※成立後数か月設定



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「あっ…」


広いキッチンに、可愛らしい悲鳴が小さく響く。
自分に背を向けて立っているキョーコに何が起きたのかと、格闘していたドイツ語の資料をダイニングテーブルの上に置き、蓮は流しに向かった。


「どうしたの?」
「あ、ちょっと指を切っちゃって…」


蓮が覗き込むと、右手薬指の爪の生え際から血が出て盛り上がっていた。
流しの中にはグラタン作りの為開けていたスウィートコーンの缶。

どうやら空き缶を片付けようとして切ったらしい。


ぽたり、ぽたり。


ぷっくりとふくれた血は、細いキョーコの指の上から簡単に零れ落ち、シンクのステンレスの上に赤い華を咲かせる。


「結構深く切ったんじゃないか?」
「んー、これくらい大したことないですよ?舐めておけば治りますよ。」
「舐めたら、ねぇ…?」


キョーコの言葉にピクリと反応した蓮は、手首を掴むと自分の口に含ませようとする指を強引に引き寄せ、はくりとくわえた。


「はわぁっ!?つつつ、敦賀さん……!!?」
「だって舐めれば治るんでしょう?」
「自分でできます自分でぇ~っ!!」


正しい男女のお付き合いを始めてから早数ヶ月。
スキンシップにいまだ慣れないキョーコは、隣に座るだけで頬をぼぼぼっと朱に染める。
蓮としてはその様子が可愛らしくてたまらないのだが…

深い関係にも何度もなっているわけだし、そろそろ普段のスキンシップには慣れてほしいな…などと考えていたところだ。


「他人が舐めた方が、治りが早いかもしれないよ?」
「そんなの聞いたことありませんってば!」


ぷりぷりと怒りながら口を尖らせる姿は、文句なしに可愛い。
恋する男の目にはどんな姿も可愛く映り、ますます笑顔になってしまう。

その事が、余計彼女を怒らせて更に笑みが深くなって…永遠にループするから始末におえないのだ。

ふっと緩んだ口元から抜け出した白く細い指は蓮の唾液で濡れて光り、余計な想像をした蓮の鼓動を少し早く打たせる。

年上の男のプライドとして、そんな余裕のなさを悟られたくなくて。
傷の具合に集中するべく目をしっかりと傷口に向けると、つうっと赤い筋を作って、再び滲み出したキョーコの血が流れた。


「キョーコ、これやっぱり深くない?」
「指先は毛細血管もいっぱい集まってますし、血は出やすいものなんです。心配しすぎですよ、敦賀さんったら…」


そうは言われても、可愛い彼女の指からまたじわじわと滲む朱の濃さに、心配は膨らんでいく。
深そうな傷口を再び口にしようとして、いつの間にか朱から赤に変わった血の道に、蓮は目を奪われた。

「…?敦賀さん…?どうかされました?」


自分の血を見て止まってしまった蓮が気になり、キョーコは蓮の顔を覗きこむ。
ハッと気が付くとキョーコの顔が目の前にあった蓮は、そのまま何か言葉を発する事なくキョーコの唇に吸い付いた。
ちゅうっと可愛らしい音を立てる唇を、何度も角度を変えて啄む。

そうして気が済むまで唇を味わうと、少しだけ苦しかったのか、蕩けたキョーコの唇から溜め息が小さく漏れた。


「つるがさん…?」
「ん、ごめんごめん…キョーコの赤い糸が、遠くへ伸びちゃわないか心配で……」


どうやら蓮は、指を赤く染める血から、『赤い糸』の話を思い出していたらしい。

運命の人を繋ぐ、赤い糸。

どんなに遠く離れていても切れる事はなく、すれ違っても絡まる事はなく。
この血の先は自分に繋がっていてくれる…そう信じていたいのだけど。

時々不安に駆られる事もある。


「あかいいと…に、見えたんですか?」
「うん…」
「伸びて、どこかで切れると思ったんですか?」
「うん……」


流れる血をぺろりと舐めて、蓮は指同様キョーコの細いからだを抱き締めた。

流れる赤い血と、あたたかい体温。
キョーコのすべてが愛しくて。
安心できて、胸が苦しい。

矛盾したこの気持ちが気持ち悪くて胸がざわざわとする。
だけどそのざわつきが同時に心地好くて……
やっぱり矛盾している。

ぎゅうと更に力を込めると脇から回った腕が、背中をばしばしと叩き始めた。


「敦賀さん苦しいです…」
「あ、ごめん」


温もりを自ら離すのは嫌だったが、負傷してるキョーコのからだの心配が第一。
名残惜しい蓮は腕の力をゆっくりと抜きキョーコを離した。
とたんに目に飛び込んできたのは、再びぷりぷりと口を尖らせお怒り気味のキョーコの顔だった。


「もおっ!敦賀さんご存じないんですか?『運命の赤い糸』は左手の小指ですよ?怪我は右手ですし、小指じゃないですから、全然関係ありません!!」

「え…そうなの?」
「そうなんです!…もぉっ、敦賀さんったら…そう言う乙女な伝説を信じてくださるのでしたら、もうちょっとはっきり覚えていてくださると嬉しいです。」

「それに、ですね…私の赤い糸の先は、敦賀さんに繋がってると、いいなー…だなんて、私も思ってたりするんです、ヨ……?」


キョーコ的には、蓮が中途半端に伝承を覚えていた事が置きに召さなかったらしい。
それに…と続いた言葉が、蓮にとっては嬉しい。

例えどんなに小さな声でも、それがキョーコの本心ならば。
絶対に聞き逃したりなんて出来ない。

ぷくぅっと膨れる可愛い頬に、蓮の頬は逆に緩む。


「ごめんね?今キョーコが教えてくれた事だし、もう間違えないよ。」
「本当ですか?」
「うん。それにね……?」

「俺も、赤い糸の先にいるのはキョーコがいいな?例えキョーコに繋がってなくても、手繰り寄せて、切って繋げて。絶対にキョーコを運命の人にするから。」


柔らかな耳朶が可愛らしい、小さな耳のそばで囁くと、キョーコの頬はぽぽっと紅に染まり「何ですかそれ…」と、左手で蓮の胸を小さく叩く。

決して嫌がってる訳ではない反応に、蓮の口角は自然と弧を描き、優しい笑顔を作った。




―――この決意は本物だよ?

君と永遠を手にするためなら、運命だって変えてみせる。

赤い糸の運命は、君にしか繋がらなくていいのだから。





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あれ?もっといちゃこらばカップルになる予定が、おかしな方向に。
おかしいなぁー……

不注意により空き缶で怪我した事からふと思い付いたSS。
降ってくると同時に、とある映画のワンシーンを思い出しました。
「うちとダーリンは、赤い糸で結ばれてるっちゃー!」
……うん、ラ○ちゃんは文句なしに可愛いです。
(実家にビデオテープがあったのですよー)


例えきょこたんに繋がってなかろうと、自分の手できょこたん引き寄せそうです。
切って繋げて、絶対にきょこたん捕獲。
まあその前に、心配せずとも二人は赤い糸で繋がってると信じてますけどね!!


ちなみによこしま編………むふふw
書けるかな………





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