こんばはー!マックです。


本日の更新は、自ブログ・自サイト連動型の「ただいま(おかえり)企画」に参戦させていただく作品です~。



企画名       ; 『ただいま(おかえり)企画』


企画主催者様  ; ROSE IN THE SKY    EMIRI様
             (拙宅フリースペースにもバナー入り口有)


20日までは企画専用の記事がブログトップになるそうです。

サイトへお越しの際はネチケ・マナーを守って、ご迷惑をおかけしないようご注意ください。


尚、こちらの企画の作品は内容的にact.202くらいまでのネタバレを含みます。

拙宅の作品もact.203までのネタバレを含んでおりますので、コミックス派でネタバレNGの方はご注意くださいませ。










゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆『ただいま。わたしの・・・』゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆





厚いブーツの底が、柔らかく吸収され空中へと送りだされる。


普段街中を歩く際にはカツコツ大きな音が立つのだが、客室のある階の床は一面カーペットだ。

人通りのせいで多少柔らかみが失われている部分もあったりするが、間もなく日付が変わろうとしているこの時間帯に大きな靴音をフロアー中に響かせなくていいのは、セツ・・・ではなく、キョーコがホッとしていた。



(あれからもう10日経ったのね・・・)



『ヒール兄妹』が借りている部屋のドアの前まで到着すると、キョーコは最後に会った先輩俳優の顔を思い出す。


事務所の社長専用応接室で見た彼の顔はとても穏やかで、いつもの『敦賀蓮』だった。

優しくにっこり微笑まれた事を思い出すと、自然とキョーコの頬は桃色に染まる。


そして、あの日蓮がまだ居た時間帯の自分の挙動不審っぷりに、キョーコは「敦賀さんにバレてないといいのだけど・・・」と小さく溜息を吐いた。


否。キョーコの想いなど、社長から「乙女の機微に疎い」と評されてしまう蓮に欠片も伝わっているわけはないのだが。

だけど、「恋愛初心者」である事は知っていても「機微に疎い」事はわからないキョーコの心臓は、ドキドキと早鐘を打ち始める。




社長から呼び出されたあの日以降、『セツカ』は暇をもらって母国に一時戻ったことになっていた。

その間学業に励んでいたキョーコは、完全に『カイン・ヒール』とも『敦賀蓮』とも切り離された日常を送っていた。


つまり今夜は、彼を好きだと自覚してから初めてのコンタクト―――


キョーコの緊張もひとしおだ。




(っ、大丈夫。この部屋では敦賀さんは敦賀さんじゃないし、私は私じゃない。周りがドン引きするくらいヤンマガな『ヒール兄妹』よ・・・)



例えあの時不審に思われていたとしても、この部屋の中であれば蓮は『カイン』として接してくる。

聞かれる事は一切ないだろうとキョーコは踏んだ。



(私は『セツ』。『兄さん』が病的なほど大好きな『セツカ・ヒール』――― )



ドキドキと早まる胸を拳で押さえつけ、ぎゅっと強く握りしめるとキョーコはその胸に『セツカ』を憑ける。

そうしてすうっと目を開いたセツカは、ドアの鍵をガチャガチャと乱暴に開けると持っていたスーツケースを引きずりながら部屋の中へと入って行った。




『・・・・・・・・・・なに、コレ。』



間接照明の灯る室内で真っ先に目に飛び込んできたのは、ビールの空き缶が並ぶミニキッチンだった。

流しの中にも調理台の上にも、挙句の果てには小さなコンロの上にも。

各メーカーのビール缶が並び、更にはその中にウィスキーのボトルまでが見える。


普段はルームキーパーを2日に1回程お願いしていたのだが、カインはどうやら「入室禁止」の札をドアノブに掛けっぱなしにして誰も入れなかったようだ。

酷いそのキッチンの有様に、セツカは言葉を失った。


その次に見えたのは、その並びに設置されているクローゼットにかけられた『カイン』のコートだ。

連日同じものを着ていたのだろうか、裾やひじの部分に皺が目立つ。

セツカと一緒に過ごしていた時にはきちんとクローゼットの中のハンガーにかけられていたそれは、今は一人だからと気が緩んで出されていたのか・・・

いや、多分そういう設定なんでしょうとセツカの中の『キョーコ』は思った。


そうして若干薄暗い室内の奥、いつかのように一人掛け用のソファーに大きな躯を任せ、テーブルの上に長い脚を放り出した格好で目を閉じている『カイン』を発見した。


カインのベッドは若干皺が寄っているもののかなり綺麗で、本当に自分がいない間使っていたのか不審に思う程だ。




(まさか・・・毎日こんなふうに寝てたわけじゃないわよね?)


『兄さん・・・?起きてるの?』



その休息を撮れているとは思えないような姿勢をやめさせたくて、ミニキッチンの空き缶の山の言い訳をさせたくて。

セツカはカインに声をかけた。



『・・・・・・・・・・ああ、セツか・・・』

『・・・寝てたのね?寝るならベッドで寝なきゃダメでしょ。』

『眠れないんだ、仕方がないだろう?』



首や腕を緩慢に動かすカインは、腰に手を当て怒る仕草のセツカを見ると、怠そうに脚をテーブルから下ろした。



『お前がいなかったから熟睡なんて出来なかった。』



間接照明の中ゆらりと光る瞳には、鋭い目つきからは想像できないほどの『セツカ』への愛が溢れている。


それを久しぶりに見た『セツカ』はにぃっと不敵に笑い。

『キョーコ』は ・・・ 胸の奥でざわりと何かがうごめくのを感じた。



だけど、それは『セツカ』が「今」出してはいけない。

・・・出してはいけない。



空き缶を片す為に、セツカはグローブを外してベッドに置き、キッチンの収納棚からごみ袋を取り出した。

そして山のような空き缶を濯ぎ出す。



『だから、キッチンが空き缶だらけなの・・・?』

『酒の力を借りた。』

『ご飯ちゃんと食べてた?』

『・・・あぁ』

『その間は嘘ね?』

『・・・』

『沈黙は肯定よ?兄さんが教えてくれたんじゃない。』

『・・・・・・』



蛇口からの流水音が時々止まり、その後流れるのは缶から流れ出るトポッ、トポッと言う規則正しい音。

空調音の他に混ざる音も、声もない。


完全に黙ってしまった兄に、セツカは溜息を吐きながら作業を中断した。



『もう、兄さん?』

『・・・お前がいなければ、俺は生きていけないんだ。』

『知ってるわ。・・・知ってる。』



自分を見つめる熱い二つの瞳に、きゅうっとセツカ・・・『キョーコ』の心は締め付けられる。




私じゃない・・・『この男(ヒト)』が必要としてるのは『セツカ』であって、『私』じゃない・・・・・・


それでも・・・・・・



『お前がいてくれないと、何も出来ない。』

『本当にそうね・・・アタシがいないと駄目っ子だなんて、ホント可愛い兄さん・・・』

『そうだな。お前がいないと駄目なんだ。・・・だから。』



トス、トス・・・と一歩ずつ近づくセツカに、カインは一単語一単語言葉を区切り、ゆっくりと語りかける。



『俺から一生 離れるな。』



目の前で止まったセツカを見上げ、カインは切なげな声で乞う。

素の『敦賀蓮』と『最上キョーコ』では聞くことのないその台詞に、セツカはクスクスと笑った。



『オーケィ・・・兄さんも、アタシの前から居なくならないでよ?』

『勿論だ。お前がいなければ、息の仕方もわからなくなる―――』

『それを言い訳にして煙草三昧になる気?やめてよ、フレグランスの香りが台無しになるわ。』



近くに寄った事で、カインから微かに煙草の煙の臭いが漂ってくる。

『蓮』では嗅ぐ事のないその臭いに、セツカは安堵し、キョーコはきゅっと唇を噛む。


近くでよく見てみると、漆黒に染められた髪はまだ濡れていた。

そしてシャツのデザインが奇抜すぎて剥き出しの肩は、少しかさついている。

どうやら食事をおろそかにしていたのは本当のようだ。

決して入浴から時間が経った、と言うだけではないコンディションを目の当たりにし、セツカはするりとその肌を撫で上げた。



『肌が少し荒れてる・・・兄さんの肌、触り心地がいいのに。髪も乾かしてないなんて・・・風邪ひくわよ?』

『俺は風邪をひかない。』

『もう・・・前に風邪ひいて苦しんでたの誰?』



濡れた髪を梳きながらふと口を突いて出た言葉に、ハッとしたのは『キョーコ』だった。



(やだ!私ったら・・・あの時の事思い出して台詞が・・・!)



キョーコの頭にあったのは、社が風邪で倒れ『敦賀蓮』の代理マネージャーをしていた時のあの数日間。

大嫌いだった『敦賀蓮』と距離を縮める・・・そして彼の演技に対する情熱を間近で見て、この俳優と言う職業に興味を持つきっかけとなったあの数日間の出来事。


『セツカ』である今なのに、キョーコの中で風邪をひいたと言う出来事は完全に『ヒール兄妹』の物ではなかった。

どう言葉を繋げばいいかわからず、必死に頭の中でヒール兄妹の過去について色々考えていると、目の前の男はフ・・・と柔らかく微笑んだ。



『そうだな・・・そう言えば一度だけ看病してもらった事があったな。不味いスタミナジュース飲まされて、二度と風邪はひかないって誓わされたな・・・』

『そっ、そうよ。風邪ひいたら、また作っちゃうんだから・・・!』



どうやら蓮は風邪をひいたエピソードを、そのままヒール兄妹に当てはめたようだった。

そんな蓮の台詞に甘えて、キョーコもセツカとして便乗する。


プリプリと口を尖らせる姿はアウトローなオシャレガール・セツカよりも若干キョーコ寄りなのだが、まだ動揺を完全に抑えきれないキョーコは気が付かない。

クールな妹像ではない、『最上キョーコ』に近いその姿を見て、カインの笑みはますます深くなった。



『―――でも、風邪をひけば、お前はどこにも行かずに側にいてくれそうだな。』

『何言ってるの。風邪なんてひかなくても、アタシは兄さんの側にいるわ。』

『本当か・・・?』

『ええ・・・勿論。』



皇かな肌に、柔らかな髪。

そして、煙草に混じるフレグランスの微かな香りと、蓮自身の温かな匂い。


何よりも、『カイン』の風貌なのに優しく微笑む蓮の表情に、キョーコの心はきゅぅっと締め付けられた。



(貴方が 私の事を「いらない」と言うその日まで・・・私はそばにいますから―――)



締め付けられるような切なさに、想いと泪が溢れてしまいそうで。

『セツカ』はカインの首に腕を回して抱き付いた。



『・・・ただいま、兄さん。』

『ああ・・・おかえり、セツ。』



身体の距離がほぼゼロになった事で煙草の臭い以上に強くキョーコの鼻をくすぐるのは、爽やかな石鹸といつもの蓮の香り。

濡れた髪もその大きな身体も効き過ぎた空調によって冷えていたけれど、キョーコの触れた場所から緩やかに温もりが広がっていく。


トクトクと脈打つ鼓動が厚い胸板から響いてくると、自分の胸にじわりと広がる愛おしさに頬が緩み、熱が集まるのを感じて。

キョーコは首筋に顔を埋めた。



(こんなにドキドキして、でも安心できて・・・心が満たされる事が「恋」にあるなんて、知らなかった・・・・・・)



緩く抱きしめ返すカインの腕の重みを背中に感じ、そっと目を伏せる。

するともっと近くにカインではない『蓮』を感じ取り、『キョーコ』は向かい合う事に決めた自分の恋心に、素直な気持ちで呼びかけた。





(ただいま。 わたしの    ――――――)








こぶたのヒトリゴト。-にゃんこ拍手 ←祭りだわっしょーい!!


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素敵絵師様&マスター様方の挙手に、毎度ながら腰が思いっきり引けてますが(・・・と思われにくい態度ですみませんorz)

きょこたんが想いを認めて新展開~!?な20号発売日まで、みんなで蓮キョ愛を叫んで盛り上げて行きましょう♪


EMIRIさん、この度は企画参戦させていただきありがとうございます^^






スキビ☆ランキング * ←いつもありがとうございます^^