「ところでさぁ…蓮ってキョーコちゃんとどこまで進んでるわけ?」

しばらく前を進んでいた貴島が、ふと寄ってきて口元に手を当ててまるで内緒話をするかのようにこっそり聞いてきた。

「もうやっちゃった?」
「ばっ…!そんなわけないだろう!?」

こいつは相変わらず…!
それに、さっき俺が「全然会えてない」って言った事、もう忘れてるんじゃないのか!?

肩から掛けていた鞄を振り回して威嚇すると、ひょいとあっさり躱されてしまった。

「え~?だって、お前の手の早さは有名だろう?キョーコちゃんの事好きなのか聞いて『別に』って答えておきながら、直後にちゃっかりキスしちゃうくらいなんだぜ?そりゃ気になるじゃないか~。なぁ、社?」

俺らの後ろを歩いている社に声がかかると、社ははぁ、とため息を一つ吐いてようやく俺らの会話に参戦してきた。

「手が早いのはどっちかと言えば貴島だろう?蓮の場合は女の子に押し切られる形が多かったからな…手が早いわけじゃないよ。」
「え、なになに?女の子の方から誘ってくれるの?それいいねー!」
「…別に、最後にはみんな『お友達に戻りましょう』だったから、いいも何もないんだけど。」
「蓮の場合はフェミニストすぎなんだよ。そして受け身過ぎ。だから実はキョーコちゃんの事、どう先に進めばいいのかわからなくて困ってるんだろう?」

いつの間にかすぐ隣まで来ていた社にニッと笑われ、俺はぎくりとした。

さすが、俺の事をよく見てると言うか、さすが親友と言うべきか……


そうなのだ。
全く会えてなくて寂しいのは寂しいのだが…正直この先最上さんとどう接していけばいいのか、それを悩んでいたのだ。


今まで誰とも付き合ったことがないわけではないけれど…それはいつも『彼女』達から告白されて付き合って…というパターンだった。

デートに誘うのも『彼女』達、その手のお誘いも『彼女』達。
そして別れの言葉も『彼女』達から……

もちろん『彼女』達はそれぞれに好きだったし、付き合ってる時は自分なりに大事にしてきたつもりだったのだけど。



でも、俺は最上さんと出会って知ってしまった。


今までの『彼女』達への思いは、本当の「好き」ではなかったと。

本当に人を好きになると、こんなに余裕がなくなってカッコ悪い自分が現れるなんて思いもしなかった。

ちょっとしたことでも幸せを感じられて、ちょっとしたことが酷く気になって。
彼女の声が聞けるだけで、顔を見ることができただけで…心が温かくなる。

こんな気持ちになったのは、本当に最上さんが初めてなんだ。

だから、あの日うっかりキスをして泣かせてしまった事を、俺は未だに後悔していた。

ファーストキスって言ってたもんな…
女の子って、「初めて」は夢見るってみんな言ってたし…
本当に申し訳ない事をしてしまったと思ってる。

しかし、申し訳ないと思ってはいるんだけど、もっと最上さんに触れたいのも本当の気持ちで。


俺は罪悪感と欲望の狭間で闘っている真っ最中だった。


「そうなの?じゃあ、今度の自宅デートで押し倒しちゃえば?」
「貴島…本当にそればっかりだな。」
「だって女の子は男のリードを待ってるもんなんだよ!両思いなんだから、そこはびしっと決めておきなよ。」
「おーおー、さすが慣れてるたらしは違うねぇ。蓮は天然すぎるたらしだから、お前みたいにはいかないよー。」
「えー?まぁね!女の子の口説きテクはまかせろ♪」


貴島と社のやりとりを聞きながら、せめて今度の週末は何か進展があればいいんだけどな…などと、俺はぼんやりと考えていた。




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悩める蓮くん続いてました。

ああ、ボーイズトークって…どうしてこうギリギリな内容が多いんだ!
そしてきょこ不在orz

貴島氏はなんだかぶっちゃけ君な感じになってますね。
でもきっと、ティーンエイジャーな時代の彼はそうだと思うの。


次できょこたんでてくる予定(未定)