昨日の夕方、よく店に1人で食事に来てくれていた、見た目ヨロヨロな感じなのだけれど、お料理はしっかりと残さず食べてくれるおばあちゃんから、出前の注文をいただきました。


声を聞けば、あのおばあちゃんだとすぐ分かったのですが、住んでいる所は知らないので、おばあちゃんは、ひたすら、「畑のすぐ側」としか言わず、そして、ハンバーグとカツカレーを頼みたいと、まくし立てます。


何度も、住所の番地を教えてと聞きましたが、自分でもよく分からないと、とても頼りない感じ。


相続放棄する人がほとんどいないからか、昔は空き地とかたくさんあった店の近辺、数少ないほっししたスペースは、昨今、隙間なくマンションだらけになって、畑がある場所は思い浮かばないのです。


これは、ちょっと困った。でも、何とかしてあげたいと、番地の最初の部分を何とか聞き出し、20年近く配達している経験知識をフル動員して考え、その辺りを地図から読み解き、そこは、一棟のマンションではないかとあたりを付けました。


「部屋番号は?」と聞くと、「たぶん、206」と頼りなさげ、とにかく行って探してあげると言って、場所が分からなくて、料理を無駄にしてもいいからと気持ちを強く持って、慌てて料理を作り、そのおばあちゃんがいるであろう場所に向かいました。


そのマンションの入口は、オートロック。


1度、2度、3度、4度と、呼び出しても無返答。入口の中、突き当たりの管理人さんは、受話器を耳にあて、電話をしているようで、呼べません。続いて、5度、6度、やっぱり無理だったかと諦め、もしかしたらと、バイクで帰り際、裏の駐車場に回ると、2階の階段の踊り場に、そのおばあちゃんが立っていました。


僕が慌てて、声をかけても、気がつかないようで、たまたま近くにいた住人のおばさんが、1階に降りてきて、裏口のドアを開けてくれました。


「おばあちゃん、見つけて、持ってきたよ。でも、入口はオートロックだから、部屋にいないと、中に入れないから、焦っちゃった。」


おばあちゃんは、うれしそう。


よく周りを見渡すと、部屋の目の前に、幼稚園の畑があって、このことをおばあちゃんは言っていたんだと、気がつきました。


「ずっと入院していたから、食べたかった」と、おばあちゃんは一言、「ありがとう」。


とにかく、料理を部屋まで運んで、入口の棚に置いてあげたのですが、前よりさらに、動きが頼りない感じです。


「最後に店に行った時、手を振ってくれて、うれしかったぁ」と言われましたが、そのことは、全然覚えていないのでびっくり。


何気ない店での振る舞いは、特におばあちゃんなどには、うれしいこともあるのだと、何だか教えてくれたみたいな感じになりました。


娘さんと一緒に住まわれているのだそうだけれど、「器は、その娘さんが店にいつか持って行くから」と、やっぱり頼りなく言っていたので、器は回収できなくてもいい位の広い気持ちで、気長に待ってあげることにしました。


僕の代になって、出前は1人前から金額問わずお持ちしていますが、1人暮らしのお年寄りで、注文もらって持っていっても、ドアは鍵がかかっていて、耳が遠くて、来ていることに気がつかないおばあちゃんとか、大声を出しても無理で、仕方なく、何とか気がつくような動きを大きくしたりして、僕もいろんな経験を重ねていますが、久しぶりに緊張感のある配達をしました。


何より、おばあちゃんに、出前してあげられて、よかった。