昔、『坊』が初めて蓮に会った場所にキョーコはいた。
あの日あの時蓮が腰かけていた場所に、今度はキョーコが腰かけて。

(………そりゃ、今日はこの仕事、スケジュールに書かせなかったのは私なんだから)

闇雲に探さなければいけなくなった蓮が、色んな人に捕まることはしょうがないことなのだ。
キョーコはわかってはいたが…でもどうしても、しつこいアイドルや女優などにベタベタ触られる蓮を見ていると心がもやもやとしてくるのを止められなかった。

(だって私はただの後輩なのよ?私がどうこう言える立場なんかないのに……)

『触らないで』

勝手な気持ちが溢れてきて、ますます自己嫌悪に陥ってしまう。

「……うんっ、休憩時間終わっちゃうよね!うじうじしないっ!私はまだ大丈夫なんだから……!」

キョーコは自分の両頬をふたつ〈ぺちんぺちん!〉と叩くと、坊の頭を被った。

目眩ましにちょうどよかったし、今の休憩時間は長くもなかったので、坊をそのまま着込んでいたのだ。

「…あれ?君は………」

その時、何とも絶妙なタイミングで蓮が現れた。

(げっ!敦賀さん……!もしかしてバレた!?)

坊の中のキョーコは一気に冷や汗をかき始める。
ドキドキと鼓動が一気に早くなる。
『最上キョーコ』だとバレたのかどうかもわからなくて声を発せないでいると、蓮の方から声をかけてきた。

「やあ、久しぶりだね。元気にしてた?」
『よ、よう!敦賀くんじゃないか!僕はいつだって元気さ!』

普通に声をかけられたことでまだバレていないものとキョーコは判断し、声のトーンを変えて『坊』になりきる。

『そういう敦賀くんこそどうしたのさ?また何か分からないことでもあるのかい?』
「あ、いや。人を探しているんだ。こっちに茶色の髪をした高校生くらいの女の子が来なかった?」
『え゛…と、どうしたの?』

坊の正体がバレていないのは喜ばしい事態なのだが、自分の行方を聞かれて何と返すべきか悩んでしまう。
動揺してうまく返せないでいると、蓮は「見てない」と判断し、体を翻した。

「いや、見てないならいいんだ。じゃあ急ぐから。」

蓮にしては、らしくなく坊の元から立ち去ろうとするので、キョーコは思いきって聞いてみた。

『その子、探してどうするの?』
「え…ああ、君には話したことあるからいいかな?
今ちょっとかくれんぼ…じゃなくて鬼ごっこ中なんだけど、何か誤解してるみたいだからそれを解いて『好きだ』って伝えたいんだ。」
『……へっ………好き?』

(何かしら?今、思いっきりおかしな言葉が聞こえた気が……)

「ほら、前に話しただろう?『4つ年下の高校生の女の子』。社長命令で、何だか色々やらされてるんだよ。」

蓮の『好き』と言う一言で、思考回路が混線気味になっているキョーコ…坊に、蓮は次々と『誰を好き』なのか明かしていく。


『4歳年下』『高校生』『名前がきょうこ』
極めつけは『社長命令で鬼ごっこ』

……………………わたしのこと!?

「タイムリミットが今夜だから、今はとにかく急いでいるんだ。また今度ゆっくり話してくれるかい?」

今にも走り去っていこうとする蓮に、キョーコは叫んだ。

『どっ!どうしてその子なの!?見たところ普通の子っぽかったんだけど…』
「理由なんてないよ、でもその子じゃなくちゃ駄目なんだ。それくらい好きなんだ。」

それだけ言うと、今度こそ蓮は倉庫の入り口の方へと走り去っていった。

『え……ええ?……はぅえ~~~~~っ!?!?』

残されたキョーコは、完全に思考回路がショートしてしまい、奇声を上げたまま暫くボーゼンと立ち尽くしていた。



*第6ラウンド winnerキョーコ(坊と気づかれずに隠れ勝ち)*




でもその心は………?



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まあ、伏線が伏線としてではなく堂々と陳列してあったため、皆さん先の展開が読みやすかったかと。
居たのは坊でした。
直前に来てればキョーコだったけどね☆

知らないとはいえ堂々と本人に『好き』と言い逃げする蓮………
き、気付いてたらもっと簡単には確保できたのに、あなたったら…