※この話は、夜はホステスな才女きょこたんと、同じく夜はホストの准教授蓮の組み合わせです。
完全パラレルです。

前回に続き、ショータローが出ています。
情報提供元的役割で、そんなに悪い奴じゃありません。


苦手な方はお気をつけください。



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明るかったエレベーターとは対照的に、室内は間接照明が多く暗い印象だった。

しかし、その暗さは陰湿的なものではない。
広いフロアー内にいくつもある、キラリと光るシャンデリアの煌めきをより強調させたり、グラスに注がれる黄金色の泡の細やかをとても美味しそうに見せている。

黒い皮張りのソファーは、ひんやりしつつもふかふかの座り心地。
ガラスのテーブルは丁寧に磨かれて、汚れひとつ見当たらない。
調度品は黒で統一され、飾られる豪華な花は女の子好みの白やピンクが基調となっている。

初めて『クオン』を見たときに抱いた、『いい店のホスト』と言う感想は間違いではなかった。


「お前、飲めたよな?」

ショータローが深い赤色を入れたグラスをキョーコの前にカチンと置いた。
自分の前には琥珀色のグラス。


「まぁ、客とはまず乾杯だからな。」

チン、と高く澄んだ音が、グラスがぶつかった場所から響く。
ショータローはそのまま自分のグラスの中身をぐっと飲み干した。

キョーコもそれを見て、自分の目の前に置かれたグラスを取り、口を付ける。

ふわりと香る強いアルコールと赤い果実の香り。
比較的フルーティーな味わいの物なのは、恐らく『飲むのは久しぶりだろう』とでも思ったショータローなりの気遣いから来るチョイスだろう。

(別に全然飲めるんだけど、私……)

しかし、ここに来るギリギリまで店で働いていたキョーコは、本日すでにある程度のアルコールを摂取している。
いらぬ気遣いとは思いつつ、軽めの酒を選んでくれた事に感謝した。


「で、何でまたそんなカッコでこんな店来てんだよ。」

若干乱暴にカチンとテーブルにグラスを置きながら、ショータローは本題を切り出してきた。

「…知人がこの店で働いてるって聞いたの。」
「お前にホストやるような知り合いが出来たのかよ!…って、まあこの店変わってるからな。どんな夢持ってる奴なんだ?」
「夢…?」
「何だよ、そいつに聞いて来たんじゃねーのかよ。」

突然出てきた『夢』と言う言葉が、ショータローには似合うけどこの場には似合わない気がして、思わず聞き返す。
すると、ショータローは呆れながら説明をしてくれた。


「この店のホストはみんな夜の仕事が本職じゃない。昼間はサラリーマンしたり、俺みたいに夢のために金やファンが必要な奴が働いてるのさ。」
「え…みんな?」
「そう。オーナーがイカれてるからさ、若者の『愛』と『夢』は応援すべき!ってな。まったく、お子ちゃま向けのヒーローかっての。」
「『夢』……」

(て事は、先生にも何か夢があってここで働いてるってこと…?教授になる以外に夢があるってこと……?)


大学の高評価・厚待遇な事や学生からの人気ぶりを考えると、蓮は教授職に就き、ずっと研究をしながら大学にいるものと思っていた。
しかしここでホストをしているという事は、教授になる事が最終目標ではないと言う事ではないだろうか。


キョーコは暗めの店内をぐるりと見渡した。

先程から何度も探してはいたのだが、その肝心の『クオン』は見当たらなかった。


「お前の知り合いって、誰なん…」
「ねぇ!どうして今夜クオンはいないの!?」

自分の目の前に座っているくせに、自分ではなくその知人をそわそわと探すキョーコが面白くなくて、ショータローが膝を詰めて問いただそうとしたその時。
突然室内に甲高い叫び声が響いた。


「申し訳ございません高園寺様。クオンは本日用事がございまして、既に上がっております。」
「週末はいつも私に付き合うようにって、先払いで渡してるでしょう!?どうして今日は駄目なのよ!」
「大事な用件と伺っております。」
「『恋愛』が絡む用件じゃないでしょうねぇ!?そんなの私許さないわよっ!?」

「あーぁ、エリカ御嬢様のご機嫌ぶっ倒れ。クオンめザマーミロってんだ。」
「何……?」

やっとこの日の目的の人物の名前が出たのはよいが、どうやらショータローは蓮の事をよく思ってないらしい。
これ以上どう聞き出したらいいのか思案していると、ショータローは聞きもしていないのにポロポロと情報をくれた。


「クオンはうちのナンバーワンだけど、掴み所がない奴って言うか…あー言う大金貢いでくれるVIP専用ホスト。」
「VIP専用…」
「まー、金積んでくれる客の完全疑似彼氏?来る者拒まずで、客と寝るって話もあるなぁ。最近はエリカ様があいつの時間、ほとんどお買い上げしてるって話だけど。」
「なっ……!?」


キョーコは絶句してしまった。
これまで憧れ思い描いていた蓮のイメージとはまるで違うクオンのホスト話に、今度こそ蓮への想いがガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのが聞こえる気がした。

(寝るって…やっぱりいつもそういうことしてるから、だから私にも言ったのね…!?)


「何?もしかして知り合いってクオンか?止めとけやめとけ、あいつは体は許しても心は許さねーよ。」
「俺もバンド仲間と資金稼げたし、スポンサーにもファンにもついてもらえたし。来月メジャーデビューするんだよ……だからキョーコさ、俺と付き合ってみねーか?」

蓮の話で茫然としていたキョーコに、ショータローは以前から言いたかった事をボソボソと伝え始めた。
本当は好きだったのに、愛情表現が下手だったが故に取ってしまった行動を、尚は尚なりに後悔していたのだ。


「あの時の事は悪かったと思ってる。これから俺、音楽一本でやってけるようになるから。だから」
「だから何?別にあの時の事はもういいわよ……帰るわ。」


キョーコはグラスの中身を一気に飲み干しカチリとテーブルに置くと、席を立とうとした。

「待てよキョーコ…っ」
「私、恋愛なんてしないことにしたの。ショーちゃんのことももう好きじゃないの。……御馳走様。」


慌てて引き留めたショータローに対し、昔のようにふんりと笑いかけて見せたキョーコ。
しかし、その口から出た言葉と声の冷たさに。
そしてかつて呼ばれていた『ショーちゃん』と言う懐かしい響きに、ショータローは思わず固まってしまった。


テーブルの上にぱさぱさと万札を数枚散らすと、キョーコはそのままさっさと出口へと向かってしまう。

ショータローは遠ざかっていく後ろ姿を見送る事しか出来なかった。



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客を見送りに出ないホストはダメホストです!←


ショータローはショータローなりに反省しているんですよ。
(まあこの話では…って事ですが。)

去年のこの時間、まだ息子はお腹の中にいたのかと思うとビックリです(出産時間4時間半)