―――AM6:50

睡眠時間が不十分な男が二人、社長専用応接室のふっかりとしたソファーに腰かけていた。

社長に呼び出された蓮と、その蓮から電話をもらい、予定時間よりかなり早くに迎えに来られた社だ。

二人とも朝だと言うのに少しだけ表情に疲労の色が見てとれる。

「おお、時間よりも大分早かったなぁ。」

のんびりとした口調と歩みで部屋へ入ってきたのは、昨晩謎の電話を入れて二人を混乱に陥れた張本人。
シャワーでも浴びていたのか、珍しく浴衣を着ていた。

(社長が浴衣って………地味だなぁ)

絣地の浴衣は年相応の落ち着きを演出するのだが…
しかし全く落ち着いていない普段のローリィを知ってるだけに、二人とも違和感を拭えない。

が、何はともあれまずは挨拶。

「「おはようございます。」」
「おう、おはようさん。じゃあどこから話したらいいか?」

軽く挨拶の言葉を述べると、ローリィはさっさと本題を切り出した。

「まずは何がどうなってるのか説明してください。
最上さんの携帯は繋がらないままなんですよ。彼女は無事なんですよね?」

一晩中心配していた蓮は、とにかく第一にキョーコの現状を把握したかった。
しかし、そんな蓮の心配を吹き飛ばすような答えが返ってくる。

「彼女なら自分で携帯をへし折ったらしいぞ?お前が心配するだけ無駄無駄!」「は?へし……?」
「今回のゲームはな、『二人だけの鬼ごっこ』だ。お前が鬼で、48時間以内に最上くんを捕まえて愛の告白をする。簡単だろう?」
「「はい…………!?」」

蓮も社も、この突拍子もない社長のゲームに目が点になる。
『何故突然鬼ごっこ?愛の告白???』と、心の声が完全に駄々漏れている二人のために、ローリィは補足説明として、あの日の話をした。



「まぁ、そんなわけでだな?最上くんはお前が好きだとはまるで思っとらんよ。」
「それは…脈なしって訳ではないのに、蓮が憐れになりますね……」

普段から妹のように可愛がっている少女の歪んだ恋愛思考回路はわかってはいたものの、ここまで来ると恋する弟分が不憫になる社。
うっすら涙目になりつつ、「蓮はどう思ったんだろうか…」と視線を移すと……

「ひいぃ……っ!!(闇の国の蓮さん!!)」

明らかに不機嫌顔で、周りの空気を凍らせる蓮がいて、社は顔を一気に青ざめさせた。

「へぇ……それはそれは。最上さんも本当に困った娘ですよねぇ………
もう本当にどうしてくれようか………」

真っ黒な笑みを浮かべくすくすと笑う蓮に、ガクガク震えるしかない社が願うことはただ一つ。

(蓮、犯罪にだけは走らないでくれ………!!)

「だから最上くんを捕まえて、悳と愛について語りたまえ。
ちなみに昨日の11時半から鬼ごっこはもうスタートしてるんだ。残り時間は39時間ほどと言うことになる。」
「えぇ!?もうスタートしてるんですか!?って蓮のスケジュールは詰まってますよ?捕まえに行く時間がないんじゃ、蓮には不利じゃないですか!」

48時間という時間を切られると、確かに分刻みのスケジュールをこなす蓮には分が悪い。
社がローリィに抗議すると、それすらも予測の範囲な男はニヤリと笑う。

「まぁ色々細かいルールはあるんだがな?この2日間はお前たち、同じような場所で仕事入ってるんだよ。だから蓮なら出来る、大丈夫だから。」

執事に2枚の紙を持ってこさせ、二人に渡す。

「1枚はこの2日間の最上くんのスケジュール。もう1枚はお前の変更後のスケジュールだ。ちゃんと鬼ごっこ時間を捩じ込んでやってるから、まあ頑張れよ。」

社が慌てて蓮のスケジュールの方を確認すると、いつもなら分刻みで入っているはずのスケジュールはいくつか変更が入っており、その隙間時間に色が付いていた。
キョーコのスケジュールにも同じ時間帯に同じ色。

「スケジュールの変更はちゃあんと俺がしといたからな、安心しろ。」

ローリィは立ち上がると社にさらにもう一枚、蓮の変更した予定の組み込み先を伝える1ヶ月の予定表を渡し、ポンポンと彼の肩を叩く。

そして、蓮に「にっ」と笑って見せた。


「さぁ、思う存分暴れて来い。」




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すみません、ヤローばっかりだとどうにも書くペースが上がらない……

続き頑張ろう………