※この話は、夜はホステスな才女きょこたんと、同じく夜はホストの准教授蓮の組み合わせです。
完全パラレルです。

蓮が戻ってきたと思ったら、自宅へ連れ込みました。
次辺りまた朝からジャンプするわ~!←


桃色描写アリの話ですので、苦手な方はお気をつけください。



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麻布十番方面へ少し走ると、それまでの喧騒が嘘だったかのように静かな住宅街へと入り込んだ。
タクシーは静まり返った坂を下りたり上ったりする。

うちがすぐ近くと言った蓮の言葉に間違いはなかった。
5分も走ると「ここでお願いします」と声がかかり、タクシーは一棟の高級マンションの手前で停められた。


「釣りはいいです。」

万札を出し、キョーコの手を引っ張り車外へと連れ出す。
そのまま蓮はマンションのエントランスへと歩き出した。


(…もう取り乱すのはやめよう)

タクシーの中で体が離された事もあり、キョーコの頭は少し冷めてきていた。
感じていた吐き気も治まっている。


カードキーをスライドさせて入ったエントランスは、ただひたすらにだだっ広い。
シャンデリアの光を受けた白い大理石の床が眩しくて、黒い皮張りのソファーが重厚感を引き出す。

飾られた花も白い花瓶も豪華。

国立大学のいち准教授が住めるようなレベルのマンションでない事だけは、酒の入ったキョーコにもすぐ見てとれた。

(すごいマンション…ううん、億ションね。)

今までに見た事もない豪華な内装に、思わずキョーコはきょろきょろとしてしまう。


1階にいたエレベーターへと乗ると、蓮は最上階のボタンを押す。
その間も蓮の手はキョーコの腕を掴んだままだ。

キョーコももう無駄な抵抗はしなかった。
『とにかくさっさと出掛けてもらおう。』
そう思っていたからだ。


(そうよ、『特別な用事』とやらが待ってるんだもの。私の具合が良くなったってわかれば、すぐ出掛けるでしょう。出掛けてから逃げ出せばいいわ。)


静かに、しかしスムーズに上昇する箱の中は会話ひとつなく重苦しい空気が漂う。

ずっとキョーコに背を向けたままの蓮の表情は窺えなかった。

(それにしてもこんな億ションの最上階って…これも貢いでもらって住まわせてもらってるのかしら。)


吐き気は治まったものの、チリチリと胸を焦がす『何か』は、キョーコの中で燻り続けている。


億ションの最上階に住める程の稼ぎ。
疑似彼氏。
『特別な用事』。


『クオン』には、全ての言動に女の影が感じられる。
女の扱いを十分に心得ているかのような蓮の態度に、キョーコは言い様のない気持ちになった。


それは生まれて初めて感じる気持ち。

燻る火種は胸の奥深くを侵食し、蓮に関わる全ての『オンナ』を、そして蓮本人を「憎い」と思わせる。
そして、そんな自分が惨めで一番憎らしい。


「嫉妬」と言う言葉の範囲で済むのかしら。
――ううん、私は先生なんて好きじゃない。
こんな醜い気持ちになるから、やっぱり恋愛なんて良いものじゃないわ。


キョーコは、広い蓮の背中を眺めながら心に仮面を被せていく。

(恋愛なんてもうしない。先生なんて…好きじゃない。)


最上階へ着くと、すうっとエレベーターの扉が開く。

見える家の扉はひとつ。
後はひたすら広く長い、明るい廊下。
他の階がどうなっているのかはわからないが、どうやらこの階は蓮の部屋のみしかないらしい。

手を引かれたままずんずんと進まれ、キョーコは蓮に同居人がいるのではないかと今更な疑問を抱き、不安になった。
同居人がいるのなら、蓮が外出しても逃げ出すのが難しい。

そしてその同居人が女性だったら…?
自分は冷静でいられるだろうか。


「…ご両親が起きられてしまうのでは?」
「ん?ここに住んでるのは俺一人だよ?伯父の所有物件でね、住まわせてもらってるだけ。」

キョーコの思考をどこまで把握しているのかはわからないが、蓮は同居人の存在を否定し、豪華な家に住む理由まで簡潔に教えてくれる。

空いてる手でポケットへと手を入れると、取り出した鍵を使ってさっさと扉を開けた蓮。
キョーコは手を繋いだままドアをくぐった。



**



「はい、お水」

ミネラルウォーターのペットボトルが手渡され、伝わってきた冷たさにキョーコは身を小さく震わせた。


ワンフロアーに一室しかないこの家の間取りは、キョーコの目には全てが規格外に写る。

キョーコの家の寝室くらいの広さがある玄関に、大学内で一番新しい校舎の物よりも広くて明るい廊下。
今いるリビングも、ゼミで使用する少人数用の教室よりも広く感じる。

キョーコの座らされたソファーもしっとりと手触りのいい黒皮で、何人用なのか考え込みそうな程大きい。
うっかり撫でてその感触を楽しみたくなってしまったキョーコは、体ひとつ分空けて腰を下ろした蓮の気配に慌てて気を引き締めた。


「ありがとう、ございます…あたしのことは気にせず早く出掛けたらいかがです?今夜は『特別な用件』なんでしょう?」


蓮の視線がずっと自分から離れないのを感じ、ペットボトルを睨みながら外出を促す。

言葉は丁寧に、だけど雰囲気はナツのように少し強気にした事で、自分でも嫌味っぽく聞こえた。
でも今、素の『最上キョーコ』を見せる事は出来ない。
素に戻ったら…きっとまた叫び出してしまう。

『他のオンナと一緒にしないで…!!』

(そんな台詞、『恋愛しない』って決めたんだから死んでも口にするもんですかっ!)


胸でチリチリと燃えたままの気持ちが冷めてくれるように、掌から体温を奪っていくペットボトルにキョーコは口を付けた。
静かな部屋に、咽下する音がこくこくと響く。

その間も蓮の強い視線をひしひしと受け、居心地の悪さを感じる。

キョーコが水を飲み終わるのを待って、蓮は口を開いた。


「そうだね、今日の用件が色々増えちゃったからね。さっさと済まそうかな。」


蓮が自分から視線を外し腰を浮かす気配がして、キョーコは詰めていた息をすぅっと吐き出した。

しかし、次の瞬間に何が起こったかが理解できなかった。

気が付いた時には俯いていたはずの目線が天井を見る姿勢になり、上から蓮にのし掛かられていた。

蓮の視線は先程よりも強く、熱い。
しかし無表情なままゆっくり開かれた口から出てきた声は、今まで聞いてきた中で一番冷たかった。



「………『不破尚』とは、どういう関係?」




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寝落ち危険ー!

二時間遅れで更新orz
そして出汁尚再登場。
今度こそ出汁になれる?←いや、きっとなれない