こんばんはー!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。




皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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アスファルトに地も空さえも覆われた東京はまだ全然寒くない方だったのかと、ここに来てキョーコは気が付いた。

ぼんやりと水辺に腰を下ろしていたキョーコは、寒さに体を震わせる。


水の側だから、なおさら身体の体温が奪われる。

旅館で女将から借りてきたストールを握りしめて、変わりゆく空のキャンパスで茜色に染まる雲を見上げた。



京都が自分の出生の地で、蓮との初めての出会いもこの河原だと言う。

「キョーコ=ヒズリ」・・・旧姓は「最上キョーコ」を作る大きな要因がいくつも重なったこの地を、以前からキョーコは訪れてみたいと願っていたのだ。

実際には退院後、蓮とのぎくしゃくとした生活で神経をすり減らしてしまって、とても旅行だなんて気分になれなかったのだが。


蓮には「旅行に行きたい」など、とても言い出せなかった。

仕事が詰まっていて忙しそうにしていたのもあるが、自分の目の届かない所に行かれるのを極端に怖がっているように思えたのだ。

実際、自分が仕事でいない時は社や棚瀬にキョーコの事を頼んでいたし、奏江やだるまやの夫婦などキョーコの身近な人物の許す時間はキョーコに付かせていた。

そしてどんな事をしたのか、どんな事を話したのかを、少々しつこく思えるくらいにキョーコに聞いてきていた。

それがキョーコには「監視されている」と言う悪い印象を与え続けているとも思わずに・・・


今回、蓮の元を離れた事で「行ってみたい」と言う気持ちが大きくなり、社長が棚瀬と事情を聞きに来訪した際、思い切ってお願いしてみたのだ。



もしかしたら、何か思い出すかもしれないという期待を込めて―――



(でも・・・そう簡単なものじゃなかったみたいね。)



透き通る水がさらさらと流れる川の音に耳を傾けながら、キョーコはほう・・・と溜息を吐いた。



クリスマスイブと言う、普通であれば直前ではなかなか宿の取れない時期に自分のワガママを受け入れてくれたのは、中学卒業まで自分を家族のように育て続けてくれていたと言う夫婦が経営する老舗旅館だった。

病室まで数度見舞いに来てくれていた幼馴染の男の実家だと言う。

昼間のチェックイン時には女将と板長の二人が手厚く出迎えてくれた。


「わいらは仕事が忙しくて、見舞いかて行ってあげられなくてかんにんどっせ。

―――キョーコちゃん、よお生きていてくれたね。おおきに・・・」

深く頭を下げる着物のその姿は背筋がまっすぐでとても美しく、京の言葉も何だか懐かしい気がした。

客室へと続く廊下もすべてに近視感がある。

その事を素直に告げると、直々に案内してくれていた女将は大いに喜んだ。


「キョーコちゃんは、よう手伝ってくれとったからね・・・記憶が戻るおてったいになるんなら、うちもえらいうれしーわ。」


そう言って、館内の全ての場所の出入りを許可してくれたものの・・・結局、近視感のみで記憶がすぐ戻ると言う事はなかった。

期待が少し外れた事で残念に思ったキョーコは、蓮と出会ったと言う河原へ行くと告げ、外出したのだ。



昔、悲しい事などがあった時によく来ていたと言う河原は、真冬の夕方にさしかかる時間帯と言う事もあって誰一人おらず、とても静かだった。

冷たい風が吹き抜ける、木々も枯れた少し寂しい河原。

だけど、何かが思い出せそうで、それには何かが足りないと感じてしまう。

それが何かを考えるにはちょうどよい場所だ。

キョーコは「よっと・・・」と掛け声をかけて、水辺の側の大きめな石に腰掛ける。

そうしてポシェットの中から取り出したのは、子供の頃蓮から貰ったと言う青い石と、例のSNSに投稿された画像のコピーだった。



キョーコがこの画像を見つけたのは、偶然で必然だった。


家に戻ってからいつも気になっていた、バーカウンターに飾られた二人の結婚式の写真逹。

自分も蓮も、とても幸せそうに笑っていた。

他の数枚には一緒に色んな人達が写り込んでいたが、誰もがみんな素敵な笑顔で、自分達が本当に周囲の人達から祝福されて一緒になった事が理解できた。


しかし、今の蓮は自分に笑いかけてくれない。

笑ってくれても、どこか余所余所しさを感じてしまう。


(―――彼の笑顔がもっと見たい・・・)


職業柄、二人とも被写体になる事は多い。

キョーコは蓮がいない日中、家の中を掃除する時間にあちこちからアルバムを探しだし、写真を眺めるのを日課としていた。

アルバムの中身を全て見終わってしまうと物足りなさを感じ、広い家の中では比較的小さなパソコンの置いてある部屋でネットを開き、蓮の写真や動画、ニュースなどを見るようになって行く。


そうして一緒に過ごす時間は少なくとも、キョーコは蓮の事を一つずつ知っていったのだった。

それは、あの一件があった後も続いていて・・・


(本物に会うのは恐いけど、写真の中の敦賀さんは笑ってくれているから―――)


その想いで開いたネットで、いつも通り蓮の名前を検索にかけた所、この画像を発見したのだった。


自分の知らない、可愛らしい女の子と笑い合う蓮の笑顔は、幸せそうに微笑む写真と同じ。
そして「この二人絶対何かある!」と言うコメント付き。



ショックだった。

思わずバーカウンターの写真を見に行ってしまう程には、キョーコの衝撃は大きかった。

そして芽生えた猜疑心、不信感・・・

キョーコはそれらを抑えられずに爆発した。



(でもな・・・こんなに時間が経っても何も思い出せないんだもの・・・

―――こんなわたし、もういらないって思われても仕方がないのかな・・・)


冷静になった今思うと、あの時蓮に酷い言葉をたくさん投げかけたような気がする。

しかし、もう心の均衡を保つことが出来なくて、そうしないとキョーコは壊れてしまいそうだった。

色々と吐き出してすっきりとした今だからこそ、何がいけないのか、どうするべきだったのか少しだけ理解する事が出来る。


今なら、蓮に言わなければいけない事をきちんとまとめる事が出来る。

そして、今伝えなければ二度と蓮の元へは戻れない。


それを実行したくて、この場所を選んで呼びつけたつもりだ。



河原に小一時間居座り続けていると、茜色だった雲はいつの間にか群青の空に染められていた。

さすがに真冬の水辺に1時間は体力も相当に奪われる。


蓮が到着するのは明日の午前中の予定だ。

見送りに来てくれた棚瀬から聞いたのだから、蓮はちゃんと来てくれるだろう。


久し振りに蓮と会う、それを考えただけでも緊張で震えてしまいそうになる。


(でも、言わなきゃ。私の気持ち―――)



そろそろ夕食の時間も迫っている、旅館の人逹が心配するだろう。

重い腰を上げ、震える手を石ごとすり合わせながら足早にその場を立ち去る。

寒空の下、闇に支配され始めた森を進むキョーコは、ぎゅうと青い石を強く握りしめた。








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22話の数時間前と言ったところでしょうか。

キョーコ視点です。