僕がいない場所(2005ポーランド) | CINEPHILIA~映画愛好症~

CINEPHILIA~映画愛好症~

気づいたら11月。もうすぐ1年終わっちゃいますねー。今月はフィルメックス見に行かれたらと思ってます。

僕がいない場所1

ポーランドからたどり着いたこの映画。主人公の少年の眼差しが私を射抜いたんです恋の矢。複雑で混沌とした社会を、子供の眼を通して、彼らの世界として描く映画は、これまでも「大人は判ってくれない」「ケス」なんて名作が、近くは「誰も知らない」なんて作品がありましたが…この映画も、それらに並ぶ“少年の生き様映画”と括らせて戴きます。


孤児院でも周囲にうまく馴染めないクンデル(ピョトル・ヤギェルスキ)は、孤児院を脱け出し、母(エディタ・ユゴフスカ)の元に戻る。しかし、見知らぬ男と寝ていた母親は、クンデルの帰還を喜びながらも、男なしでは生きられないという。そんな母親を受け入れられないクンデルは、家を飛び出し、川べりに打ち捨てられた艀舟で暮らすことを決意する。


以前、食べ物をくれた厨房のおばさんも他界したという。孤独を感じるクンデルのところに、舟の近くの豪奢な家に住む、次女クレツズカ(アグニェシカ・ナゴジツカ)が現れる。彼女も器量や賢さで姉に劣等感を感じており、二人は共感から親しくなってゆく。


なんといっても、素人から探したという主人公の少年の表情に引き込まれます。彼は決して薄っぺらい笑い方をしない。静かに、眉をしかめた顔で、社会・母親への愛情・孤独・ささやかな喜びを表現しているんです。彼は毅然とし、一人で何でもやる。時には街の悪ガキ集団に追われながら、それでも泣かない。そんな彼でも、親の愛情が受けられない悲しみで初めて涙をこぼすシーンには…そうだ、この子は子供なんだ、そして人間は他人から愛されることが必要なんだと、きゅんときました。彼の幼い頃の思い出がつまった手巻オルゴールが効果的に使われ、見るものを彼の内面に誘いこみます。


また、交流を深める少女。すきっ歯で、言葉がキツいけれど、でも無邪気に笑う姿が可愛く、他人の心の痛みに共感できる優しい子なのです。決して恋愛感情ではないかもしれないが、二人の心を通い合わせていくプロセス、次のステップが自然に描かれている点で好感。その裏でじっと監視する姉という構図も、妙にサスペンスでいいわぁ。


柔らかな光や、秋の色彩、芸術的な構図。彼の詩的な世界にぴったり。撮影場所探しには相当力を入れたそうで、世の中がこれだけ美しい中で、彼の孤独が際立っています特に少女の家のバスルームで、もぐった水中から外の世界を眺める図。孤独に打ちひしがれて川辺の木に佇む姿が好き。


女流監督ドロタ・ケンジェルザヴスカの繊細さ。その夫で「トリスタンとイゾルデ」でも光と景色の素晴らしさを収めた名手アーサー・ラインハルトが撮影。音楽も静かな中に洗練されたメロディが多用されており、さすがはマイケル・ナイマン(「ピアノ・レッスン」「ことの終わり」)です。ハリウッド以外では多いそうですが、少ないスタッフが多くの仕事を掛け持ちするスタイルだったらしく。それでも素人の少年少女の自然な演技を、ベテランの大人達スタッフが盛りたてるという、理想的な形でこの映画は出来上がったのだと、なぜか感慨深く思ってしまったり…。


もう一度見て、しっかり焼き付けたい映画です。


10月13日(土)シネマアンジェリカにて公開予定

満足度:★★★★★★★★☆☆