東野 圭吾
変身


人には、してはならないことがある。

たとえ10万分の1の確率の適合率でも

この脳移植は間違いの始まりだった・・・。


移植されたのは1部分だったのだが

ドナーの意識がホストである純一を乗っ取っていく。

内向的で絵を描くことが好きだった彼が

周囲の人を憎むようになり次第に傲慢になっていく。

それは本人にも止められない変化だった。


純一が自分のことを「僕」と言っていたのだが

ドナーは「俺」と言っていた。

文章の中でその2つが入れ替わっていく瞬間が

人格の変化をよく表していて不気味だ。

自分が自分でなくなっていく感覚というのは

どんなにか不安で恐ろしいことだろう。


この脳移植を行った医師たちは

純一のことを人間として見ていないと思った。

医学の進歩を自分の手で起こしたことばかり優先して

人としての慎みを失くしてしまっている。

確かに脳もほかの臓器も人の1部ということでは同じだけど、

どうしても脳は特別な気がする。


以前テレビで臓器移植を受けた人の嗜好が

ドナーの好みに変わったという番組をとを見たことがある。

実際に起こりうる話なんだ。

人の性格を決める脳の移植だったらなおさらのこと。

この話では凶暴になってしまったから目に見えて分かったのだけど

もっと隠れた性質だったら分からなかっただろう。

そして気が付かないまま自分が自分でなくなっていったら

何を支えにしたらいいのだろう。


帯に蒼井優ちゃんと玉木宏くんが載っていて

11月にこの映画が公開されるんだって。

1度は買わずに通り過ぎたんだけど、

優ちゃんの泣き顔がどうしても気になって

次に本屋さんに言った時に買ったんだ。

「感動のラブストーリー」と書いてあるけれど

これ、悲しすぎるよ。



読後満足度  ★★★★