日付を超えてだるまやまで送っていただくと、仲の良い女性誌の記者さんが一人、だるまやの店の脇で待ち構えていた。

「こんばんは、敦賀くん京子ちゃん!」
「…また貴女ですか。」
「あ、あの、こんばんは。」

一気に不機嫌になる敦賀さん。
それはそうだ。

何しろ彼女は、敦賀さんの『初スキャンダル』を写真に収めることを命じられてやってきている芸能担当の記者。
所謂パパラッチのような存在なのだ。

そして、私のことは本当に彼女と思っていないらしい。
まぁ、初めて会った頃は付き合う前だったから、ずっとそうだと思い込むのもしょうがないのだけど。

敦賀さんとしてはその思い込みも、何故だかイラツボの一つらしくて……

………よくわからないけど、変な敦賀さん。

「京子ちゃん、週末は敦賀くん誰かとデート言ったとか言ってた?」
「へ?いえ、特には…」
「あぁん!そうなのー!?可愛い後輩になら、恋愛自慢の一つや二つくらいしそうなのになーっ!」

お姉さんは、いきなりどストレートに話を斬り込んでくる。

くねくねと体をしならせながら喋る様は少しだけオカマっぽくて、実はオトコの方なのかと言ってしまいたくなる。
まぁちゃんと話してみれば、中身は普通のお姉さんなのだけど。
よく会ううちに色々と話をするようになって、仲良くなったのだ。

でもそれが余計敦賀さんのイラツボを突いてしまっているのだけど……

「って言うかー!まぁた京子ちゃんったらこんなツナギ着て!そりゃ確かにこんなドピンク着てたら『敦賀くんの彼女』って、勘違いされなくていいかもだけどぉ。それじゃ京子ちゃんの幸せと彼氏候補も逃げちゃうわよ?もうこんな激しい色使い、呪いよ呪い!」
「は、はぁ……」

ハイテンションなお姉さんは捲し立てて一方的に喋るので、私は返事をするのが精一杯。
隣で更に空気を2・3度下げる敦賀さんにもヒヤヒヤする。

(お願い、二人とも余計なことは言わないでっ!)

一人鈍感力が物凄く発達しているのであろう、『彼氏との出会い』方を享受してくれるお姉さんと、イライラしすぎて今にも『キョーコは彼女です』と言ってしまいそうな敦賀さん。

私にとっては、どっちも爆弾!

「じゃあ何かあったら情報よろしく!じゃねーっ☆」

本当に軽いノリでぴらぴらと手を振って、お姉さんは消えていった。

「……二度と来ないでほしい。」
「ははは…しょうがないですよ、お姉さんもあれがお仕事ですから…」

どちらの爆弾も無事(?)不発に終わり、嵐が去った元に残るのは機嫌の悪い敦賀さん……

これ、明日社さんにまた聞かれるんだろうなぁ。
『蓮が機嫌悪いんだ!キョーコちゃん喧嘩したの!?』って………

それはそれで困るので、敦賀さんの方に向き直り、肩に手をかけると体重も思いっきりかけて敦賀さんの体を傾けさせ、頬に〈ちゅっ〉とキスをひとつした。

「こっ、これで機嫌直してくださいっ!では送ってくださってありがとうございましたぁーっ!!」

こんな恥ずかしいこともうしたくなくって、さっさとお店の裏にある家の玄関まで走って逃げる。

玄関の扉を閉める直前にちらりと見た敦賀さんは……街灯から少し外れた暗い場所に立っていてもわかるくらいに顔が赤くて……

照れる姿が何とも可愛いと思ってしまった。

ドアに凭れて、今見た敦賀さんの姿を思い起こす。

(……あれは反則よ。可愛すぎるだなんて……)

ドキドキ早まる鼓動を必死に落ち着けようとしていると、携帯が震えてメールの着信を告げる。

慌てて確認をすると『次は口にお願いね…?』と、敦賀さんからの一言メッセージだった。

(っばか……)

頬にするだけでこんなに勇気がいるのに…唇にしなくちゃいけないだなんて、破廉恥過ぎて死んじゃう。

「……も、お風呂入っちゃお。」

きっと顔が熱いのは、赤い顔になっちゃってるから。
とにかく冷水で冷まさないとと思い、大将やおかみさんに帰宅のご挨拶をする前に洗面所へ入り込んだ。





これが私の日常。

敦賀さんの電話で始まって、敦賀さんの電話やメールで終わる。

間に学校やお仕事があって、会える日は敦賀さんに会って………

だけど、敦賀さんが占める割合がとっても多い。



でもね?
この状況に慣れてしまうわけにはいかないの。

だって私は、もう二度と同じ過ちを犯さないって決めてるの。


大丈夫。まだ私は、大丈夫。


私は……わたしは…………。



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切りどころがわからなくて、とんでもないことになっていた回。
切ってみたけど、やはり後半が長過ぎたのね。
もう立派に1話orz

と言うわけで、本日のあとがきはすっぱりさっぱり書かないぞ……!