こんばんは、マックです。




※蓮キョ結婚後の話です。

現段階で種明かしは出来ませんが、ラストはハピエン。

ですが、途中は色々と辛い設定です。



こんな話ですみません。

ですが、決して熱中症を甘く見ないでください。


皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。


(ちなみに、医療従事者ではないので細かい病状等は詳しく突っ込まないでくれるとマックが助かります←)






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キョーコの処置を施してくれた院長の説明は、蓮にはなかなか受け入れる事の出来ないものだった。



「京子さんは、危険な状態です。」


重度の熱中症の状態で運ばれたキョーコは、救急車の中で一度呼吸まで止まってしまっていた。

乗っていた救命救急士の懸命な措置のお蔭で、病院に着くまでに何とか息を吹き返したと言うのだが・・・

脳波の異常どころか内臓も正常に機能をしておらず、本当に死んでしまう可能性の方が高かったのだそうだ。


「仮に目覚めたとしても、何らかの障害が残る可能性は否定できません。そうなると、場合によっては女優業への復帰が困難になるかと・・・」


女優『京子』の大ファンだと言う院長が、残念そうに肩を落としながら言葉を濁らせる。

他にもダメージを受けた臓器の説明等色々と説明を受けたような気がしたが、蓮の頭に残った言葉はその二つくらいであった。



最愛のキョーコが瀕死の危機に陥っていると言うのに、今の自分には何一つ助けてやることが出来ない―――




***




「社、蓮を少し涼しい所で休ませてやれ。少し頭を冷やさせろ。」


感情の抜け落ちた表情で、院長の言葉をただただ座って聞き流している蓮を退席させたのはローリィだった。

しかし、力の入らない190の大きな身体を社一人で支える事は難しく、ローリィの執事と二人がかりで何とか院長室から運び出す。

二人がやっとの思いでキョーコのいる特別病棟専用の集中治療室前へと運ぶと、蓮はその向かいの壁に背もたれを付けられたソファーにどさりと崩れ堕ちるように座り込んだ。


言葉もなく、ただ一礼をして主の元へと戻る執事の背中を少し目で追った社は憔悴しきった様子の蓮に何か声をかけようとしたが、何をどうしたらいいのかわからずに、ガラスの向こうで生死の境を彷徨うキョーコをそっと見やった。


廊下に面したガラスの窓には、薄いレースの白いカーテンがかかっており、中の様子がハッキリとは窺えない。

その真っ白なカーテンの隙間から見える、部屋以上に青白い顔をしたキョーコ。

その華奢な身体には、頭にも腕にも、喉にもチューブが沢山這っている。

デビューしたての頃のような明るい色ではないが、蓮の髪色に少し似た艶やかな茶色い髪が殆ど白い包帯に包まれているのを見ると、社は泣きたくなった。




「今回の差し入れはクッキーなんです!保冷剤も一緒に入れておきましたから、現場の皆さんと一緒に食べてくださいね!」


ロケに向かう日の朝、蓮を迎えに行った時に渡された紙袋。

新開の情報で「京子の差し入れは、料理でもお菓子でも何でもおいしい」と知った女性スタッフ達が、事前にキョーコに接触を図っていたらしい。

彼女達のリクエスト通り色とりどりのアイシングクッキーが入った箱は、最初の休憩時間であっという間に空っぽになっていた。


可愛らしいピンクの紙袋をにっこりと手渡し、蓮の頬に恥ずかしそうに「いってらっしゃい」のキスをするキョーコ。

結婚式から1年半以上も経った今でも初々しい新妻姿を披露するあの笑顔が、こんな事になるなんて。

幸せそうに微笑みあっていたあの日の朝の二人を思い出すと、社の鼻の奥は急激に熱くなってくる。


しかし、今自分が泣いてはいけない。

本当に辛いのは絶対・・・




蓮に目を移すと、いまだに何の感情も読み取れない生気の抜けた顔で、キョーコの鼓動を伝えるモニターの波をぼんやりと眺めていた。

いや、それすら蓮の目に映っているのかどうか怪しい。

虚ろな瞳には光が入る隙がなく、蓮自身が今、総てのものを拒んでいるように見えて。



このまま空気に溶けて、蓮までこのままいなくなってしまいそうな―――



そう思った次の瞬間、社は蓮の頬を叩いていた。


「蓮、しっかりしろ。戻って来い。キョーコちゃんの帰る場所はお前だろう!?」


手加減なしで力いっぱい叩いたつもりだったがそれでも蓮の瞳に自分が写っていないのを確認すると、社は蓮の胸座を掴んで立ち上がらせる。


「お前がそんなんでどうするんだよ。お前と一緒に幸せになりたいと願ったあの子は、お前を置いていくような真似はしないだろう?キョーコちゃんを信じろよ!」


社の大きな声は治療室内にいた看護師を注意の為に外に出した。
「あの、院内では静かに・・・」と、そう怒られても尚、蓮をがくがくと揺さぶる。

そうして揺さぶり続けると、看護師が開けたドアの向こうにあるモニターから漏れ聞こえてくる「ピッ、ピッ、」と言う小さな音と共に段々と蓮の瞳に光が戻り始めた。


「きょーこ・・・」

「あの子は強い子だよ。絶対に大丈夫。」

「社さん・・・俺・・・・・」


戻った光がゆらりと揺らめく。


「大丈夫、大丈夫だ・・・今はキョーコちゃんに一番近いこの場所にいてあげろ。俺はお茶でも買ってくるよ。」


背広の内ポケットを探ると蓮の手に自分のハンカチを手渡す。

ゆらゆら揺れる光がいくつもの珠になり、縁に溜まっていく。



一般病棟の入り口にあったコーヒーショップがまだ開いているといいな・・・

社は何も言わず、そっと蓮の傍を離れた。





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院内ではお静かに。←