―――PM9:30


蓮は少し焦っていた。
同じ局内にいるはずなのに、キョーコが全く見つからないのだ。

楽屋やスタジオ前での張り込みは禁止されているので(いられても5分)、それ以外の場所をひたすら見て回っているのだが、それでも見つからない。

(おかしいな…ルール上では、最上さんも一所にずっと隠れてはいられないはずなんだけど。)

これだけ探しても見つからないと言うことは、こちらの動きを誰かが教えているのではないか……

そう思い始めた時、ようやっと前方に目当ての人物を見つけることができた。

(このチャンスを逃せば、あとは今夜の終了時間直前しかない…!)

蓮は息を整えると、そうっと足をキョーコに向けた。





「はぁ…意外と気力も使うのね。」

キョーコの仕事は先ほど休憩時間に入り、楽屋へと戻る途中だった。

蓮がテレジャパに入る時間辺りから、楽屋とスタジオの移動は遠回りしたり、スタッフに紛れて夕食を摂ったり……
見つからないようにと、ひたすら気配を消して行動していた。

結果、神経を集中しすぎて、疲労の蓄積ペースがいつもより早いのだ。

「できることなら、鬼ごっこに集中したい……」

ため息をつきながら廊下をとぼとぼと歩いていると、急にぞわっと寒気が走った。

『親びーん、隠してはあるけど心地好い怒りの波動が近づいてま~す♪』

頭のてっぺんから怨キョレーダーがシャバダバ喜んで飛び出してくる。
キョーコが後ろを振り返らずにいきなり走り出すと、背後から『ちっ!』と小さく舌打ちする声が聞こえた。
ちらりと確認すると、最上級のきゅらきゅら似非紳士笑顔を振り撒く、威圧感満載の鬼が詰め寄ってきている。

(おっ、怒りすぎて性格変わってませんか~っ!?)

素敵な笑顔は『温厚紳士な敦賀蓮』の仮面なのだが、その裏の感情を感じとることができるキョーコや社にとっては恐怖以外の何物でもない。
リーチの差から、全力で走って逃げているはずのキョーコはどんどん追い詰められていた。

(ウソウソ~!?この先は行き止まりになっちゃう!あっ、とりあえずあそこに…っ)

行き止まりになる前に、目についた女子トイレへと駆け込んだ。
ここなら蓮は入ってこられない。

ほっとしてトイレの扉に寄りかかると、〈コココン!〉と扉を強めにノックされた。

「最上さん、どうして逃げる?」
「そりゃそういうゲームですし、敦賀さんが怖いからですよ~っ!!」
「だって君は俺のことが好きなんだろう?なら逃げる理由はないじゃないか。」
「~~~っなんでそんなこと言っちゃうんですか!
嫌いです、敦賀さんなんか大っ嫌いです!!」

扉一枚隔てた攻防戦は、事情を知る人が聞いたら『このバカップルは何をしているんだ…?』とツッコミが入りそうなのだが。
悲しいかな女子トイレ前で開けてと懇願する『ゴージャスター敦賀蓮』を見ている者の中に、事情がわかるものなどいない。

みんなただ何かの見間違いではないだろうかと、目の前の出来事から現実逃避していた。

「蓮ーーーっ!!お願いだから、『敦賀蓮』のイメージが壊れることだけはやめてくれぇ~~~~っっっ!!」
「敦賀様。5分が経ちましたので、このフロアーからは退いていただけますでしょうか。」

そのうち、やっと二人に追い付いた社が蓮にすがり付き、褐色の青年が静かに退去命令を出す。

「……わかりました。社さん、行きましょう。」

だばだばと涙を流す社を引き摺って、蓮は女子トイレを後にした。

そのやり取りを聞いていたキョーコは、ほっとため息を吐いてふと横に設置されていた鏡を見る。

「敦賀さんのいじめっ子……やっぱり、敦賀さんなんて嫌いよ………」


真っ赤に染まった顔、潤んだ瞳。

そこに写し出されていたのは、間違いなく『恋する女の子・最上キョーコ』だった。



*ラウンド2 winnerキョーコ(トイレに逃げ込み勝ち)*



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トイレ前での攻防戦w
原作のトイレ前での挨拶指導エピが大好きです(´ψψ`)
だーっと涙を流すキョーコ、無駄にキュラキュラと笑顔を振り撒く蓮(そのあと泣かしてから「ぷっ…」と吹き出す姿もいいわw)。
そしてすごい顔するやっしーwww

今回泣いてるのはやっしーですけどね☆

しかし本当に、不安………感じてたのよね?この人(蓮)。
壊れたわよ?