります。それはともかく、本の帯には派手にこう書いてあります。「直木賞受賞作。不倫でもないのに秘密の匂いがする。愛を信じられない男と女。それでも出会ってしまった彼らの運命。すべてをかなぐり捨てた4人がゆきつく果ては。待望の恋愛長篇。」どうも、これも「愛の領分」を言い当てていないような気がします。



こちらの方が、やや近いような気がします。
常に光の当たる場所を歩いてきたかに見える一組の夫婦。どこか暗い影をひきずる一組の男女。男は妻に先立たれ、女は不倫相手の自殺を経験していた。混沌としたこの世で、孤独な日々を送る男と女が偶然出会う。25年ぶりの再会が、お互いのあやうい過去を明らかにしていく。許すこと、許せないこと。忘れること、忘れられないこと。登場人物たちの苦悩と官能が、軽井沢の美しい自然を背景に繰り広げられる。大人の愛情模様を描いた待望の恋愛長編


仕立て屋の宮武淳蔵は28年ぶりに高瀬昌平と再会する。昌平は淳蔵を捜し、訪ねてきた。淳蔵の父親の旅館を昌平の父親が買い叩いた。淳蔵は買い戻すつもりだったが、うまくはいかなかった。そんな父親同士の関係のため、昌平との関係も悪くなりそうなものだったが、淳蔵は昌平を悪くは思えず、二人はは若いころ一緒に遊び歩いた仲だった。昌平の妻・美保子重症筋無力症にかかっており、美保子が淳蔵に会いたがっているから、是非家にきてほしいという。淳蔵は複雑な気分で塩田平に向かう。駅に着くと、偶然馬渕太一と再会。太一は妻・千代子と旅館で働いていた。淳蔵は太一の娘佳世と出会う。淳蔵は佳世に惹かれる。東京に戻った淳蔵に昌平から電話が入る。スーツを一着作ってほしいという。それから淳蔵は塩田平にちょくちょく行くようになる。淳蔵の美保子へのかつての想い、そして佳世との恋美保子の淳蔵への執着。昌平の突然の来訪の意味は?


仕立屋の淳蔵を中心に、昔の遊び友達の昌平、その妻で昔淳蔵と関係のあった美保子、さらに淳蔵の父が経営していた旅館で働いていた太一とその娘佳世、淳蔵の息子信也が主な登場人物です。主人公の宮武淳蔵、陰気くさい男です。煮え切らない男です。はっきりしない男です。昌平に対しても、美保子に対しても、そして妻や息子に対しても。「諦念」というといいように聞こえますが、そうは思えません。それを「仕立屋」という職業に表そうとしているようですが、キャバレーに勤めていた男が、修行の厳しい仕立屋に簡単になってしまうのは、あまりにも都合がよすぎます。


藤田宜永と小池真理子

全体の筋からはなくてもよかったのではと思わせる、男やもめの一人息子との葛藤亡くなった妻を描くために必要だったのかも知れませんが、これも巧く表現できてるようには思えません。特にボランティアに対する親子の考え方の差、あまりにも淳蔵の考え方は古すぎます。そして佳世の気持ちがどうなのか、淳蔵とのあまり官能的とは思えないベッドシーンが何度かあるにしても、お互いに結婚はしない、という考え方がどうしても見えてきません。結局、この小説は、自分勝手な我が儘の昌平と美保子に、淳蔵が引き回されるということだけに終わっています。

美保子をめぐる争いでは勝者の昌平が言う。「どんなに立派なものでも、着物に合わない帯がある。帯に合わない着物がある。お前と美保子は、ちぐはぐな帯と着物だった。そんなふらりを結びつかせてしまったのは、俺だけど、やっぱり、愛にも領分があるって思うんだ」と。十分に齢を重ねた男が、やはり愛にも領分があったのだと気付くという、お粗末な結論に至ります。え~っ、これが直木賞受賞作?、という疑問が、沸々と沸き上がってきました。


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