こんばんはー!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。



皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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「―――・・・うん、そっか。・・・キョーコちゃんが元気なら、とりあえずお兄さんは安心したよ。」



某テレビ局内、大スタジオの一角。

大道具が立てかけてあるその裏でこそこそと電話を取っていたのは社だった。


相手はキョーコのマネージャーである棚瀬 愛だ。

キョーコの様子が知りたくて、棚瀬が二人の自宅を訪ねていない時間帯を狙って電話をかけたのだった。

今日はキョーコに頼まれて買い物に付き合っていたらしく、折り返し電話を入れてもらう事になってしまったのだが。


「うん、蓮もちょっと変でさ・・・二人の間に何があったのかは俺も解らないんだ。蓮はああいう奴だからさ・・・うまく隠せてると思ってたみたいだけど。

―――うん・・うん。キョーコちゃんから何か言われたら、その時は相談に乗ってあげてね。電話ありがとう、愛ちゃん。じゃあ、何かあったらお互いに連絡をって事で。

―――うん。じゃあ・・・」


いくら休憩中であるとは言え、長々と話し込むのは良くない。

棚瀬も先程までキョーコと一緒に外出していたと言うが、これから帰社して事務仕事が待っている筈だ。


お互いの為に早々に切り上げた通話。

機械クラッシャーの為スマホなどと言う流行の物を持てない彼は、長年愛用している折り畳み携帯を胸ポケットにしまいながら蓮のいる方を見た。


小道具のスタッフ達が細かい調整を行うセットの付近で、蓮は共演者の数名と談笑していた。

その横顔はにこやかだが・・・朝死にそうな顔をして「社さん・・・胃薬をください・・・」と言ってきた事を社は忘れない。



(本当に・・・最近どうしたんだよ、蓮。)



以前からちょいちょい社の胃薬を強請ってくるようになった蓮。

理由を聞いてみると、「キョーコの料理が多いけど、残したくなくて・・・」と言うものだった。

蓮の食欲中枢が壊滅的である事ですら記憶の彼方で眠っている今のキョーコの料理は、どうやら蓮の胃のキャパシティを超えているらしい。

それでも「愛する妻の料理は何一つ残したくない」と言うのだから、キョーコに対する蓮の愛の深さは素晴らしいと社は思う。

だからこそ、辛そうな時は何も言わずに胃薬を差し出してきていたのだが・・・


ここ2週間、蓮は毎朝真っ青な顔をして胃薬を要求してきた。

夜も、最低でも週に2回は自宅で食べるようにしていたのだが、それすらなくなった。


これはキョーコと何かあったと直感したのだが・・・

蓮は一瞬黙った後、お得意のきゅらっと光る営業スマイルで「何もないですよ?」とだけ言った。

しかし、にこりと笑ったその目は笑っていなくて、「これ以上は社さんでも立ち入らないでくださいね?」と言う蓮からのメッセージが社の心に重く圧し掛かってきた。


こういう時の蓮には逆らわない方がいいと長年の経験で理解している社は、黙ってコクコクと頷いたのだが・・・


しかし、何より心配なのはキョーコだった。

今のキョーコは記憶が戻らず、悶々としているはずだ。

そこで蓮との間にトラブルなど発生したら・・・間違いなくキョーコのストレスになってしまうだろう。

なるべくゆったりと過ごしてほしいと願っている社は、それが原因で体調を崩したりしていないかが心配だった。



(本当に・・・大丈夫なんだよな?)


棚瀬が見てくれているキョーコの様子では、今の所健康面では問題なさそうだと言う事だった。

ただ、蓮の話になると無理矢理にでも話題を変えようとするらしい。

その様子が痛々しくて・・・棚瀬でも詳しく話を聞く事が出来ないでいるそうだ。


「お前が大丈夫って言うのなら・・・信じるぞ、蓮・・・」


だって、俺はお前の相棒なんだからな―――



話しかけてきた女優と笑い合っている蓮を見ながら、少しの不安を抱えたまま社はラテックスの手袋を外した。




***




「―――どうかされたんですか?」


荒井にそう声をかけられて、蓮はセットの中から視線を輪の中に戻した。

小道具の位置変更で少し出来た休憩時間。

このセットで撮りを行っている共演者達で輪になって色々話をしていたところだった。


共演者の一人が「最近卵料理の美味しいお店を発見して~」と話し出した事から、今朝のスクランブルエッグを思い出したのだ。

綺麗なクリーム色をしたスクランブルエッグは、昔キョーコが作ってくれたものと全く同じ物だったが・・・

やはり塩味が少し濃くて、用意されていたケチャップには一度も手が伸びなかった。


「敦賀さん・・・?」

「うん、ごめんね。セットの直しに時間かかりそうだなと思って。」


自分の名を呼ばれて、会話に加わらずにいた理由を瞬時にでっちあげる。

更に荒井ににっこりと笑いかけると、彼女ははにかみながら「そうですねぇ」と返事をした。



今は、誰にもキョーコと過ごす時間を悟られたくない。

例えキョーコに拒絶されている時間であっても―――



しかし、相手は京子の大ファンだと言う娘だ。

今一番触れてほしくない話題を持ってきてくれた。


「そう言えば・・・敦賀さん、最近ずっと社食でお見かけしてますけど京子さんは大丈夫なんですか?」

「あ、そう言えばそうだよねえ。大丈夫なの?敦賀くん。」


一人が話し出すと、そこにいる全員が「ああ、そう言えば・・・」と続けてくる。

その話題、痛いなぁと思いつつそれも自業自得なので、いつも通りの営業スマイルで返した。


「撮影が押してますからね、仕方ないですよ。その代わり、朝ごはんはちゃんと食べて来てますから。」

「朝から京子さんの手作り料理!素敵ですねー!」

「料理上手で有名ですものね、京子さんって。」

「相変らず君たちの所は仲が良くて素晴らしいよ。うちのかみさんなんか、朝ごはん用意してくれるのはたまにだからね・・・」


ベテラン俳優の言葉に若手達が「だって山野さんの所も奥様は第一線で活躍中の女優さんですものー!」と次々声を上げる中、蓮の笑顔は少しだけ引きつっていた。

勿論、それは付き合いの長い社くらいにしか読み取れないレベルだったのだが・・・

彼らの言葉は、小さく小さく蓮の心に棘を刺していった。



(仲が良くて―――か。もう顔も見たくない程嫌われたのにな・・・)



震える手が必死に抵抗して頬に残した爪痕は、今はもう消えてしまった。

蓮の身体にキョーコの痕跡は何一つ残されていない。

俳優でありモデルでもあるのだから、痕など残してはいけないし、綺麗に治った事は喜ばしい事なのだが。


それでも、今の蓮はキョーコが付けた傷一つでも失いたくなかった。

キョーコが自分を傷つけられる程側にいてくれた証拠だから。



「―――敦賀さんは今日はいかがですか?」

「・・・え?」


蓮が再び声をかけられ気が付いた時には、一緒にいたはずの共演者たちは捌けていた。

セット内に戻りスタッフの説明を受ける者、セットのドアの向こうで待機する者。

それをパイプ椅子に腰かけて眺める者。

その場に残っていたのは蓮と荒井だけだった。


「美味しい沖縄料理屋さんが近くに出来たから、立川さんが連れていってくれるって話になってたんですよ?」

「あ、ごめん。聞き逃してた。」

「もう・・・敦賀さんったら、京子さんが恋しいからってぼーっとしちゃダメですよ?」

「あはは、ごめんね。気を付けるよ。」

「ふふっ・・・山野さんが行かないって仰って終わっちゃいましたけど、立川さん達は行く気みたいですからご一緒にいかがですか?」

「そうだね・・・この撮影が早く終われば、かな。」

「ですねですね!パッと終わらせて、パッとご飯食べに行っちゃいましょう!」


ぱっと大きく手を上げてニッコリ笑う荒井の姿は、以前のはつらつとしたキョーコに良く似ていて。

そんな彼女の明るさが、今の蓮にはとても有難かった。


彼女に釣られて、不自然だった笑みも緩いカーブを口角に描かせて、やっと自然なものになった。







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すみません、これで本当にストック全部切れました。

明日は先週延期になった一大イベントの代替日なので、何にも書けない予定なのです。

(時間が出来ても企画の方やってるので・・・)


金曜日更新なかったらアイツ時間作れなくてキーキー叫んでるなと思ってください。←

(月曜火曜と自分の時間が持てなくて「きえー!」と叫んでるんです)