かるたは苦手分野でごめんなさいしていたマック。

今回季節物で第9弾に参加させていただきました。


企画紹介 * 『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』


テーマ企画第9弾 * 『メロキュンカフェバー☆オープン!』 


タイトル『チョコレート・トリュフ』

副題   本日の王道・だけどすべてはあなた仕様



副題…難しい!



゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆



蓮とキョーコが付き合いはじめて1か月半。

初めて、恋人同士の為のイベントがやってきた。


珍しく帰宅が21時台と早かった蓮は、逸る気持ちを抑えながら愛車を自宅の駐車場へと滑り込ませる。



(……どんなのを、作ってくれたかな?)


運転ですら丁寧なはずの彼らしくない、白線に対して少し斜めに停められた車。

でも蓮は気にせずエンジンを切ると、急いで車から出てしまう。

コンパスの長さを駆使した優雅な歩行も、今夜はただの急ぎ足。

エレベーターがゆっくり上昇するのですらもどかしい。


だけど、蓮がこんなに急ぐのにも理由があった。


『今年は俺にもチョコレートを頂戴?』


キョーコの誕生日から…付き合いはじめてから1か月が経った日。

「そろそろバレンタインの材料を買いにいかなきゃ」と言ったキョーコに、蓮はリクエストをしていた。


「ゼリーも勿論美味しかったよ?俺だけ『特別』扱いなのも嬉しい。だけど、今年はみんなと同じ中での『特別』を堪能したいんだ。」

「 ??? いいですけど…甘いの大丈夫ですか?私の食べたら、皆さんからの頂き物も食べなくちゃいけなくなるんじゃ…」

「別に恋人からのチョコだけ食べるのは問題ないだろう?それは、みんなと同じ中でのキョーコだけの『特別』だよ?」

「 ??? はい……」



あの顔は、多分ちゃんと分かっていないだろうなと思いつつ、でも今年は自分にも用意されているであろうチョコレートに気持ちが浮かれてしまう。



ラッピングは何だろう。

凝り性なキョーコの事だから、可愛らしい造花のピックがついていたりするかもしれない。

チョコは何だろう。

去年はトリュフだと聞いていた。

味は何を用意してくれるかな?



これが仕事の時間帯で隣に社が居ようものなら、間違いなく「蓮、顔!顔っ!!」と叱咤されそうな蕩ける笑みを浮かべながら、蓮は自宅のドアを開けた。



「お帰りなさいっ!敦賀さん。」

「ただいま、キョーコ。」



パタパタッとスリッパの音を広い廊下に響かせながら駆け寄ってきてくれたキョーコは、学校帰りに寄ってくれたのか制服のまま。

華が咲いたような満面の笑みは、お尻に尻尾がついていようものならぱたぱたと振られていそうな程に可愛くて、思わず抱き締めたい衝動に駆られる。


勢いよく走ってきてくれたし、今日くらいはそのまま抱きついてくれるかなと少し期待していたが、キョーコは蓮のコートと鞄を受けとるとにっこり笑って「お疲れ様でした」と言うだけだった。



(そうだよね、まだ付き合いはじめて間もないからね……)



恥ずかしがりやの君にそれを求めるのは、少し早すぎたかな?


少しがっかりしたのは内緒の話。蓮は「ありがとう」と言うと靴を脱いで、パタパタとリビングへ向かうキョーコの背中を追いかけた。





「はい、こちらです…」



キョーコが用意していた軽めの夕食を摂り終えた後、コーヒーと一緒に出てきたのは長方形のピンクの箱。

幾つもの綺麗にカールしたリボンの先と白いミニ薔薇のブーケ型ピックが、まるでデパートで販売されているかのような豪華さを引き出しているが、勿論これはキョーコお手製。



「ありがとう、早速開けてもいい?」

「はい。」



キョーコの心の篭った全てを大事にとっておきたくて。

蓮はそっとリボンを外す。


中から出てきたのは、茶色と緑の丸い形が6つだった。



「トリュフ…」

「はい…やっぱりトリュフが一番見た目も可愛らしいし、王道かなぁと思いまして。」

「そうなんだね。」

「はい…っ!」



自分の隣に腰掛け、頬を薄桃色に染める姿は、昨年と同じ。


変わったのは場所と、姿。

そして二人の関係。


あの頃は、翌年こうして自宅のソファーで恋人のイベントを迎えられるなんて思っていなかった。

ほんわりピンク色のキョーコの顔に昨年との違いを一つ一つ発見し、ようやく手に入れられた『特別』な地位の喜びを噛み締める。



「じゃあ、キョーコ。あーん…」

「え…?えっ?ええっ!?」



餌をねだる小鳥のように口をぱかっと開けて待つ蓮に、キョーコはぽかんとしていたが、何を求められているのか理解すると一気に顔を真っ赤にした。

ぼふんっ!と音が聞こえてきそうだ。



「キョーコが食べさせて?」

「でっ、でも!」

「それも、今日、俺だけの『特別』だろう?…ね?」
「う、うう……では、その…失礼します。」


首をかしげながら「ね?」などと問われたキョーコは目線を忙しなく部屋中に走らせ、羞恥から逃げる算段を企てようとするものの…


目の前にあるのは、奥深くに艶を隠しつつも年相応に無邪気に笑いかける恋人の顔。
大好きなその「自分だけに見せてもらえる顔」の威力は抜群で…

小さく断りを入れてから、キョーコはそっと茶色のパウダーがかかった粒を指で抓む。



「あ、『あーん』…」

「あーん…」


そっと蓮の口の中へと運ばれたそれと一緒に、キョーコの指もはくりと咥える。

キョーコの指はびくりと震えて、蓮の口の中から慌てて飛び出して行った。



「にゃあああぁっ!!」

「ふふっ、可愛いねえ……ん?」



予想済みだったキョーコの声量よろしい悲鳴を聞きながら、蓮は口の中に入った甘みを溶かしにかかる。

すると、ただのチョコレートだと思ったその丸みの中から、チョコレートとは違う食感がいくつか現れた。



「これ…」

「あ、気が付かれましたか?今のココアパウダーの方は、お酒にも合うように砕いたナッツや刻んだドライフルーツを入れたんです。抹茶は京都の有名なお店で詰められた物を取り寄せたんです。」
「そう、でも全員分これを用意するのは大変だったんじゃない?」



口の中で様々な顔を見せてくれる、まるでキョーコのようなトリュフを楽しみながら蓮は何気なく質問する。

すると、キョーコは少し驚いた顔をしながらはっきりと答えた。



「それは、敦賀さんだけです!」

「え…俺だけ?」

「そうですよ?だって、やっぱり敦賀さんも皆さんと一緒と言うのは…それに、普通のチョコじゃ、敦賀さんが受け取ってきた女の子達のチョコと変わらないし……」



最後の方は俯きながらもにょもにょと喋るキョーコ。

だけど、蓮の耳と心には、はっきり届いていた。



『あなたは私の『特別』』

『他の女の子達の中に、埋もれてしまいたくない』



それは、キョーコが付き合い始めてから初めて見せた、ささやかな嫉妬心の現れ。

そして、キョーコの中で自分だけが『特別』である証拠。



(君って子は…)



恋人という位置を手に入れても尚付き纏う、「彼女の一番に本当になれたのだろうか」と言う小さな不安が口の中のチョコレートとともに溶けていく。



(俺の事をどこまでも理解(わか)ってくれてるんだから…)


「キョーコ」



そっと蓮に名前を呼ばれると、キョーコはふと顔を上げた。

蓮は昨年同様、キョーコを腕の檻に捕えて頬にちゅ…とキスを贈る。


今年はお互い座ったままだから、右の頬に。



「…ありがとう。」

「っっっ!!!」



昨年同様真っ赤になるキョーコの顔を覗き込みながら、蓮はにっこり笑いかける。

恋愛初心者な自分に合わせてもらって、まだ数えるほどにしかキスをしていなかったキョーコは湯気が出そうなほど熱くなった。



「お、お礼は言葉だけで結構です!!十分伝わりますっ!」

「はいはい、わかりました。」

「「はい」は1回です!!」



自分の腕の中で暴れ出すキョーコを抱きしめ直しながら、蓮はくすくすと笑いだした。



(焦る事はないんだ、だって俺は『特別』らしいから………)

「もーっ!!敦賀さん召し上がってくださらないのなら、私帰りますよ!?」

「ごめんごめん、ちゃんと全部食べるよ。ね?だから食べさせて?」



自分の腕の中で可愛いふくれっ面を披露するキョーコへ再びキスを仕掛けたいのを我慢しながら、蓮はキョーコの苦手な『おねだり方法』を使ってみる。

すると、キョーコは「うう…」と唸りながらもガラステーブルに置いたチョコレートの箱をちらりと見た。


キョーコが陥落して、丸みを帯びた愛情を手にするのも時間の問題。



優しい『恋人』の時間を歩み始めたばかりの二人の夜は、チョコレートの糖度を目指して砂糖を入れ始めたばかり。





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久しぶりのメロキュンでした。

付き合いはじめのドキドキと不安という事で、これから糖度が上がる予感をそっと感じていただければ幸いですw