LINE流行に見るアプリにとって20MBの壁が非常に重要な理由。3G回線利用比率は4割に | スマホアプリ開発記

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2012/3/8追記:3G回線でのダウンロード制限が20MBから50MBに変更されました。現在はSkypeも3G回線でダウンロードできます。

先日、ツイッターで無料通話アプリの「LINE」が最近非常に流行ってる一つの理由をつぶやいたところ、公式リツイート数が1000を超す大きな反響がありました。

大学生の子が最近みんなLINE使ってるというので、何でそんなに流行ってるのって聞いたらSkypeが落とせないからと言っていた。なるほど、Skypeってアプリサイズが20MB超えてて3G回線で落とせない。
https://twitter.com/#!/tomotaken/status/159554373075206144

更には、Apple系の老舗ブログであるMacお宝鑑定団さんにも取り上げられ、それがexciteのトップ記事になるという、多くの人の関心を集めると共に、多くの人に目から鱗の内容だったようです。

iPhoneアプリ「LINE」が「Skype」よりも流行っている理由の1つは3G回線でダウンロード出来る20MB以下だから -
MACお宝鑑定団 blog(羅針盤)

中村智武のCTO記

改めて、この「アプリサイズ20MB」、通称20MBの壁について整理してみましょう。

■ 20MBの壁とは


iPhoneアプリを3G回線でダウンロードする際、そのアプリのサイズが20MBを超えている場合、ダウンロードをすることができません。データ通信の増大がキャリアの回線を逼迫することに対応するApp Storeの制限で、Wi-Fiに接続するか、PCからiTunes経由でインストールする必要があります。有料アプリの場合、購入することすらできないため、単純に20MBを超えるだけで販売機会を逃すことになり、iPhone開発者にとってアプリを20MBに収めることが重要であることはよく認知されています。

App Storeに公開されている全アプリの統計を取った以下のサイトによると、85%を超えるアプリが20MB以内であるということです。

[iPhone] 数字で見るApp Store taichino.com

中村智武のCTO記
画像引用:taichino.com

さて、無料通話アプリとしては古い歴史を持つSkypeは、機能追加が大きく膨らんだだめでしょうか、アプリサイズが20MBを超えており、3G回線でダウンロードしようとすると以下のメッセージが出てインストールができないのです。

中村智武のCTO記


■ Wi-Fiの意味すらわからない一般層の存在


後発の無料通話アプリであるLINEはここ最近、無料アプリランキングのトップ10以内に居続けており、特に通話時間は長いが通話にお金をかけたくない若年層に非常に流行しているようです。無料通話のスタンダードと言えばSkypeであった中で、今LINEが支持されている理由はアプリサイズによるものだけでは当然ないでしょう。よく聞くのは、連日放映されているテレビCMの効果、アカウント登録が必要ない簡便さ、絵文字の可愛さなどがあります。

私のツイートに対する反応の中には、「今はどこにでもWi-Fiスポットがあるわけだし関係ないと思います」という声もありました。確かに、最近は自宅やオフィスに無線LANを構築していることも当たり前になり、学校にも導入が進み、無料Wi-Fiスポットも増えており、Wi-Fiにつなぐことができない人は少ないように思えます。

では、果たして本当に大多数がWi-Fiを利用できているのでしょうか?実際には、「そもそもWi-Fiにつなげることを知らない」ユーザーは少なくありません。Twitterで検索すると以下のような声が拾えます。

中村智武のCTO記

ユーザーに一般層が多いと言われるYahoo!知恵袋で検索してみると、更にヒットします。

スカイプをとりたいのですが!! - Yahoo!知恵袋

スカイプをとりたいのですが!!私はiphone4を使っていて、スカイプをインストールしようとしたら、Appのサイズが20MBを超えています。Itunesを使ってインストールしてくださいって出るのですが、どうすればスカイプをインストールできますか??

iPhone(au)でSKypeを使いたいのですが、iPhoneでSKypeをダウンロードしようとし... - Yahoo!知恵袋
iPhoneでSKypeをダウンロードしようとしたら、Wi-Fiネットワークに接続するか、コンピューターのiTunesを使用してくださいとなりました。Wi-Fiネットワークはよくわからないのですが、iTunesはパソコンで使っていたのですが、iPhoneとパソコンを接続しようとすると、10.5以降をダウンロードしてくださいとでます。SKypeを使えるようにするやり方をおしえてくれませんか?10.5以降のダウンロードの仕方もよくわかりません。

こういった声は、もしかしたら全体のほんの一部かもしれません。では、実際にiPhoneからアプリを落とす際に、3G回線を利用しているユーザーはどの程度いるのでしょうか?

■ iPhone接続回線内訳は3G回線が4割近く


Appleはこのような数字を公表していないため、正確な数字はわかりません。そこで、弊社のiPhone向けコミック事業の数字を公開します。

弊社の場合も、「20MBの壁」を事業開始当初から重要視しており、アプリは20MB以内に抑え、インストール後に追加ダウンロードを行う仕組みにしています。アプリ自体の通信に関しては特に容量制限がないため、このようにすることで3G回線でも20MBを超えるデータをダウンロードすることができるのです。ただし、自前の配信サーバーを用意する必要があり、単にApp Storeでアプリを販売するのに比べると非常に敷居は高くコストもかかります。

しかしながら、こうした取り組みが奏効し、iPhone向けに電子書籍事業を行っている事業者の中でも弊社アプリはダントツの売上げを誇っています。詳しくは以下のブログ記事をご覧ください。
2011年iPhoneアプリセールストップ100にクニミツの政と探偵学園Qがランクイン!

さて、弊社のコミックアプリを落としていただくとわかるのですが、他社コミックと比較しても高画質を売りにしていますが、反面、ダウンロードに要するサイズが非常に大きくなり、3G回線ではダウンロードに時間がかかってしまいます。作品によっては全ページで5000ページ以上となるものもあり、総ダウンロードサイズは1GBを超えます。しかし、一度ダウンロードさえしてしまえば、その後通信は必要なくなるので、Wi-FiにつなげるならばWi-Fiにつないだ方がダウンロードが遥かに快適であるため、他アプリと比べてもWi-Fi接続率は高いのではないかと推測します。

そのコミックサーバーに対する2012年1月1日以降のアクセスログを3GとWi-Fi別に集計してみました。3Gとして、接続元がソフトバンク回線の「panda-world.ne.jp」及び、au回線の「au-net.ne.jp」を集計し、それ以外のアクセスは全てWi-Fiとしています。

結果は以下の通りとなりました。
中村智武のCTO記
ソフトバンク3Gが35%、au 3Gが5%と、合わせると4割の人が普段から3Gを利用していることになります。繰り返しますが、弊社サービスでは3G回線よりWi-Fiで利用した方が遥かに快適なのにも関わらず、3Gでアクセスしていることになり、最大で4割近くの人が3Gしか使えない環境から利用しているとも考えられます。もちろん、実際にはこの中にはWi-Fiを利用できる人もいるはずですが、弊社の重い画像データを3G回線でダウンロードしているくらいですから、少なくとも4割近くの人はアプリダウンロード時も3G回線を利用していると考えられるでしょう。

当然ながらこの数字をそのまま使えるわけではないですが、単純な話、アプリサイズが20MBを超えることで、4割のユーザーを取りこぼす可能性があるということです。

■ まとめ


アプリが流行る要素として、多分に「口コミ」によるものがあり、何かの会話の際に最近のオススメアプリ情報が話題になりインストールされることは多いでしょう。この時にアプリサイズが原因でそもそもインストールできないのは大きな機会損失です。また、コミュケーションツールにおいて、グループでコミュニケーションを取りたいときに一人でもそのアプリが使えない場合、その瞬間に全員がそのアプリを使えなくなるわけです。他に同じ機能を持ったアプリがあって、全員がそれを使えるとなればそれが使われない理由はありません。SkypeとLINEの事例について、今一度見直してみても面白いと思います。ちょっとしたことの積み重ねが、後発でも先行している標準アプリを出し抜くことができるという好例でしょう。