こんばんはー!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。




皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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さらさらと流れる黒檀の髪を梳かしたブラシを定位置に戻すと、鏡の中の自分をチェックする。

目の下にうっすらとクマが出来たかもしれない。

昔はどんなにタイトなスケジュールでも問題なかったのに・・・

月9のドラマ撮影一本しか入っていない今のスケジュールで出来てしまった事に、蓮は自分の老化を痛感し、落胆した。

無理もない、来年でもう30歳だ。

若手俳優のエースとしてがむしゃらに仕事をこなした20歳の頃と同じように頑張りたいのだが・・・やはり健康管理に無頓着では、もうあの頃のようには頑張れないらしい。

やっぱりキョーコの言う通り、朝食は一日の活力で大事な物なのだな。

蓮はそう思いながら、先程コーヒーミルにセットした粉をドリップしようと、洗面所を後にした。





キョーコが豹変した夜は、一睡も眠る事が出来なかった。

何故こうなってしまったのか、ただそれだけをひたすら考え、ウイスキーを煽った。


そして、しばらく経ってから落ちたままにしていた写真立てとコピー紙を拾い上げた。

写真立ての方は、割れた細かいガラス片まで取りこぼしのないように注意する。


たとえどんなに細かい破片でも・・・それがキョーコと選んだ写真立てで、二人の結婚式を写した写真であるのだから、蓮にとってそれは決してなくなってはいけないものだ。
ふかふかの絨毯に紛れて見逃さないよう、しかし、自分の指先は傷付けないよう。

最新の注意を払いながら指でつまんで拾い上げる。


指でつまめる大きさの物は全部拾い上げる事が出来た所で、それをどうしたらいいのかわからず、バーカウンターの上に置いた。

その隣には荒井と写っている紙も。

バーカウンターの雰囲気に揃えて買ったお気に入りのスツールに腰を落ち着けて、じっくりと2枚の写真を見比べてみる。

こうして並べて見ると、確かに同じように笑っているように見えた。



この時・・・本当は、共演者から今のキョーコの話を振られて困っていたのだ。

それを荒井が、昔蓮とキョーコが共演した映画の話題にさりげなく持って行ってくれて助かった。

最近では自他ともに認める京子ファンとなっている彼女が提供する京子の話題は違和感なくみんなを誘導して、今のキョーコの様子を誰も気にしなくなる。

あの時の蓮の色気は凄かったとか、京子が流す涙は観客の胸を熱くさせたとか、荒井と一緒になって盛り上がってくれた。


蓮としては自分を褒めちぎられるのは少々居心地が悪かったが、京子の素晴らしさを誇らしげに話す荒井の姿に嬉しくなり、荒井とともに共演者達と京子の話で盛り上がった。

それが結果、この笑顔に繋がってしまったのだが・・・



(でも・・・だったら、どうしたらよかったんだ。)



キョーコの要求通りに笑えば良かったのか。

しかし、それは何かが違う。


ならキョーコを納得させるだけの言葉を、あのわずかな時間で自分は用意できたのか。
恐らく、無理だった。

多分あの時のキョーコでは、何を言っても聞き入れはしなかっただろう。


では、あの時の自分は一体何をしたら正解だったのか。


色んな役を演じて、色んな場面(シーン)を経験してきたが、蓮に起きたこの事態を助けるものは何一つなかった。

生身の経験が全てモノを言う・・・機転の利かない自分に、蓮は段々と腹が立ってきた。



(―――少し、距離を置こうか・・・)



その考えに達したのは、明け方だった。

バーカウンターでずっと写真たちとにらめっこを続けていた蓮は、徐々に明るくなり始める室内に気付き、ようやく目を外へと向ける。


間もなく冬を迎えようと言う11月の朝の空気は、すでに冷たくぴんと張りつめている。

空調の効いた室内とは言え、独特の緊張を持った空気がどこからともなく入り込んできて、開いたシャツの胸元をひやりとさせる。

蓮一人のだだっ広い居間では、その冷える空気をどう温める事も出来ない。

空もだいぶ白み室内が明るくなったところで、キョーコががたりと物音をさせて部屋から出てきた。


その手には大きな引き手付のスーツケース。

コートをしっかり着込んだキョーコは、まだ蓮が昨夜のままの服で居間にいた事に驚いた様子だったが、少し視線を落とすと、ぽつりと呟いた。


「―――――ここを、出ます・・・」

「・・・行先は?まだこの時間じゃ危ない・・・」

「タクシー呼びましたから、大丈夫です。」


昨夜の遺恨を残したままの二人は、短い言葉のやり取りをもそう長くは続けられない。

沈黙が二人の間の空気を更に尖らせた後、それでもキョーコの身を案じた蓮が動く。


「キョーコが出るのなら、俺が出る。男の俺なら別に問題はないから・・・」

「私が、ここにいたくないんです。」

「そう・・・じゃあ、せめて玄関までは見送らせ・・・」

「いりません。もう私には構わないでください。」

「・・・」


昨日程の興奮状態にはいないものの、キョーコの言葉には鋭い棘が突き出していて、蓮の言葉を片っ端から突き刺していく。

取りつく島のない蓮は浮かせた腰をそのままに、止まるしかなかった。


その様子にキョーコは泣きそうな顔を一瞬だけ見せたが、絨毯の上を滑りにくいスーツケースを引っ張ると、廊下へと続くドアへと手をかける。

そして・・・連に背を向けたまま、ぽつりと小さく「さよなら」と告げ、そのまま家から出て行ってしまった。






挽きたてのコーヒー豆で淹れるコーヒーは、香りも高く美味しい。

しかし、どんなに温かな湯気を立てていても、蓮は室内に温もりを感じられなかった。



だって、キョーコがいない。

キョーコのご飯がなくて、キョーコの笑顔がなくて。

そして、抱きしめられるキョーコがいない―――



木でできたダイニングテーブルにカップがぶつかるこつんと言う音でさえ、どこか硬く尖った音に聞こえる。

せっかく淹れたコーヒーだったが、蓮は半分以上も残ったそれを流しの中に置き、上着と鞄を取りにクローゼットへと戻ってしまった。






作品用拍手アイコン ←ろんりー蓮さん。

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明日終業式なのですが、息子溶連菌にかかりましたとさ・・・!

んで、旦那が足の指にヒビ入れてきましたとさ・・・!

そして夕方、実家の父が入院騒動起こしましたとさ・・・!


うちの男どもはどうなっとんじゃー!

(そんなわけで金曜日は更新できないかとorz)