―――『不安な夜 1話』より3分後―――
「最上様、お迎えに上がりました。」
蓮のマンションの下でキョーコを待ち構えていたのは、街中でよく見かけるようなタクシーではなく。
褐色の執事が運転するモダンなクラシックカーだった。
「別に『お迎えは結構です』とお伝えしたはずですが…」
「いえ、旦那様からのご命令ですので。『ゲームのスタートは最上くんが決めたまえ!』との伝言です。」
優秀な執事は声までそっくりに、全力で主の真似をする。
一切動かすことのない表情筋、しかし口から出る言葉はテンション・アクセント全てにおいてハイテンションなローリィに完璧に似ていて、若干不気味でもある。
「はい…あ、すみません。お願いしていた物は……」
「こちらにご用意しております。」
いつもの口調に戻った彼が差し出したのは、新しい携帯。
「ご依頼の通り、敦賀様以外の携帯番号は全てこちらの新しいものに移してあります。敦賀様・社様以外には新番号は通知済みです。
今すぐ使われることも可能です。」
「ありがとうございます。」
新しい方の携帯を受け取ると、キョーコは今までの携帯をじっと見つめた。
(敦賀さんが私を…?だって、そんな態度やっぱり今夜もなかったし。
…と言うか、私が考え込みすぎて挙動不審だったし)
今夜の蓮と過ごした時間を振り返り、そっと溜め息を吐く。
最近、自分の想いを隠すことだけでも必死で、彼の目線の先をとにかく見ないようにしてきた。
と言うか、見たくなかった。
その先に彼の想い人を発見したくなかったから。
(いつかは見ないといけないのなら、その『いつか』が来るまで見たくない……っ!)
あくまでも、蓮の想い人は自分であるとは考えないキョーコ。
あと数十センチで触れ合える。
そんな距離に自分を置くくせに、自分の心を魅了するくせに。
心の中に『きょうこちゃん』を住まわせるあの人が、いっそ憎い。
ふぅ、と息を一つ吐くと、古い方の折り畳み式携帯をバキッと真っ二つに割り、青年に手渡した。
「こちらは壊れてしまったので、解約でお願いしますね?
…これでゲームスタートです。」
「……かしこまりました。」
パッキリと綺麗に割れて2つになった元携帯を受け取ると、1本短めの電話を入れる青年。
「では。本日23時30分、ゲーム開始といたします。
本日はもう、だるまやへとお送りいたしますので、どうぞ御乗車くださいませ。」
執事は懐中時計を見つつ、ゲームのスタートを高らかに宣言すると、キョーコを後部座席へ乗せるために車のドアを開けて恭しく頭を下げた。
それは、蓮がキョーコにメールを出す、僅か15分前のこと―――
*
『User unknown』
そんなタイトルのメールが機械的に送りつけられた男は、今何が起こっているのか理解できなかった。
当たり前だ、全ては彼の預かり知らないところで進んでいる話なのだから。
(あの礼儀正しい最上さんが、番号やアドレスを変えて教えない…?そんなことはないはず)
なにか事件や事故に巻き込まれたのではないかと心配になってきた蓮の元へ、一本の電話がかかってきた。
慌ててディスプレイを確認すると、それは彼の社長から。
『おう、出るの早かったなぁ。どこかに電話でもかけてたか?』
「こんばんは社長。あの、最上さんの携帯が…」
『ああ。彼女なら繋がらんぞ。さっき壊したと連絡が入ったからな。』
「壊した?」
『壊した』とはまたどういう状況で…いや、どうして社長がそのことを知っているのだろうか。
蓮はまだ状況を飲み込めない。
『で、お前鬼だから。ゲームはスタートしたからとりあえず知らせるだけは知らせとこうと思ったんだよ。』
「…………は???…鬼?……ゲーム??」
「おう、詳細は明日の朝教えてやるから事務所に寄れ。7時に待ってるぞ。」
事前に何も知らされていない蓮は、ただひたすらに頭上にクエスチョンマークを飛ばすばかりだ。
ローリィは特に詳しく説明する訳でもなく、用件だけ伝えるとさっさと通話を終了させてしまった。
『ツーツー』と、通話の強制終了を告げる音を聞きながら、蓮は悟る。
「………最上さんを巻き込んで、今度は何を企んでるんだ………」
自分一人ならいざ知らず、愛しいキョーコが巻き込まれている。
しかもそれは携帯電話が壊れるような『何か』で………
何とも言えない不安な夜を、蓮は一晩過ごすはめになった。
************
いつも思う。
うちのキョーコはどうしてこう突拍子もない事をしでかすのだろうか。
よそ様の『不安な夜』では、何か事故に巻き込まれたりとかして不可抗力的に携帯壊れたとか、シリアスに携帯そっと換えてたとかなのに。
うちのキョーコ………
自らぶっ壊しましたぜ!
この話もラブレボに負けず劣らず斜め上な予感orz
そして知らない間に鬼にされてる蓮も不憫^^;
「最上様、お迎えに上がりました。」
蓮のマンションの下でキョーコを待ち構えていたのは、街中でよく見かけるようなタクシーではなく。
褐色の執事が運転するモダンなクラシックカーだった。
「別に『お迎えは結構です』とお伝えしたはずですが…」
「いえ、旦那様からのご命令ですので。『ゲームのスタートは最上くんが決めたまえ!』との伝言です。」
優秀な執事は声までそっくりに、全力で主の真似をする。
一切動かすことのない表情筋、しかし口から出る言葉はテンション・アクセント全てにおいてハイテンションなローリィに完璧に似ていて、若干不気味でもある。
「はい…あ、すみません。お願いしていた物は……」
「こちらにご用意しております。」
いつもの口調に戻った彼が差し出したのは、新しい携帯。
「ご依頼の通り、敦賀様以外の携帯番号は全てこちらの新しいものに移してあります。敦賀様・社様以外には新番号は通知済みです。
今すぐ使われることも可能です。」
「ありがとうございます。」
新しい方の携帯を受け取ると、キョーコは今までの携帯をじっと見つめた。
(敦賀さんが私を…?だって、そんな態度やっぱり今夜もなかったし。
…と言うか、私が考え込みすぎて挙動不審だったし)
今夜の蓮と過ごした時間を振り返り、そっと溜め息を吐く。
最近、自分の想いを隠すことだけでも必死で、彼の目線の先をとにかく見ないようにしてきた。
と言うか、見たくなかった。
その先に彼の想い人を発見したくなかったから。
(いつかは見ないといけないのなら、その『いつか』が来るまで見たくない……っ!)
あくまでも、蓮の想い人は自分であるとは考えないキョーコ。
あと数十センチで触れ合える。
そんな距離に自分を置くくせに、自分の心を魅了するくせに。
心の中に『きょうこちゃん』を住まわせるあの人が、いっそ憎い。
ふぅ、と息を一つ吐くと、古い方の折り畳み式携帯をバキッと真っ二つに割り、青年に手渡した。
「こちらは壊れてしまったので、解約でお願いしますね?
…これでゲームスタートです。」
「……かしこまりました。」
パッキリと綺麗に割れて2つになった元携帯を受け取ると、1本短めの電話を入れる青年。
「では。本日23時30分、ゲーム開始といたします。
本日はもう、だるまやへとお送りいたしますので、どうぞ御乗車くださいませ。」
執事は懐中時計を見つつ、ゲームのスタートを高らかに宣言すると、キョーコを後部座席へ乗せるために車のドアを開けて恭しく頭を下げた。
それは、蓮がキョーコにメールを出す、僅か15分前のこと―――
*
『User unknown』
そんなタイトルのメールが機械的に送りつけられた男は、今何が起こっているのか理解できなかった。
当たり前だ、全ては彼の預かり知らないところで進んでいる話なのだから。
(あの礼儀正しい最上さんが、番号やアドレスを変えて教えない…?そんなことはないはず)
なにか事件や事故に巻き込まれたのではないかと心配になってきた蓮の元へ、一本の電話がかかってきた。
慌ててディスプレイを確認すると、それは彼の社長から。
『おう、出るの早かったなぁ。どこかに電話でもかけてたか?』
「こんばんは社長。あの、最上さんの携帯が…」
『ああ。彼女なら繋がらんぞ。さっき壊したと連絡が入ったからな。』
「壊した?」
『壊した』とはまたどういう状況で…いや、どうして社長がそのことを知っているのだろうか。
蓮はまだ状況を飲み込めない。
『で、お前鬼だから。ゲームはスタートしたからとりあえず知らせるだけは知らせとこうと思ったんだよ。』
「…………は???…鬼?……ゲーム??」
「おう、詳細は明日の朝教えてやるから事務所に寄れ。7時に待ってるぞ。」
事前に何も知らされていない蓮は、ただひたすらに頭上にクエスチョンマークを飛ばすばかりだ。
ローリィは特に詳しく説明する訳でもなく、用件だけ伝えるとさっさと通話を終了させてしまった。
『ツーツー』と、通話の強制終了を告げる音を聞きながら、蓮は悟る。
「………最上さんを巻き込んで、今度は何を企んでるんだ………」
自分一人ならいざ知らず、愛しいキョーコが巻き込まれている。
しかもそれは携帯電話が壊れるような『何か』で………
何とも言えない不安な夜を、蓮は一晩過ごすはめになった。
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いつも思う。
うちのキョーコはどうしてこう突拍子もない事をしでかすのだろうか。
よそ様の『不安な夜』では、何か事故に巻き込まれたりとかして不可抗力的に携帯壊れたとか、シリアスに携帯そっと換えてたとかなのに。
うちのキョーコ………
自らぶっ壊しましたぜ!
この話もラブレボに負けず劣らず斜め上な予感orz
そして知らない間に鬼にされてる蓮も不憫^^;