―――PM3:00

奏江は珍しく打ち合わせのみのゆるい日程で事務所に寄っていた。
ついでに、謎の通知を社長秘書にさせた親友にも会えればいいなと期待を込めて。

込めた期待はすぐに実った。

ラブミー部へ向かう為にエレベーターホールへ向かうと、裏口通路からこっそりと頭を覗かせきょろきょろこそドロのような動きをしているキョーコを見つけたのだ。

「…あんた、また何やってんの。」
「え…あ!モー子さぁぁんっ♪」

奏江を見つけた瞬間、ぱあっと笑顔が輝くキョーコ。
いつものように抱きついてこようと飛び掛かってくるのを、奏江はマタドールのようにひらりとかわす。
壁にそのまま激突したキョーコに向かって、仁王立ちで質問を始めた。

「あんたねぇ、自分で携帯の新しい番号を通知できない状況ってどういう事よ!」
「あう、ごめんなさいモー子さん…私も昨日の夜受け取ったばかりなの。」
「それも何?敦賀さん社さんには教えるなって…あの執事に言われたわよ?
あんた、今度はいったい何やらかしたのよ…」
「それが…」

奏江の問いに答えようとしたキョーコは、いきなり肩をビクッと震わせて辺りを見渡し出した。
そして何事かと思えば、エレベーターの上昇のボタンをひたすらに連打。

「…何してるの?」
「ごめん!詳しくはラブミー部室で話す!早く乗って!!」

たった今来たエレベーターに降りる人も待たず奏江を詰め込むキョーコ。
「何!?」と問おうとする奏江の耳に、遠くから蓮と社の声が届いた。

「最上さん待って!」
「キョーコちゃぁーん!!」

徐々に閉まる扉の向こうに見えたのは、長い足を駆使して事務所の廊下を走ってくる蓮と。
その蓮を必死の形相で追いかける社だった。

しかし、エレベーターの扉はそのまま閉まり、目的の階へと昇っていく。

「………何あれ。」
「今敦賀さんに捕まると、私の命はおしまいなの…!とにかく部室へ全力で走って!」

あっさりとラブミー部室のある階へと到着すると、これまた奏江を置いていかんばかりの疾走を見せるキョーコ。
頭にクエスチョンマークを飛ばしつつも走ってついていくと、またも背後から蓮の声。

「最上さん!!」
「ぎゃーーっ!!もう追い付かれたー!!」

養成所で鍛えられた素晴らしい声量が、フロアーの空気を激しく揺らす。

蓮はあっという間に奏江を抜き去り、キョーコまであと数メートルという所まで寄ることが出来たが。
残念なことに、子ウサギはラブミー部室の扉をガンっと開け、そのまま入り込んでしまった。

「最上さんっ!」

蓮も慌てて部室の扉をくぐろうとするのだが………

〈ピピーッ!!〉

突然現れた褐色の青年に、笛を吹かれてしまった。

「敦賀様。部室への立ち入りはルール違反です。」

今日の彼は、全身黒のスーツで固めており、かの有名なおいかけっこ番組のエージェントのようだ。

「ちなみに部室前での張り込みは5分までとなっております。」
「…5分を過ぎると?」
「このフロアーからは一度出ていただくことになります。」
「………はぁ、ルールが細かいね。逃げ込まれたらアウトってところかな?
社さん置いてきちゃってるし、次の時間に持ち越すよ。」
「かしこまりました。御健闘をお祈りいたします。」

深々とお辞儀をする執事を見やると、子ウサギを仕留め損ねた鬼は奏江の横をすっと通りすぎて行った。

執事の彼も、蓮がエレベーターホールへ向かうのを確認すると、音も立てずにいなくなる。

廊下に一人残された奏江は嵐のような一時の終わりに、頭を抱えてしゃがみこんだ。


「私、今度はいったい何に巻き込まれるの………」


【鬼ごっこのルール―一部抜粋―】

・蓮はラブミー部室への入室は禁止
・待ち伏せは5分間のみ
5分を過ぎたらそのフロアーから退去



*第一ラウンド…winner キョーコ*



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書いてて思う。
このルール、あほすぎるorz
でも体格差も体力差もありそうなので、ルールは必須。

キョーコが蓮に反応したのは、やっぱり怨キョレーダーだと思ってます。