そして、いよいよほぼ3週間ぶりに最上さんに会えると言う土曜日。

俺は朝から張り切って家の掃除をしていた。

「蓮くんがそんなにお掃除するだなんて、珍しいわねぇ…」
「別に一人でいる時も、いつも適当にやっててたよ。
それより母さん!忘れ物はない!?俺、夏休みの時みたいに空港までチケット届けさせられるの嫌だよ!?」
「ええ、勿論!今回は大丈夫よ~。だって周平さんと一緒にちゃんと確認したもの♪」

ニコニコと笑う母さんを見て思わず(それでも不安なんだって…)と、心の中でため息を吐くのも何度目だろうか。

モデルとしては一流と評される母さん……ジュリエナ・ヒズリ(本名は敦賀だけど)。
勿論俺も、モデルとしての母さんは尊敬しているのだけど……

何と言うか、ショーステージを降り、完全にオフの顔になった時が色んな意味で恐い。

平気で財布は落として来るし、料理は摩訶不思議な味付けのせいで食べ物として見る事が出来ない。
車の運転もジェットコースター並みのスリルが味わえるし、何かあるとすぐ『私の寿命はあと○○分よ!』と来る。

父さんがしっかりしてる人でなければ、この夫婦は本当に生活が成り立たなかったのではないだろうか……

(まぁ、だから俺もこんな性格に育ったんだしな)

二人の職場にちょこちょこ顔を出したり手伝いをしたりして早くから大人社会に揉まれた俺は、同学年のみんなより老成しているらしい。
そこは俺も多少自覚している。

どうにも日本の高校生は平和ボケしてると言うか、自立心がアメリカより全然ないと言うか…
こんなので成人の年齢を18歳まで引き下げる法案とか作って大丈夫なのかよと、思わずにはいられないほどお気楽だ。

(みんなが皆、最上さんくらいしっかりしてたらねぇ…いいのかもしれないけどさ)

今のところ生活費や学費など自分でバイトしてやりくりしている彼女を思うと、『しっかりしてる』と評される事の多い自分ですら頭が上がらない。


彼女は色んなものを抱えて生きている。

母親との不仲を悲しむ事も。
婚約者だった幼馴染みに捨てられた事も。
心休まる存在が18年間ずっとなかった事も。

全てをあの華奢なからだひとつで受け止めてきた。

勿論今は、大学に沢山の友達がいて、下宿先でもあるバイトの雇い主に恵まれて。
最上さんの状況は大きく変わっている。


願わくば、その中でも一番、最上さんのそばにいられる人間になりたい。

物理的な距離においても、精神的な距離においても。
彼女を支え、彼女の愛を一番に受けられる人物になりたい。

(……とは言ってもなー。3つも年下の高校生に支えられるってのも、最上さんは不本意かなぁ)

「蓮くん?じゃあ戸締まりしっかりするのよ?ちゃんとご飯食べるのよ?IHだからってお湯かけっぱなしでゲームしちゃダメよ?それから……」

掃除機をガタガタ片付けながらあれこれ考え事をしていると、後ろから母さんが次々注意事項を述べてくる。

俺ももう小学生じゃないんだから、そんな細かく注意しなくったって平気なんだけどなぁ……
などと言う愚痴はこぼしたら大変なので、心の中だけに閉まっておく。

「ああもう、わかったからさ!父さん待たせてるだろ?早く行ってあげて。」
「ええー?愛する息子との別れは惜しみたいわ!」
「父さんの焼きもちが恐いんだってば、はい鞄。気を付けて行ってきてね。」

母さんに鞄を手渡すと、そのまま挨拶のハグとチークキス。

海外暮らしの方が長い我が家の挨拶の仕方だ。
物心が付いてから日本に戻って来て、こんな挨拶はしないと知った時は少々驚いた。

まぁ、もう年頃の息子なんだしそろそろ止めてくれてもいいとは思うが、重量級の愛情表現がとんでもない所で出ても困るのでここは大人しくしておこう。

「じゃあ、言ってくるわね。」
「行ってらっしゃい。」


無事に母さんを送り出すと、肩に力が妙に入った。


久しぶりの最上さん。
家には二人きり。

どうやって過ごそうか(一応名目は定期試験の勉強なんだけど)
話しは続くのだろうか。

キス………くらいはしても大丈夫なんだろうか。


普通に考えれば大した事ない問題をぐるぐると考えていると、ふいにエントランスにうちへの来客到着を告げるチャイムが鳴った。




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きょこ登場せず……!
ジュリママが1話使っちゃったよー!
あう、でも蓮くんのお話だからしょうがない…

ママ好きですよ。
あの『私の寿命は~』の下り、似たような台詞を口走る人が身内にいてくれるお陰で親近感が沸きますwww
いつか原作でもしっかり出番来てくれないかしら。