―――PM11:10


敦賀の坩堝に嵌まったキョーコは、午後の収録中坊らしくない動きばかりをしてしまい、またプロデューサーにこっぴどく叱られていた。

「………京子ちゃん大丈夫?とりあえず、今夜は更衣室借りてシャワーでも浴びてさ!さっぱりして気分変えてから帰りなよー」
「そうそう、もう遅いからねー!ホント気をつけて帰ってね?」

キョーコのことを気に入ってくれているスタッフが数人、キョーコへのお小言終了後、励ましにやって来てくれた。

「はい…皆さんありがとうございます…」

優しくしてくれるスタッフに軽く挨拶をすると、キョーコはぷきゅぷきゅと足音を鳴らしながら控え室へと向かっていた。

(うう…もっとしっかりしなきゃいけないのに…)

だけど、キョーコの頭を占めるのは立ち去り際の蓮の姿。

『理由なんてないよ……それくらい好きなんだ』

「あああああ~~~~っ!!!どうしよう!どうするべきなのこういう時って!?」

坊の胴体のまま、ぐるぐるとした思考回路のキョーコはごろごろと揉んどり打つ。

「……そういう時は、とりあえず素直に捕まってみるといいよ。」

一通りごろりとした後、静かに横になるずむっと丸い体を抱き起こす両手が現れ、キョーコはビックリした。
その両手は、キョーコを抱き起こすとそのまま坊の頭を外す。

…自分を抱き起こした人物は声ですでに特定できてはいたが、改めて目の前の視界が広がると同時にその美貌の持ち主を確認することとなった。

「敦賀さん…………」

今、まさに自分の頭を100%占める存在の登場にキョーコは鬼ごっこ中であることをすっかり忘れたのだが、ふと自分が坊の姿であったことに気づき、慌てて言い訳を考え始めた。

「あっ!あのですね!?この姿はなんと言いますか…人助けと言いましょうか……っ」

当然ながら麻痺した思考回路ではまともなことが思い付かず、しどろもどろな言い訳になってしまうが、蓮はそんなあわあわとするキョーコを力一杯抱き締めた。

「いいよ。椹さんからみんな聞いた。……最初っからこの仕事は君だったんだって?」
「え…はい、そうですけど…怒らないんですか?騙してたこと。」
「騙すって…?それにどれに対して怒られたいのかな?初めて会った時『嫌い』って言ったこと?それとも悪徳勧誘みたいに『好きな子を落とせ』と言ったこと?それとも…」
「いえいえいえ!もう結構ですから~~~っ!!」

『坊』としての今までのキョーコのことを、意地悪くつらつらと述べる蓮の口を慌てて塞ぐ。
涙目で必死に自分の口を塞ぐキョーコに、蓮はぷぷっと噴き出してしまった。

「~~~っ!!なんですかもうっ!私、そんなにからかい甲斐がある後輩ですか!?どうせおかしな子だってことは自覚ありますよーっだ!」

クスクスと笑い続ける蓮に、キョーコのご機嫌はすっかり斜めだ。
頬を思いっきり膨らませて抗議の意を示すのだが…
キョーコの姿をずっと追い求めていた蓮にとっては、それすらひたすら可愛らしくてしょうがない行動で……
結果、ますます笑いが止まらなくなってしまう。

「もうもうもうっ!!知りません!敦賀さんなんか知りませんっ!!」
「ごめんごめん…だって可愛くてつい…」
「かっ…!?可愛いとかそんな簡単に言っちゃいけないんですよ!?誤解しちゃう子いっぱいいるんですからダメなんです!」

ぎゅうぎゅうに抱き締められたままぷりぷりと怒るキョーコに、蓮は相好を崩したままだ。

「うん、これからは気を付けるよ。だって、誤解して欲しい人は最上さんだけだから。」

「………お昼も言ったよね?君が好きだよ。」

やっと捕まえたキョーコのことを離すことなく、蓮はその想いを伝えた。



*ファイナルラウンド winner 蓮*



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はい、次が最終回な予定!
うん!きっと!絶対!!←いつもこう言って続けちゃうから宣言しちゃう!

やっと罠脱出目前よー!!
さりげなく今月は罠抜け月間目指してますので、しばらく罠が続くと思われます。

しかし……息子の風邪は困りました。
夜中も離れた瞬間に起きて泣かれちゃうので困りものです(ノд<。)゜。