※この話は、夜はホステスな才女きょこたんと、同じく夜はホストの准教授蓮の組み合わせです。
完全パラレルです。

そのうち必ず桃色描写来ます。限定記事を読まないと話が繋がらない可能性があります。


その手の話が苦手な方はお気をつけくださいね。



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その夜も出勤だったキョーコは、客の相手をしていた。

この数ヵ月ですっかり顔馴染みになった中小企業の社長……本日若干頭が弱く感じられるのは、3軒目のはしご酒で酔いが完全に回っているからだろうか。


(それにしても、毎度そんな早い時間から社長が飲んでて大丈夫なのかしら?この人の会社…)

うっかりそんな心配をしてしまうのは、元来気の優しいキョーコの性分。
だけど『ナツ』はそんな台詞は口にしない。

おだてつつも、時折相手に悟らせないように毒づいたりもする。
リップサービスが上手すぎて、客は誰も『ナツ』に貶されたことに気付かない。


しかし、もしも気がつかれてしまったら、いくら店ナンバーワンの『ナツ』でも何かしらのお咎めは来るだろう。

ママが駆け出しホステス時代からお世話になってきたお客人も多い。
そしてこの銀座と言う地は、それなりの社会的地位を築いている人が遊びに来る事が多いだけに、一人の客を失う事はかなりの損失を店に与える事になる。


だけど………どこか心が満たされない『ナツ』は、危険とわかりつつもついつい遊んでしまう。

最近『ナツ』はそうやって遊ぶ事で、スリルを楽しんでいた。



「じゃあ斎藤さん、下までお送りしますね?」
「うん、ありがとーナッちゃん。」

いつもと同じように、見送る為に席を立つ。
フラフラの体にそっと手を添えながら、エレベーターへと乗り込んだ。

「ちゃんと歩いて帰れます?タクシーは数寄屋通りの方が今の時間はよく拾えますよ。」
「だめー、もう飲めないから今夜は帰らないよー。」

酔っ払った客の相手はそこそこ慣れている。
いい年してなに甘えた声出してるんだと毒づきながら、『よしよし』と背中をさすってやる。

「何言ってるんですか。ちゃんと帰って明日も頑張るんです。その為のお酒でしょう?」
「じゃー、ナッちゃんと一緒にかえるー」
「駄目ですよ、私は仕事です。」
「もーそろそろ店終いでしょ、一緒に行こー?」

フラフラだったはずの中年男は、急にそれまでのふらつきが嘘だったかのような強い力でキョーコに抱きついてきた。

「斎藤さん、酔いすぎですよ。離してください。」
「やだ。ずっとナッちゃんをいいなと思ってたんだ。」
「ただの客とホステスです。」
「俺にとっては違う。」


自分の体に絡み付く腕をやんわり外そうとするが、ずんぐりとした男の体は一ミリも動かすことが出来ない。

男に免疫のないキョーコは、だんだん怖くなってきて『ナツ』の仮面が剥がれていった。

「お願いだよ、仕事も家庭もうまくいかなくて辛いんだ。一度だけでいいから慰めてくれよ……」
「い、嫌です!そんなの、私には関係ない…っ」
「お願いだからさ、いい夢見させてよ…」


確かに、現実を忘れる程の楽しい時間をお客人に提供する――
それがホステスの役目かもしれないが、しかし恋愛感情を持ち込んで、尚且つ一夜を共に過ごせなど………

好きでもない男に抱かれろというのは、男性に免疫のないキョーコには全く考えられない事だった。


「や、やぁ……」

ドレスに隠されていないむき出しの背中を撫でさすられ、嫌悪感から一気に鳥肌が立つ。

こんな事は初めてで、対処に困ったのと恐怖から動けないでいると、ふいに巻き付いていた男の腕が離れた。

「いでででで……っ!!誰だお前…っ」
「いや、エレベーター開いたら痴漢がいたのでね。こうして捕まえてるわけですよ?」


いつの間にか1階へ到着していたエレベーターへと半歩足を踏み入れて、男の腕を捻り上げていたのは。

金髪碧眼の、昨夜見たままのホストの格好をした蓮だった。


「ホステス口説くのに、こんな泥酔してちゃ駄目でしょ。毎日花束やアクセサリーをしっかり貢がなきゃね、この世界の基本だよ?…貢げない男は口説く資格はないんだよ。」

蓮の碧の瞳がすうっと冷えて言葉に凄みを増させていくのを、キョーコはただただ見ていた。
腕を掴まれ直接は見えない男も、色々感じ取ったのだろう。
小さく『ぅひぃ』と呻き声を上げ、震え上がった。

「さっさと帰れ……次はどでかいバラの花束でも持ってくるんだな。」

腕から手が離されると、男は一目散にエレベーターから飛び出していった。

それを見届けてから、蓮はキョーコをエレベーターの外へと連れ出す。

「最上さん、大丈夫?…いや、仕事中は『ナツ』か?」

心配そうに覗き込む蓮の瞳にホッとしたのも束の間、『ナツ』と呼ばれた事で昼間の蓮とのやりとりを思い出し…思わず蓮の体を押し退けていた。


「別に、あんなのあたし一人でだってどうにか出来るわ……恩売る気だった、先生?」
「…そう、『ナツ』はあれくらい簡単にかわせるんだね?…邪魔したかな?」

ツンとしたナツの態度にまたも蓮は一瞬躊躇したが、深い碧の瞳が先程の冷たさではない、妖しい光を宿してキョーコを捕らえる。

「銀座のホステスはプライドが高いから枕なんてしないと思ってたけど、ナツは枕も平気でする子なんだね。」
「…プライドが高いと枕しないわけ?それはクオンの勝手な先入観だわ。」

「そうかもしれないね…じゃあ……」


言葉が終わらないうちに、キョーコの細い体はビルの壁に押し付けられる。
キョーコが壁面の冷たさに顔をしかめた瞬間、顎を掴まれ上を向かされ、そのまま唇を奪われた。




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一場面の長さに泣いてます。