こんばんはー!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。




皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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台本の刷りが遅れていた為にいつもよりも遅い入り予定だった今日。

蓮は社長の応接室へと呼び出されていた。


今のローリィの興味は中国に向いているのだろうか。

ローリィは薄いグレーの長袍(チャンパオ)をさらりと羽織っていた。

付き人の彼もそれに倣って深緑のに袖を通している。

艶やかなそれは上等なシルクで出来ているのか、二人が動く度にしゃりしゃりと耳触りのいい音が聞こえる。


客人に振舞われる茶も今日は工藝茶だ。

六角形のクリアなガラスポットの中で、可憐な茉莉花がいくつも繋がり草冠のような可愛さを演出していた。



「―――お前、ちゃんと食べてんのか?」

「まあ、そこそこには」

「お前なぁ、俺に嘘が通用すると思ってんのか?社が嘆いてたぞ、「ちっとも食べてくれない」って。」

「・・・お腹が空いたら、とりあえず何かしらは口にしてます。」

「カロリーなんちゃらも随分美味しくなってきてるけど、アレは食事には入らないからな。」

「・・・わかってますよ。」


長年の付き合いで何でも見通されている・・・と言うのもあるが、そもそもこのキレ者の社長に隠し事をしようと言うのが間違っている。

苦い思いを噛み下しながら口に含む中国茶は、緑茶をベースにしていてさっぱりしていた。


その中に香る、高貴なジャスミン。

ポットの中の可憐なその姿はとても美しく、今この場にキョーコがいたら瞳をキラキラと輝かせて喜びそうだな・・・と在りし日のキョーコで想像をし。


そして、それが叶わないこの現実に、蓮は瞳を曇らせた。


「・・・自分が呼ばれた理由は分かってるんだろう?」

「そうですね・・・キョーコは元気でしょうか。」

「おう。先日から店の手伝いも変装してしっかりこなしてるらしくてな、ご夫婦は嫁に出した娘が帰ってきたみたいだって喜んでたそうだ。」

「まあ、キョーコも本当に親のように慕っていましたから―――キョーコが逃げられる場所があって、正直ホッとしました。」


蓮のその言葉に、ローリィの目が一瞬鋭く光る。

持っていたソーサーをいささか乱暴にかちゃんと置くと、長い脚を組み直した。


「これまでだってゴシップ記事の世話になんかそうそうなった事のないお前が、一般人のSNS投稿でゴシップ飛ばすとはまた随分な失態だったな。」

「それは本当に反省していますよ。今後は細心の注意を払います。」

「まあ、注意は十分するに越したことはねぇな。俺だって、一般人のSNS投稿まで握りつぶすなんて芸当は出来ないんでね。

・・・問題はそこじゃねぇ。昨日やっとキョーコ君と面会する事が出来てな、棚瀬君を交えて会話する事で事情が聞けたよ。」

「そうですか・・・」


キョーコが出て行った後ローリィは話がしたいと掛け合っていたらしいのだが、キョーコはとても応じられるような状態ではなかったそうだ。


親のように慕っていた大将でも触れられるのを怖がり、逃げていたそうなのだ。

そんな状態でローリィや付き人の彼とまともに喋れるはずもなく・・・

まずはマネージャーである棚瀬が毎日だるまやへと通い続け、女将と共にキョーコの心を開かせていったのだった。


3週間が経ちだいぶ落ち着いた今では、元来働き者の性格故か「動いていた方が気が紛れるから」と、積極的に店に出て接客をしているらしい。

勿論、「京子」とばれないように軽く変装をして。


それは先日棚瀬と会った際に聞いていたので、蓮も少しだけなら知っている内容だった。


「なぁに青臭い事やってるんだよ。子供の頃からハリウッドで揉まれてマセガキだった癖に、こう言う事は本当にからっきしダメだなぁ。」

「・・・そうですね。本当に、ダメな奴ですよね。」

「ああ、そうだな。反省はしてんのか。」

「そりゃ勿論、してますよ。でも・・・過去のキョーコとの思い出が崩れていってしまうのが嫌で、それに縋ってしまっている。それが今のキョーコを苦しめる原因だって事は、俺だってわかっています。」

「本当か?」

「わかっていますよ、でもどうしても駄目なんです・・・!」


ローリィの問いかけに、蓮の眉間にぎゅうっと皺が寄る。

自然と荒く大きくなる声に、ローリィも後ろに控える付き人も動きを止めた。


「これが現実だって事くらい、俺だってわかってますよ。

でも―――目が覚めたらキョーコが腕の中にいて、朝の挨拶を交わして。二人でどんな朝ごはんを作るか話しながら過ごす朝を、どうしても希ってしまうんです・・・!

「全部夢だよ」って・・・こんなの、悪い夢だとキョーコに笑って言って欲しい・・・っ」


いつぞやか、蓮を好き、と。でもこんな醜い気持ちなんて、とキョーコが泣いた様に。

そのソファーで蓮が顔を覆い泣いていた。


静かな慟哭は蓮がそれまで抱えてきた不安をや想いを昇華するようで、付き合いの長いローリィであっても演技以外で久しく見ない蓮の泣き方に胸を痛めた。

後ろに控える彼にそっと手をやると、有能な彼はすぐに音もなくその場を離れる。

暫く茶を啜りながら蓮が落ち着くのを待っていたローリィは、ゆっくりと顔を上げた蓮に声をかけた。



「なぁ、蓮よ・・・お前はどうしたいんだ?」


いつの間にか戻って来ていた付き人の彼が、蓮に白いコットンのハンカチを差し出す。

隣にはそっとティッシュ箱まで用意され、サーブしたてのお茶を目の前に出された。


グラスポットの中身はいつの間にか変わっていて、オレンジ色の百合がポット内に咲き乱れる上に白い茉莉花がちょこんと乗り、それは百合の花が可憐な茉莉花を優しく包み込む鳳凰の姿のようにも見える。

その美しくも雄々しい花々の姿に、涙を流した事で少し気分が落ち着いた蓮は勇気を貰ったような気がして、じっと見つめた。


先程の愛らしい茉莉花の冠がキョーコであるのなら、自分はキョーコを包み込む愛であり続けたい。

キョーコが自分に向けてくれる愛は、いつも大らかで優しさに満ち溢れているものだったのだ。

それに守られて縋るばかりの自分では情けない―――



「―――キョーコと、一生を添い遂げると誓ったんです。どんなキョーコでも、俺は彼女を守ります。」

「キョーコ君が「嫌だ」と言ったら?」

「どんなに時間がかかっても、彼女と話をします。そして俺の気持ちを解ってもらいます。」

「・・・どんなに拒否られてもか?」

「勿論です。わかってくれるまではずっと見守り続けます。」

「・・・・・・。お前は本当に頑固だよな。キョーコ君が離婚してくれって言い出すとか思わんのか?」

「その選択肢はなかったですねぇ。でも、わかってもらえるまで頑張りますから。」


少し縁の赤い瞳がいつもの力を取り戻しているのを見て、ローリィは「かーっ!」と大きく溜息を吐いた。


「そんなお前に惚れられたキョーコ君が可哀想になって来るよ。」

「俺程彼女を愛せる人もいないと思いますよ?」

「おうおう、過去遊んできた人間は大層な自信があるなぁ。」

「それ、付き合う前のキョーコにも言われた事がありますが・・・そんなに遊んでるように見えるんですかね?」



いつも通りの皮肉と冗談を織り交ぜた彼らなりの世間話の空気に、工藝茶独特の匂いがふわりと立ち上る。

透き通るスッキリとした口当たりのお茶を喉に通しながら、蓮は湯の中でゆったりと佇む百合と茉莉花を見た。








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実はついさっきまで書いてました。ギリギリ間に合った?←間に合ってません・・・!

(いつもは2・3話ほど頑張ってストックして、前日の日中位にこの部分を書き足してます)


この部分、一瞬本誌のネ/タバ/レ含むか!?とも思ったのですが、そう言えばもう34巻でグアム飛んだんでしたよね。

良かった良かった。



実家の父ですが、来週いっぱいは入院だそうです。

ご心配おかけしまして申し訳ありません。

(で、今度は娘が飛び火ですorz)